月曜日は憤懣本舗。
去年の政権交代で夫婦はそれぞれの姓を選べるよう法律が改正される動きが見えましたが、実現には至りませんでした。
今回の憤懣の主は法改正をのぞんでいる75歳の女性。
夫と50年連れ添った女性はこの間、別姓にこだわって思い切った行動をとってきたのですが、人生の終盤を迎えてある決断を下そうとしています。
戦後の新しい憲法によって女性の自立が認められ、法の下で男女平等が実現した日本。
そんな戦後の日本で50年間仲良く連れ添って3人の子を育てた夫婦は今年、金婚式を迎えました。
自宅に掲げられた夫と妻それぞれ2つの表札。
妻は今、ある思いに駆られています。
<塚本協子さん>
「『塚本協子』で死にたい」
妻はなぜそうまで思うのか。
死ぬまでに夫婦別姓を選択したいという、静かな憤懣です。
75歳の塚本協子さんです。
<塚本協子さん>
「わたしパソコンはこの指でしか出来ないんです。両手を使えないんです。だって65歳で覚えたんですから」
今では9つのメーリングリストに登録して、家族や生き方について自分の思いを発信しています。
50年前、小島明久さんと結ばれた協子さん。
民法では婚姻すれば「夫または妻のどちらかの姓を称す」と定められていますが、ほとんど妻の側が姓を変えているのが実情です。
当時、協子さんもやむを得ず「小島」という夫の姓で婚姻届を出します。
しかし妊娠した時、「塚本」という姓へのこだわりが一段と強まってきたのです。
<塚本協子さん>
「大きなお腹をして裁判所とか弁護士さんに相談に行った。『塚本協子』で子どもの名前は『塚本』にするためにはどうするかって。わたしバカだから、問題がそこにあったらバーンとどんな強いもんであっても正面突破だわね」
当然、子には戸籍上の名字が受け継がれます。
思い悩んだ末、協子さんはなんと出産してまもなく離婚届を役所に提出したのです。
夫は理解してくれました。
<塚本協子さん>
「離婚したときに『小島』になっている子を家庭裁判所に持って行って許可を得て、私の戸籍、離婚したら私だけの戸籍ができるでしょう。そこに入れたわけなんです。そうしたら、『塚本協子』で『塚本○○(息子の名)』という当初の目的が達成されたわけです。二人ともあ、うんの呼吸でそれがなっていった感じ」
その後、しばらくは離婚したままの状態でしたが、再び結婚し2人目と3人目は夫の姓で育てました。
そんな夫婦の様子を見守ってきたいとこの女性は・・・
<太田美智子さん(72)>
「(当時は)今の離婚の考え方と全然違うでしょう、同じ離婚だと言っても。みじめな。離婚といったら男の家から追い出されたというイメージの強い時期だから。すごいなと思う」
協子さんが実家の姓にこだわる理由には母の存在がありました。
早くに父を失い、幼くして2人の姉も病死、一人娘となった協子さんは母親から「塚本」の姓はずっと受け継いでほしいといわれ続けてきました。
<塚本協子さん>
「母親が死んだら私は絶対『塚本協子』だっていう思いがよけいに強くなったんです。自分自身で心の底から望んでいるとわかったんです」
夫婦別姓を選択できるようにする民法改正案は14年前に法制審議会で答申され、衆参両院あわせるとこれまで20回にわたって法案が提出されましたが廃案になってきました。
そして去年の政権交代では・・・
<鳩山首相(当時)>
「私自身は夫婦別姓というものに前から基本的に賛成です」
<福島少子化相(当時)>
「いろいろ頑張りましょう。民法改正も」
<千葉法相>
「共通するところがね」
いよいよ法改正へカウントダウンと思われた今年3月、塚本協子さんは東京で決起集会に参加していました。
<塚本協子さん>
「もう嫌だ。待つのは」
別姓をのぞむ若い世代の人たちは・・・・
<妻・33歳>
「彼がとても柔軟で自分も名字を変えたくないけれど、私にいやな思いをさせたくないから僕が変えるよと言ってくれて」
<夫・33歳>
「妻のほうの思いが強いのでそれを尊重するために」
しかし、法改正は実現しませんでした。
夫婦別姓法案に違和感を感じている人もいます。
夫婦和合の道を謳いあげる謡曲「高砂」で知られるこの神社。
<小松守道宮司>
「左が赤松でメマツ、右が黒松。海岸には赤松は生えないが、黒松の根がしっかりと赤松の根を守っていただくという姿で相生の姿になる」
夫婦あい老いる秘訣を語った上で、宮司さんは別姓についてこう話します。
<小松守道宮司>
「どちらかの姓を選択出来ている、今でも。昔ですと嫁入り、又は婿入りという、どちらかの家の姓を名のる。同じ戸籍をもつということがやはり子どもたちにとっては幸せな家族の象徴としてまとまっている。非常にいいことだと思う。家に伝わることを代々伝えていく気持ちがないといけない」
一方、世論調査では選択的夫婦別姓を容認する男性は37パーセント、女性は36.2パーセントで賛否は割れています。
しかし20代の男女では4割以上が認めるとしていて、時代とともに意識は変化しています。
死ぬまでに夫婦別姓を選択できるようにしてほしいと願う塚本協子さん。
塚本の墓へお参りすると家族のことが思い出されて涙がでます。
塚本さんはこの墓に入ることを決めていて、さらに最近、夫とある約束をしました。
<塚本協子さん>
「夫はあの人は自分でむこうへ(小島の墓に)入ると決めているから、お骨を少し(このお墓に)頂戴よ、と言ったら『うんわかったよ』って」
その夫・小島さん(76)は今回の取材に対し「撮影は控えさせてほしい。 だが、別姓を願う妻の気持ちは理解できるし尊重したい」と話しました。
<塚本協子さん>
「私の生きている間になってほしい、選択的夫婦別姓が。『塚本協子』で死にたい。『小島』はいや」
協子さんは戸籍名を塚本に変える最後の離婚届を準備しながら、法律改正へと望みを託しています。