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2010/12/01

第23章 伝説の美少女・寺山久美

今のAV嬢と比べて、むかしのヌードモデルはブスだ、とはよく聞く言葉なんだが、日本人がそんなに急に美人になるわけはないんで、それにはちゃんと理由があるわけですね。まぁ、流行りの顔とか別にして、今ではAV嬢というのは「専業」です。資本投下して、整形、化粧の限りを尽くして育て上げ、それをスタイリスト、メイクが寄ってたかって「理想のオンナ」に仕立て、一日数百万のギャラが動いてAVが作られる。むかしはもっといい加減ですね。そこら辺歩いてるようなネーチャン捕まえて、メイクもなしでそのまま撮る。特に、「ビニ本三大美少女」と呼ばれたようなモデルでも、篠塚ひろ美と小川恵子は、平日に仕事や学校があったりして、土日しか撮れなかったモデルだったような気がする。で、今回の寺山久美は専業だったんだが、ちょっと変わった娘で、今でも記憶に留めている読者が多いようです。

昭和ポルノ史
昭和ポルノ史・序説
第一章 非合法エロ写真と実話誌
第二章 エロ系実話誌の世界
第三章 初期通販本と松尾書房
第四章 エドプロと初期通販本版元
第五章 北見書房と素人モデルたち
第六章 自販機ポルノは港町で生まれた
第七章 初期自販機ポルノの世界
第八章 アリス出版の栄枯盛衰
第九章 アリス出版に関する覚書
第十章  LANDA.SSと九鬼(KUKI)
第十一章 その他の東京雑誌系版元
第十二章 東京雑誌グループ以外の版元
第十三章 ビニ本の発祥
第十四章 ビニ本ブームの狂乱
第十五章 アングラ・グラフ誌の分類
第十六章 擬似少女と擬似レズ
第十七章 自販機本特有の「企画物」という世界
第十八章 余は如何にしてエロ本屋になりしか
第十九章 オンナだけは素人の方が価値高い
第二十章 写真機材と素人モデルについて
番外編 おいらの自伝です その一
番外編 おいらの自伝です その二
番外編 おいらの自伝です その三
番外編 おいらの自伝です その4
第21章 「ビニール本三大美少女」について
第22章  伝説の美少女・篠塚ひろ美

第23章 伝説の美少女・寺山久美





 昭和を生き急いだ天才・寺山修司が天井桟敷という劇団を主宰し、そこに多くの芸術家志願の少年少女たちが集まったという時代があった。「書を捨てよ、街へ出よう」「家出のすすめ」などというアジテーションがとらえた昭和の子供たち。元は歌人として出発した寺山修司は、その後、競馬を題材にしたエッセイを書いたり、若い女の子向けの本をたくさん書き下ろしたりしているのだが、やがて前衛演劇の世界で大きく世の中を動かす事になる。それは、演劇界のみならず、すべての表現活動に影響を与え、多くの人材をそこから産み出すのだが、寺山久美もその一人だった。

 もともと自販機業界というのは天井桟敷と縁のある人が多くて、KUKIの社長もそうだし、アリス出版でも初期に活躍したデザイナーがそうだった。さらには東日販系ではあるが、漫画エロジェニカという劇画誌を編集して三流劇画ブームの火付け役となり、その後も、「少女アリス」の常連執筆者だった高取英は寺山修司の一番弟子だし、アリス出版や土曜漫画出版でエース格のカメラマンだった石垣章も天井桟敷と関係があったらしい。

 アングラ劇団というのは、単に演劇という意味だけでなく、音楽、写真、映画、文芸など、多種多様にわたる運動体だったし、特に天井桟敷は家出した少年少女たちが頻繁に出入りする渋谷センター街状態だった。OBは二千人とも言われ、あまりに多すぎて「天井桟敷出身」に何か特定の「意味」なんかない、と言う関係者もいるほどだ。

 寺山修司は若い頃に大病したので比較的早くに亡くなるのだが、入院していた寺山のもとに、KUKIの社長は寺山久美のビニール本を土産に持っていったそうで、「元気になる?」と聞いたら「ああ、あの娘ね。いいね、いいねえ。もっと透けてるのはないの?」と答えていたそうで、彼女が劇団でもそれなりの存在感があったのは確かなようだ。寺山久美が天井桟敷出身だというのは「伝説」ではない。

 ビニール本、自販機本のモデルがみんなそうであるように、例によって彼女も媒体によって名前が違う。中山くみ子とか、たか子なんて名前で出ることもあるが、寺山久美というのはその中でも比較的良く知られた芸名だ。彼女が天井桟敷出身だというので、やはり天井桟敷出身の業界人が名付けたと言われている。

 彼女もキャラクターとしてはお嬢さま系で、髪型がいかにもお嬢さましている。この頃の撮影では、通常、スタイリストやヘアメイクはつかないので、本人の趣味がそのまま出てくる。プロが寄ってたかってオトコの理想像に造りあげてしまう現代のAV嬢とは違う。

 で、1980年の、6月だ。社長が直々に作っていたアリス出版の看板雑誌である「少女アリス」を引き渡された僕には、どうしても撮ってみたい「絵」があった。6月といえば衣替え。「少女アリス」というのは基本的には「セーラー物ではない少女物」が売り物の雑誌で、とはいえエロ本だから未成年モデルは使えない。18歳以上の成人モデルが白い下着とかでそれらしく装うのがパターンだったのだが、なんといってもセーラー物はエロ本の王道覇道、僕は白い夏物のセーラー服が大好物なので、この時期になると落ち着かない。

 裏日本……でなきゃいけない、と思った。白い夏物のセーラー服が「絵」になる景色といえば、どうしても裏日本でなきゃならないと。
 時が止まったような静かな街並みと、そこにたたずむセーラー服の美少女。で、新潟だ。上越に高田という街がある。そこには雁木という古い木造のアーケードがある。一度だけ行ったことがあり、ちょっとだけ土地勘がある。それだけを頼りに6月5日、会社のライトエースと若手編集者のアシスタントで、売れっこモデルだった寺山久美を乗せて遠い道のりを出発した。

 寺山久美はその美貌とともに、ちょっと変わった娘として有名だった。モデルとしてのプロ意識はしっかり持っていたが、猥雑な業界からはどこか浮いた存在だった。口数は少なく、隅っこでひとり文庫本を読んでいるような、そんな娘だった。なんといっても名門、天井桟敷の出身というのが大げさに伝えられ、エロ本屋たちにとっては、やはり高尚なお嬢さまには違いなかった。

 既に寺山久美に関してはさまざまな伝説めいたものが語られていた。カメラマンに自分の身体を触らせないというのもその一つで、ポーズをつける時に無意識にモデルに触ってしまう業界の連中は、かなりそれで戸惑っていたらしい。誰にでもすぐにヤラせてくれるような気立てのいい女の子ばかりの業界ゆえ、「言葉で説明してください。どんなポーズでもしますから」とはっきり口にする彼女のようなモデルは少なかったのだ。他にも、プロポーズしてその場でしっかり断られたカメラマンがいるとか、なので、もしかしたら処女かも知れないなんて噂すらあった。

 東京から新潟は遠い。もちろん日帰りできる距離ではない。いつもの撮影だとモデル拘束1日で3万円、自宅で撮るのが多かったので、スタジオ代無料と、撮影1本が5万もかからないんだが、2日間拘束なのでギャラが6万、宿泊、高速、ガソリン代etcと、僕の撮影としては考えられないような大がかりなものとなった。もっとも、少女アリスはほとんど自分で原稿書いたり撮ったりしていたので、吾妻ひでおの連載マンガを含めても原稿料が30万円台、もともと予算には余裕がある。

 目的は古い町でたたずむ女の子の絵。もっともセーラー物としては特に大がかりというわけでもなく、予算の豊富な東日販系サン出版の美少女シリーズでは一人のモデルを何日もかけて撮って、一冊を作っている。カラミなしの単体ヌードでは、一日の撮影で数十ページは組めない。ちなみに、この美少女シリーズには寺山久美や小川恵子の号もあり、カメラマンもKUKI系のイエローキャブだ。1980年ともなると、既に自販機本の作りあげて来た方法論がメジャーの東日販系でも通用するものになっていた。

 早朝出発したにも関わらず、上越高田に着いたのはもう夕刻だった。戸外シーンを撮るには遅すぎる。旅館の晩飯を食って、モグリの撮影なので大型ストロボは使えない。アイランプひとつを頼りに和室、布団の上のセーラー服を撮る。ハッセルは裏使い。裏返して逆に構えて上から下に向けて撮るという、妙な撮り方だ。狭い部屋で布団に寝たモデルを撮るには、これが最良の手法だった。シャッタースピードが1/8秒とかなので、ミラーアップしてからそっとシャッター落とすというアクロバティックな操作を強いられる。

 翌朝、早起きして飛び出した。6月6日、金曜日。近くに高校があるらしい。通学の生徒がぞろぞろ通っている。そこにひとりだけ違う制服の寺山久美を立たせる。一人だけ制服がセーラー服だというのもアドリブだと考えればストーリーが思い浮かぶ。少女の孤独を象徴するようなカットが撮れた。

 悪い癖で、使うのが8ページというと必要最低限のカットしか撮らない。午前中だけでそそくさと撮影を済ませて車に乗る。東京は遠いのだ。それでも埼玉まで戻ったところでちょっとだけ不安になって、暗くなりかけた無人の河原に車を止めて、脱がせてちょっとだけ撮ったりしたのだった。

 彼女の場合、顔の雰囲気は仔猫系でオトナっぽいのだが、身体が細かったので制服が良く似合った。今のグラビアアイドルみたいに下品にデカい胸ではなく、小さめで形の良い胸。やはり、あまり笑わない。というか、三大美少女は三人とも、あまり笑わないが、彼女たちの戸惑ったような表情にはまると、忘れられなくなる。

 1980年のはじめからモデルをしていた寺山久美だが、この当時のモデルの寿命はみじかい。まだビデオが普及してなかったので、ひととおり出版社を廻り尽くせばそれでオシマイだ。どんな人気モデルでも半年が限度。アリス出版の下請けから出発したKUKIでは、彼女の肉声が聞けるカセット付き写真集などというアイデア商品でビニ本業界に乗り出す。文学少女だった彼女は、一時ライターの真似事をやっていたという話もある。が、やがてその噂も途絶えた。

 あれから何年経っただろう。巷ではウインドウズが発売され、インターネットで見知らぬ者が語り合う時代になった頃、僕はネットでひとつの書込みを発見した。掲示板で懐かしいヌードモデルたちについて語り合う、無名の男たち。「何年か前、偶然、都内の公園で寺山久美さんを見ました。幼稚園くらいの子供を遊ばせていました。とても好きなモデルさんでしたので、間違いないと思います」

 まさか、とは思うのだが、いまでも幻の寺山久美を追い求めている読者が存在している、というのだけは確かだ。

コメント

>僕は白い夏物のセーラー服が大好物

オイラもですwww
土砂降りのにわか雨でもあれば最高ですww

人生80年ある中、たとえ一瞬光ったところで、それで全部、成功か失敗かが決まるものじゃないよね。
ま、人間一瞬先のことはわからないんだから、今だけの幸せを追うんだ、って理屈もわからんでもないがwww

さっきのコメ、誤爆してスイマセンwww

山添みずきというロリヌードモデルもアングラ劇団に起用されてたようですね・・・この子も今どうしているんでしょう?

>仔猫系でオトナっぽいのだが、身体が細かった…

ゆうべ,家帰る途中,ウインカだそうとしたら細身で@子猫系の姐が,ハゲたオヤジと裏通りのラブホ(漏れん家の裏通り)に流れて逝った。少し離れて歩いてたんで,買われたのか?…とおもた。もう,年の瀬だた。カワイイのに切ないな。

http://blog.livedoor.jp/tokyokitty_seed_destiny/archives/51767048.html
日本時間明日午前4時にNASAが「宇宙生物学上」の発表をする模様。宇宙人に関してか?

http://blog.livedoor.jp/tokyokitty_seed_destiny/archives/51766502.html
東京kittyは土星の衛星レアで探査船カッシーニが探知した酸素に関して、同衛星での原始細菌がいたことを発表するのではないかと予想

鈴木いずみも作家で出る前は天井桟敷に所属して映画にも出てますね
そのあと寺山とは関係ないポルノにも出演

で、寺山とか太宰とかね…
宮沢賢治もだけど

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