刑務所が高齢者や障害者などの社会的弱者にとって「最後の行き場」となってしまっている実態を、有識者はどう考えるのか。
「過剰収容の原因は治安の悪化」。00年代初めの「常識」に、浜井浩一・龍谷大大学院法務研究科教授(刑事政策)が疑問を持ったのは、横浜刑務所に勤務していた00~03年のことだった。
各受刑者の作業を決める「分類首席」だったが、新規受刑者の中で機械操作など普通の作業ができるのは2、3割程度と気付いた。高齢者や知的障害者、外国人、精神障害が疑われる人もいた。重い障害者は集団行動になじまず、独居房で紙を折るなどの単純作業をさせるしかなかった。
逆に配食や洗濯をして職員を手伝う「経理夫」と呼ばれる健常受刑者は不足していた。「生活苦や厳罰化で弱者が刑務所に流れ込み、過剰収容に結びついている」と思ったという。
その後、研究者となった浜井さんは今年、イタリアで調査。高齢化率や貧困率が日本に近いとされるが、塀の中に高齢者や障害者はさほど多くなかった。イタリアでは判決言い渡しの後、裁判官と医療・福祉の専門家からなる別の裁判所が刑罰の執行形態を決める制度がある。例えば、懲役刑を宣告された被告に、障害程度などに応じ「福祉施設で処遇」の代替刑を科す。憲法で刑罰の目的を「更生」と定めているためという。
浜井さんは「日本の検事、裁判官は刑罰の目的を『応報』や『一般予防』の意味でとらえ、更生という視点やそのための連携が欠けている。容疑者・被告人段階から『社会復帰につなげる刑事司法制度』を目指すべきだ」と提言する。
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心理技官として刑務所や少年院で勤務した経験のある大阪大人間科学部の藤岡淳子教授(犯罪臨床心理学)は「帰る場所がなくて刑務所に戻るという傾向は、今に始まる話ではない」と指摘する。
約20年前。女性が入る栃木刑務所では既に高齢化が進行中だった。帰る家も金もない高齢受刑者はすぐ万引きで戻ってくる。再犯のため刑期は長くなり、社会復帰は一層困難になる。藤岡さんはこうした傾向について「受け入れを嫌がる福祉施設や病院もあった」と振り返る。
現在、複数の刑務所で性犯罪加害者の処遇アドバイザーを務める。かつてに比べ、刑務所内外の連携は進んだと思う。名古屋刑務所の受刑者虐待事件を機に法律が変わり、社会復帰に向けた受刑者教育や、高齢や障害に沿う処遇も重視され始めた。
とはいえ、出所から半年以内の再犯率はいまだ高く、特に国の監視や支援を受けない満期出所者の課題は大きい。藤岡さんは「再犯率を下げるため、出所後の保護観察を義務化するなど出所後も処遇を継続すべきだ」と話す。【坂本高志、石川淳一】
毎日新聞 2010年12月3日 東京朝刊