きょうの社説 2010年12月3日

◎繊維産地の「自立化」 構造転換の歩みを着実に
 繊維リソースいしかわが会員を対象にした調査で、自社製品が生産量の5割を超える「 自立型」企業が全体の70%まで増えたことが分かった。石川の繊維産地にとって、脱下請けを意味する「自立化」は長年の課題であり、産地の足腰を強くする象徴的なキーワードになってきた。調査結果からは、構造転換が着実に進んでいるように見える。

 安い海外製品との競合や原糸メーカーの生産縮小など、繊維産地を取り巻く環境は依然 として厳しい状況にある。その一方で、独自技術を進化させ、スポーツや医療分野などで他の追随を許さない商品を開発する企業も出てきた。繊維素材の特性や技術を生かす動きは、宇宙や航空、自動車、産業資材など幅広い分野に波及し、商機も確実に広がっている。

 石川で進む自立化の動きをこれらのダイナミックな流れに重ねていけば、産地復権の道 筋も自ずと見えてくるだろう。今は斜陽産業というイメージを払拭できる岐路にある。行政も支援体制を整え、自立の歩みを後押ししてほしい。

 石川の繊維産地は合繊メーカーなどからの受託生産が中心で、メーカーの経営に左右さ れやすい弱点が指摘されてきた。商品を自主的に企画、提案する企業の「自立化」は業界最大のテーマだったが、リソースが会員企業85社を対象に調査したところ、回答があった74社のうち、自社企画製品が生産量の5割以上を占めるのは52社に上った。これは関係者の予想を超える数字だという。

 自立して新たなステージに立つからには、そこで生き抜いていくための企画力や販売力 が不可欠である。石川の強みは、撚糸や製織、染色加工など各工程で技術水準の高い企業が集積している点にある。人材育成や研究開発、市場開拓などで企業間連携をさらに強める必要がある。

 県内では、超極細糸を織り上げた世界一薄くて軽い布地など画期的な製品がいくつもあ る。誰もまねできない技術が増えれば産地全体のブランド力が高まり、海外ブランドや有名デザイナーとの新たな出会いも期待できる。成功例を積み重ね、そうした産地浮上の好循環を引き出していきたい。

◎農業再生本部 減反政策の是非も議論を
 農業の強化策を検討する政府の「食と農林漁業の再生推進本部」のスタートに合わせて 、農林水産省が2011年産米の生産数量目標を発表した。生産目標は初めて800万トンを割り込み、生産調整(減反)が一段と強化されることになるが、減反強化は貿易自由化をにらんで農業の体質強化を図る政府方針と矛盾しかねない面もある。

 これから本格化する農業再生本部の議論では、コメ農家に対する一律の戸別所得補償制 度の見直しが焦点になる。が、農業の再生と貿易自由化の両立を本当に追求するなら、所得補償制度の前提である減反政策そのものの議論を避けて通ることはできまい。

 コメの生産数量目標は、農家が来年どの程度生産するかの判断指標となる。11年産米 の目標は今年産より2.2%、18万トン減の795万トンで、都道府県別では富山県が5.2%減、石川県は1.9%減となっている。

 農水省は04年産米から生産数量目標を設定しているが、目標算定の基礎となる需要見 通しが甘いうえ、減反も計画通り進まず、08年の生産量は目標を50万トンも超過した。今年産も約11万トンの超過が見込まれるという。

 さらに、コメの民間在庫は来年6月末に229万トンに積み上がる見通しであり、コメ の価格下落に歯止めがかからない状況が続いている。こうした現状は、生産を減らして価格を維持する1971年以来の減反政策のほころびを示すものともいえる。

 戸別所得補償制度は減反への参加が条件であるが、所得補償より自由な生産を選ぶ大規 模農家が少なくない。このため、競争力のあるコメ農家の育成には、むしろ減反を段階的に廃止し、所得補償は意欲のある専業農家を中心にした方がよいという意見も根強い。そうすれば農地の集約化が進んでコストが削減でき、コメ価格の低下で消費者にも喜ばれ、需要拡大につながるという考え方である。

 貿易自由化時代のコメ農家の強化策を考えるには、従来の政策の根幹である減反の是非 について踏み込んだ議論も必要である。