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グレイファスの素朴な疑問1

2010-11-16 00:04:50 テーマ:三世界の守護者達・番外 posted by orimitsukao

グレイファスが里で暮らすようになってから1年近くが経過した。

少しずつだが里の習慣にも慣れ里の者達と問題なく接している。

・・・が、まだ彼自身、疑問を感じている部分がある。

番外編でグレイファスの質問に里の民が答えちゃおうという話。

CASE1[ゆきはしの以外に仲良しの子がいるの?]


元宮の里にあるグレイファスの家。

今日も里の住人所有の畑の手伝いや自身が管理する薬草畑の仕事を終えた後。

グレイファスは時々目撃する状況に疑問を感じている。


それはゆきの事。

基本的に里の畑仕事の手伝いの時は他の子供達と協力しているのに

遊び相手がしの以外の子供と一緒にいるのを目撃した事がない。


そこで翌朝、ゆきの事について、しのに聞きだす事にした。

「しの、ちょっと話がある。スノウに聞かれてはまずい話だ。」

「なーに?グレンさん。おゆきちゃんに聞かれたらまずい話って。」

しのは身を乗り出すかのようにグレイファスに近寄ってきた。


「この里には何人か子供がいるはず。何故スノウはお前以外と仲良くしようとはしない。」

グレイファスの質問に、しのは中年男性みたいな笑い方をした後で理由を話した。

「ああ、その事ね。里の子供達は皆仲良しだけどおゆきちゃんと同い年の子がいないだけ。」


「一応仲良くしているが同年代の子がいない?」

グレイファスは、しのの発言に首をかしげた。

「そう。正確に言っちゃうと同い年の女の子が2人ほどいたんだけど

2人ともグレンさんが此処に来る前に病気で亡くなっちゃった。」

「亡くなった?」


この時代、医療技術が発達しておらず早くに亡くなる子供は珍しくはない。

成人しても平均寿命は現代のほぼ半分といったところだ。

「それに女の子は私とおゆきちゃん、最近生まれた泰造さんちのお鈴ちゃんだけだからグレンさんにはそう見えたかもね。」

しのはグレイファスのお尻を何回も平手で叩いた。


グレイファスはしのに尻を叩かれて困惑したが、礼を言いさっていった。


-しのから聞いた話によるとスノウは里の子供達全員と仲はいいが同い年の子は一人もいない上に

女の子は非常に少ない。だから自然としのと行動を共にすることが多かったのか。-


ゆきの友達に関する事についてのグレイファスの素朴な疑問は、これで解決した。

小さなガーディアン(後編-4)

2010-08-25 22:03:57 テーマ:三世界の守護者達・番外 posted by orimitsukao

「その剣はグレイシアソード!我を封じた憎き宿敵・・・魔神グレイファス。まさか貴様が絡んでいたとはな。」

グレイシアソードを見た大魔道士はアルヴィスを魔神グレイファスだと思い込み風の術法で襲い掛かった。


ちなみにグレイファスはアルヴィスの実父で既にこの世にはいない。

大魔道士が封印された当時グレイファスはまだ独身で魔神世界を脱走する前だったので、その後の出来事を全く知らない。


-風の術法は詠唱し終えた後の反映が最も早い。ましてやあの男は禁術も扱える能力者。

距離が遠ければ相反する術法で相殺できるがこの距離で後ろにあいつらがいる以上こうするしかない!!-


相反する術法で相殺するのが間に合わないと判断したアルヴィスはグレイシアソードを頭上から振り落とし

縦一文字で大魔道士の放つ風の術法を一刀両断にした。


「何!?我が風の術法を剣で斬っただと!!」

大魔道士はアルヴィスが風の術法を斬った事に驚きを隠せない。

動揺しつつも大魔道士は連続して複数の攻撃術法をアルヴィスに向けて放った。

大魔道士が放った術法は全てアルヴィスが剣で斬って無力化している。

アルヴィスの力量ならばサイレントロッドで大魔道士の魔力を一時的に封じる事は可能だが

相手は禁術に手を染めた術者。対魔封じの術法も心得ているだろうとアルヴィスは睨んでいた。


一方、アルヴィスの背後では河田達が和樹の説得を一切聞こうとせず旧高垣屋敷から動こうとはしない。

それを見たアルヴィスは小声でファイヤーの術法で唱え河田達のズボンの後ろ(お尻の部分)に火をつけた。

(当然の事ながら、和樹にはかけていない)


お尻に火をつけられた河田達はパニックに陥り、旧高垣屋敷の敷地からようやく出て行った。


和樹は河田達が出て行ったのを見届け立ち去ろうとしたその時・・・


「逃がすか!本来の我が生贄よ!!」

大魔道士は肉体乗っ取りを失敗した筈なのに諦めきれないのか氷の矢で和樹を再び狙った。


「和樹、走って逃げろ!その矢はある程度の距離しか飛ばない。」

アルヴィスの声を聞いた和樹は走って旧高垣屋敷から出て行こうとした。


しかし、和樹は足が速いとはとても言えない。

運動神経&反射神経が余り良くない事は昨日の体育の授業と朝の出来事で立証済み。


追いついた氷の矢が和樹を直撃しようとしたその時・・・

再び、左手首の腕輪が光り和樹の身を炎の渦が守りつつ氷を溶かしたのだ。


「き・・・貴様!あの小僧に一体何をした!!」

大魔道士の質問にアルヴィスはさらりと答えた。

「オレ、アルヴィス・ラザフォードの専売特許、カウンターシールドを込めた腕輪を持たせた。」

カウンターシールドは術者の身を守りつつ敵を攻撃する術法で8属性全てにある。

アルヴィス自身が専売特許だといったとおり、この術法は彼が独自に生み出した物。

「なぬ、アルヴィスだと!?貴様、よくも我を騙してくれたな!!」

ようやく名前を知った大魔道士は自分が悪いのに逆ギレしてしまった。


「騙したとは失礼な、オレはグレイファスだと一切名乗ってはいない。」

確かにアルヴィスは大魔道士を騙してはいない。

「第一、コレ(グレイシアソード)を見たお前が間違えたんだろう。」

厄介な事に大魔道士はグレイシアソードの所有者=グレイファスだと認識。


アルヴィスのセリフを聞いた大魔道士は更に逆ギレ。

「やかましい!貴様が何者であろうが関係ない。我が野望を阻む者は誰であろうとぶっ潰す!!」

逆ギレした大魔道士は禁術で旧高垣屋敷にいる2人を潰そうとしている。

「大地よ揺るがせ、マグマよ吹き上げろ!そして・・・炎の隕石の雨よ!!」

「ボルケーノクエイクとメティオスコール!どちらも禁術。」

大魔道士の詠唱した術法を悟ったアルヴィスは風属性の浮遊術法キリュウで地震対策をし

水の防御術法アクアプロテクションで下からの攻撃を防ぎ術法返しのミラーで上からの攻撃をはじき返した。

(イージスとつけば楯状、プロテクションとつけばバリア状の防御術法)

大魔道士の術法を防いだとはいえ一度に三つの術法を繰り出したアルヴィスは肩で息をしていた。

二人は無傷で済んだが旧高垣屋敷自体は跡形もなく消滅していたのだ。


「我が禁術を防いだ奴は貴様が初めてだ。だが、貴様には足手まといのガキという・・・ぐ、ぐわぁぁぁぁ!!」

大魔道士は突如苦しみだした。悶絶の原因に関してアルヴィスは大体想像がついていた。


「く、くそっ!役に立たん器だ。まあよい。我はまだ諦めてはおらん、小僧の体を頂く!それから若造、ワシの今の状態では物理攻撃も術法も通用しない!!」

大魔道士の言うとおり精神体には物理攻撃も術法も通用しない為、アルヴィスは手も足も出ない。


大魔道士は今まで乗っ取った側近の体から離れ三度、和樹の体に狙いを定めた。


それを知った和樹は大きな声で拒絶した。

すると左手首につけている腕輪からオレンジ色の光を二つ放ち、二つの光は再び精神体となった大魔道士の両足を切断。

両足を切断した二つの光は和樹の元に返って中型の三日月形のブーメランに姿を変えた。

-アレはライトニングスライサー。光属性の力を持つ武器だ。光属性・・・そうか!-

対精神体に関する対処法を昔読んだ書物の中にあった事をアルヴィスは思い出した。


精神体には攻撃が通用しないと甘く見てた大魔道士は放心状態。

「そんな馬鹿な・・・我が身を傷つける武器がこの世にあったとは・・・。」


放心状態になった大魔道士の前にアルヴィスは立ち阻んだ。

「精神体は闇属性扱い。唯一、光属性が効く。」

グレイシアソードの刀身は光属性のライトニングという術法を込めた為にオレンジ色に光っている。

「しまった!光属性の事を忘れておった!!」

「光よ、邪悪なる物を切り裂け。ライトニングスラッシュ!!」

ライトニングスラッシュを食らった精神体の大魔道士は跡形もなく消滅した。


魔界・魔神世界で長年お尋ね者になっていた大魔道士は和樹の助けを借りたアルヴィスの手によって消去され事件は解決した。


事件が解決しアルヴィスはファティマに帰る準備をしている。

「アルさん、コレお返しします。」

和樹は臨時のガーディアン助手から解除されカウンターブレスをアルヴィスに返した。

「コレは和樹、お前がもっていた方がいい。」

アルヴィスはカウンターブレスを和樹に渡すとファティマへと帰っていった。



それから一ヵ月後・・・

ファティマに帰ったアルヴィスに和樹の手紙が届いた。

内容はアルヴィスがファティマに帰った後の出来事が書かれている。

校長先生たちに怒られた事、河田に家庭事情を暴露されて強制的に児童相談所から50キロ先の施設に入れられ転校させられた事。

転校先の小学校では明るく振舞えるようになったと。

和樹を散々いじめ倒した河田自身も政府要人だった祖父の不祥事によって転校した事を日高少年経由で聞いた事。

手紙の最後には夏休みにファティマに遊びに行くと記されていた。


end

純情乙女と暴走赤竜

2010-08-13 22:42:52 テーマ:三世界の守護者達・番外 posted by orimitsukao

この話のタイトル、純情乙女はゆきの事で暴走赤竜とはグレイファス本来の姿の事を指します。

距離・時間の単位は今の単位に置き換えて書いています。

なお、この話はダイジェスト版で完全版ではありません。

完全版を発表する予定は全くありません・・・というより不可能なのです。すみません。

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今から800年ほど前の日本。

西の地域にある小さな山のふもとにある小さな村。

一見は普通の農村だが・・・かつて栄え滅んでしまった武家に仕えた者が隠れ住みはじめた隠れ里。


その里のすぐ近くにある小さな畑でクリムゾンレッドの長髪を襟足で束ねた男が草を刈り取っている最中。

刈り取っている草は雑草でもなければ食料用の植物でもない、薬草の一種と思われる。


「グレンさん!」

と男を呼ぶ黒髪の小袖姿の少女が何か小さな荷物を持っていた。

「スノウ、もうそんな時間か。」

男は少女の事をスノウと呼んでいるが本当の名はゆき。近くの里に住む。

そして少女ゆきがグレンと呼んだ男の本当の名はグレイファス。

実は人間の姿に化けた魔神で10年前から理由あって、この村で暮らすようになった。

10年前に彼を助けたのが当時7歳だったゆき。その関係かグレイファスは彼女に対しては親しい。

グレイファスの事に関しゆきは好意を抱いているのだが当のグレイファスは気がついてないようだ。

ゆきが持ってきた小さな荷物はグレイファスのお昼ご飯。

「ありがとう、スノウ。」

ゆきが村に帰ろうとしたその時、彼女の後ろ数十メートルで異様な視線をグレイファスは感じ取った。


異様な視線の先には馬に乗った武士らしき2人の男。

男達はグレイファスが睨みつけている事を知らず、

ひたすら薬草畑から里に帰るゆきを舐める様に見ていたのだ。


「可愛いなぁ、あの子。この村にあんな可愛い子がいたとはね。恐らくあの状態だと・・・」

若い武士がゆきに狙いを定めている事に対し中年の武士が若い武士をたしなめている。

「若、女遊びも程々にしておかないと後で痛い目を見ますぞ。」

中年の武士にたしなめられた若い武士は激怒した。

「うるさい!いいからあの娘の身元を洗い出せ、それから一日も早くオレ様のもとへ連れて来い!何も知らぬ娘をオレ様の手で・・・。たまらぬ。」


「あの野郎達、ここら辺りで見た事がない。・・・ずっとスノウの事を見ていた、何か嫌な予感がする。」

その数日後、グレイファスの嫌な予感が的中してしまう事は本人もまだ知るよしがない。


それから数日後・・・

グレイファスは、用事でこの里から一番近い町に出かける為に里を出た。

数日前にゆきを見ていた2人の武士の存在が気になるのだがグレイファス自身の胸のうちにしまった。


「あの娘を連れて行くのに、この里で一番厄介なのはグレンと言う異国の男。用心棒もかねていると言う噂だ。あの男を引き離せば後は雑魚ばかりだ。」

若い武士は数日の間、この里に関する情報を部下に命じて調べ上げ今日の朝にゆきを誘拐する事を決めた。

グレイファスが里を出て姿が見えなくなったのを確認すると赤い武士は部下に命じ里の入口に火矢を放った。


里から出て二キロ過ぎた地点で何か嫌な予感を感じ取ったグレイファスはすぐに里へと走って引き返した。

道は舗装されているとはいえ今のようなアスファルトではない。

二キロだとグレイファスが走ると5分あれば戻る事が出来る。


5分後、グレイファスが里に戻った時は入口はボヤで済んだようだが

建物の一部が破壊され里の民は被害の大小は有るものの怪我をしていた。


グレイファスは直ちに里の外で栽培していた薬草で作った傷薬を里の者達に配布した。

一番奥にいる里長と妻のさよにグレイファスは駆け寄り何があったのか聞こうとした。

「一体どうした!里長、おさよさん!!」


「おお・・・グレン、大変じゃ。おゆきが、おゆきが若領主に連れて行かれた!」

里長はゆきが若領主に連れて行かれたとグレイファスに伝えた。

「おゆきちゃんの存在をかぎつけたらしいのよ。言う事を聞かなければ皆殺しにすると脅されて・・・」

さよは若領主に脅されて仕方なくゆきは領主の館へと行ったと。

それを聞いたグレイファスは数日前にゆきを舐める様に見ていた若い武士の事を思い出し小声で呟いた。

「あの野郎・・・スノウをさらう目的で見てやがったのか!」

さよの話だと、この里と近隣の村・町を治めている領主は最近、息子に世代交代したばかり。

若領主は以前から若い娘を無理矢理誘拐しては乱暴を働く悪名高い人物だと言う事だ。


「ところで領主の館はどこにある。」

グレイファスは里長とさよに領主の館の居場所を教えてもらうと里の前の薬草畑に向かった。


-10年間、抑えてきた赤竜の力、今・・・開放する!!あいつだけは許す訳にいかぬ。-

誰もいない事を確認するとグレイファスは10年間、抑えてきた赤竜の力と姿を開放し領主の館へ空を飛んで向かった。

ゆきを一刻も早く若領主の毒牙から救い出すために。だが怒りに狂い理性は完全に失われていた。


グレイファスが赤竜となり理性を失ったまま空で領主の館を目指している同じ時刻・・・


領主の館へ連れて行かれたゆきは若領主の寝室へと入れられた。

-助けて、グレンさん!!-

ゆきはあまりの恐怖で声が出ず身動きも取れない状態。

その状態のゆきに対し若領主は乱暴を働こうと、ゆきの小袖の帯に手をかけたその時・・・


領主の館の正門前に突如火柱が上がっている。

若領主の寝室前に中年の武士が現れ伝言した。

「若、大変です!屋敷の前に赤い大きな化け物が火を吹いて暴れております。」

その報せを受けた若領主はゆきをそのまま置いて赤い大きな化け物を倒そうと現場に向かった。

辛うじてゆきの純潔は失わずに済んだ。


-赤い大きな化け物って、まさか!?-

中年の武士の話を聞いたゆきは、その存在に心当たりがある。

-赤竜のグレンさんが助けに来てくれた!!-

ゆきは助かったと希望が出たらしく声が出、体も自由に動くようになった。


若領主が出た隙にゆきは屋敷から抜け出そうと寝室を出た。


すると、ゆきの目の前で大きな赤竜が建物を破壊し人を次々と殺している。

「うそ・・・グレンさんが破壊と殺戮を・・・。」

ゆきは目を見た瞬間、グレイファスが理性を失って暴走している事に気がついた。


理性を失い暴走している赤竜グレイファスは、ゆきの存在を忘れ踏み殺そうとしたその時・・・


「やめて下さい!無益な殺生はしないで・・・お願い、グレンさん!!」

するとドラゴン体のグレイファスは、自身の足元にいるゆきの声と涙に反応し、暴走をやめた。

暴走が止まった事に安心したのか、ゆきは気を失ってしまった。

-ス、スノウ!どうしてこの姿の事を知っている。オレは一度も見せていないはずだが。-

赤竜グレイファスはすぐにゆきを背中に乗せると飛び立った。
最後の報復として口からインフェルノと言う炎系術法を吐き屋敷全て焼き尽くしてから立ち去った。


領主の館から里までは赤竜グレイファスのスピードでは10分もあればいける。


一度、薬草畑に降り立ち、ゆきをおろすとグレイファスは再び人間体へと変身。

ゆきを背負い里の入口へ入った。


すると、里の者達は2人が帰ってきた事に大喜びした。

「大丈夫、気を失っているだけだ。彼女を頼みます。」

里長の妻・さよは、気を失っているゆきをグレイファスから受け取る時、グレイファスの悲しそうな表情の中に決意を決めた目をしている事に気がついたが声をかける事が出来なかった。


日が暮れて夜になり里の住人は眠っている。

但し、グレイファスだけは悩み事があるのか起きていた。

「あいつを助けるためとはいえ・・・オレは赤竜になった。遅かれ早かれこの里に魔神世界の者が来るだろう。」

グレイファスはゆきを女癖の悪い若領主から取り戻す為に赤竜の姿になって領主の館を全壊・全焼させた。

それだけでなく館の住人を殺しており派手に暴走してしまったのだ。


グレイファスは魔神世界の理不尽な掟に背き脱走した、言ってみればお尋ね者。

里の人間にはこの国の遠くの海に流れ着いて放浪した外国人だと偽っている。

-そしてオレの正体がバレたら必ず恐れおののく事は目に見えている。あいつの笑顔も奪ってしまう。

正体がばれてしまう前にこの里を出よう!心残りはあいつを思うと苦しくなる事だけだが。-


里の民を起こさないようにグレイファスは音を出来る限り立てずに外に出て里の入口へと向かった。


外は朝になろうとしていたのか空は少しずつ白み始めている。


-さらばだ、里の人たちと過ごした10年間は忘れな・・・誰だ、入口に立っているのは?-


グレイファスが里の入口にさしかかろうとした時、小柄な少女が立っていた。

入口に立っていた少女を見た瞬間驚きを隠せない。

「ス・・・スノウ!」

そう、入口に立っていたのはゆき。恥らい震えつつもグレイファスを待っていたのだ。


グレイファスはゆきに素性を明かし立ち去ろうとしたが、既にゆきはグレイファスの素性を知っている。

「グレンさんが魔神だって事は私、10年前から知ってました。夢は叶わなかったけれど、お慕いする殿方に純潔を捧げられるのなら乱暴されても私は構わない!!」

ゆきは硬く目を瞑り手を組んでグレイファスの手で乱暴される事を覚悟した。

彼女の夢は成人したら好きな人=グレイファスのもとに嫁ぐ事。

しかし、魔神の男には恋愛感情がない、その夢が叶わぬとわかり乱暴されてもいいから純潔をグレイファスの為に守り通してきたのだと。


人間でなくても愛する男の為なら命を懸けるゆきの姿を見て、グレイファスが長年ゆきに関して苦しみ続けた理由が恋愛感情によるものだとようやく気がついた。

-オレがずっと苦しかったのは魔神には本来ない感情・・・スノウを愛している、という感情。

あいつはオレの正体を全て承知で10年間一途に思い続け純潔を今差し出そうとしている。

オレもあいつの覚悟に全身全霊で応えなくては!!-


グレイファスはゆきを抱き寄せ本当の気持ちを伝え始めた。

「正体がばれたら拒否されてしまう事を恐れオレはお前に思いを伝えられなかった。だが、今なら言える。

オレもスノウの事を愛している。人間グレンとしてこの地に骨を埋め愛する者と未来に生まれてくる子供とささやかだけど温かい家庭を築きたい。」

ゆきへの本当の思いを伝えグレイファスは人間グレンとして人間界で骨を埋め添い遂げる事を決意した。


そして、その夜・・・ゆきは10年間一途に思い続けたグレイファスに純潔を捧げ二人は身も心も結ばれ

程なくして、ゆきのお腹にはグレイファスの子が宿り、その年の冬に赤茶色の髪の男の子が生まれた。


end

小さなガーディアン(後編-3)

2010-08-08 21:50:48 テーマ:三世界の守護者達・番外 posted by orimitsukao

大魔道士の放つメティオ・ストームが子供アルヴィスに襲いかかろうとしている。

アルヴィスは襲い掛かるメティオ・ストームに動じる事無く水の術法で対処した。


「アクアトルネード!!」


メティオ・ストームとアクアトルネードがぶつかり術法同士は相殺し水蒸気爆発を起こした。

幸い、屋根が壊れていた事もあって水蒸気爆発は上空で起こったため怪我人はいない。


大魔道士が水蒸気爆発に見とれている隙に子供アルヴィスは河田少年の鳩尾を殴って気絶させた後

二人を担ぎ、ワープの術法で建物の外に出た。


外には河田以外の8人が何も知らないかのように熟睡。

当て身だけではすぐに目を覚ましてしまう可能性が高く子供アルヴィスは

念の為、人質を外に出す際にスリープの術法をかけておいたのだ。


子供アルヴィスは和樹にかけられた手かせと足かせを見てすぐに地属性のモノと判断。


属性系の拘束術法は相反する属性+状態回復の合体術法でしか術者以外では解除する事ができない。

地属性の場合、水属性のアクア+マヒ解除のリーフの合体術法アクアリーフ又は

風属性のウインドとの合体術法ウィンディリーフ。


しかし子供アルヴィスの状態ではAランク以上の全ての単体系と合体術法は使用不可能。

河田達が意識を失っている隙にアルヴィスは変身を解除した。


「エメロード・イグニッション!」

武器が出現しない変身解除のため賢者の法衣がどれで出るかわからぬ状態。

今回出現した賢者の法衣は白を基調に赤と黒の模様が入った法衣。


「癒しの水よ、この者にかけられし大地の戒めを解き放て!アクアリーフ!!」

アルヴィスが和樹にかけたのはアクアリーフの方。

すると、手かせと足かせは泥となっていき和樹は地属性の呪縛から解放された。


アルヴィスは無言で地属性の呪縛から解放された和樹の右頬を一度平手打ちした。

「たとえ長年受けた仕打ちで精神的に追い詰められていたとしても、自分で自分の未来や可能性を絶つ事は一番やってはいけない。」

このセリフは、アルヴィスが数百年前に脇腹を刺して自殺未遂を起こした後、一命を取り留めた時にオラトリオ老がアルヴィス自身に対して言った事だと話した。

その時、オラトリオ老人はアルヴィスに対し平手打ちではなく拳で顔と鳩尾を殴られた事を付け足した。


「オレも長年受けた仕打ちが原因で精神的に追い込まれて自殺未遂を起こした事があるから和樹の気持ちは痛い位にわかる。」


アルヴィスは和樹の目線の高さまで屈み、和樹の頭を優しく叩いた。

すると緊張の糸が切れたかのように和樹は大声で泣き出した。


旧高垣屋敷の上空で側近の体を乗っ取った大魔道士が殺気だった気配を出しながら独り言を呟いている。

「許さん・・・この我をコケにした奴は誰であろうが容赦はせぬ!」


「和樹・・・こいつらを叩き起こすから連れて今すぐこの場所から離れろ!」

大魔道士の殺気を感じ取ったアルヴィスは和樹にこの場から立ち去るように指示した。

スリープの術法で眠らせた河田達を状態解除術法を使い全員起こそうとしているその途中・・・


アルヴィスの頭上めがけて大魔道士が雷属性のかなり強力な術法を唱えた。

大魔道士の殺気を既に感じ取っているアルヴィスは眠りの状態解除術法をかけながら

地属性の防御術法で雷属性の攻撃術法を防いだ。


「大地の盾よ・・・空の鉄槌を防げ!ガイア・イージス!!」


それを見た大魔道士は一瞬声を失ったがアルヴィスの行動を見て賢者だと思い込んでしまった。

「攻撃術法だけでなく回復と防御術法を同時に放つとは!き、貴様・・・賢者だったのか!?」

大魔道士の質問に対しアルヴィスは大魔道士を睨みつけ感情のない威圧的な口調で答えた。


「オレは賢者と同格の術法スキルを持っている、だがオレ本来の兵種は魔道戦士だ。」

左手にグレイシアソードを握り締めておりアルヴィスの賢者の法衣は白コートに変化していた。


「その剣はグレイシアソード!我を封じた憎き宿敵・・・魔神グレイファス。まさか貴様が絡んでいたとはな。」

グレイシアソードを見た大魔道士はアルヴィスをグレイファスだと思い込み襲い掛かった。

小さなガーディアン(後編-2)

2010-08-05 21:50:55 テーマ:三世界の守護者達・番外 posted by orimitsukao

アルヴィスは個人的な感情を押さえ込んで和樹と廃墟で捕まってしまった河田達の救出と

指名手配の大魔道士とその部下達を消去するために子供の姿で単身、旧高垣屋敷へと向かった。


「和樹はともかく、河田達を安全な場所に転送するまでは変身が解除できない。」


和樹は既にアルヴィスの素性を知っている。

しかし人質は和樹だけではない。

逃げ出して難を逃れた日高少年を除く河田少年とその仲間、総勢9名もいる。

河田達を保護し転送し終えるまでは変身解除ができないと子供アルヴィスは判断した。


子供アルヴィスが旧高垣屋敷に向かっている同じ時刻の旧高垣屋敷の屋根裏部屋。


「御前、お探しの子供を連れて来ました。」

と、言う中年男性の声に奥の老人型の精神体は反応した。

老人型の精神体の隣には操られて目がうつろな河田少年がいる。


中年男性は精神体の側近と思われ体中が傷だらけ。

そして中年男性の背中に背負っているのは和樹。

和樹を石化し子供アルヴィスを一時的に動けなくした禁術の術者は彼だろう。

石化は解除されたものの意識はまだ戻っていない。

仮に和樹の意識が戻ったとしても抵抗できないように

地属性術法で作った手かせと足かせで両手・両足は拘束されている。


「でかしたぞ・・・。心弱き子供よ、我が新たな器として生まれ変わるがよ・・・なぬ!?」

側近が御前と呼んだ大魔道士の精神体が和樹の肉体を乗っ取ろうと胸の辺りに手を伸ばしたその時・・・

和樹がつけている腕輪が光り、大きな竜巻を発生し大魔道士と側近を吹き飛ばした。


風の衝撃で和樹は意識を取り戻し絶叫した。


「日高の言っていた旧高垣屋敷は此処か。ん?屋根の一部が魔道の風で吹き飛ばされている。」


旧高垣屋敷は高垣台小学校旧校舎とほぼ同じ時期に建てられたもの。

現在は誰も住んでおらず、高垣台小学校の悪ガキ達の秘密の場所として利用されている。

その屋敷の屋根の一部がこの地の自然の風でなく魔道の風で吹き飛ばされているのをアルヴィスは察し

日高少年が逃げ出した窓を見つけ、そこから内部へと侵入した。


侵入した先には河田少年と二人を除く6人の子供が殺気だって子供アルヴィスに襲いかかろうとしている。

6人とも目が虚ろで誰かに操られている事はアルヴィスが見たら一発で気がつくほど。

「あいつめ・・・マリオネットの術法で人間を操りやがったか。」

アルヴィスはこのような状況でもあせる事無く梱包用の紐で両手・両足を拘束すると

両手で首元を狙いモンゴリアン・チョップを6人全員に食らわし気絶させた。


気絶をさせられた6人はアルヴィスの手によって窓に投げ出された。


その光景は屋根裏にいる大魔道士とその側近に筒抜け。

「なぬ!赤茶色の髪のガキが侵入し一人で6人を気絶させただと!?」


-赤茶色の髪の子供って・・・子供姿のアルさんだ!!-

大魔道士と側近の話で侵入したのは子供アルヴィスだと和樹は察した。


6人を解放したアルヴィスは警戒しながら屋敷の中を進んでいる。


何の罠も出くわす事無く移動してきたアルヴィスだが

二階の一番奥の部屋で二人の子供が立っている事にすぐに気がついた。

二人は河田の側近と言うべき少年達。

この先の何かを守っているような行動をしている事をアルヴィスはすぐに察した。


「この先は行きどま・・・いや、隠し階段で屋根裏にいける!」

子供アルヴィスは猛ダッシュで河田の側近二人の背後に回り

再び梱包用の紐を両手・両足に縛り、拘束させると後頭部を突っ込み用の棒で殴りつけ外に落した。


「あとは和樹と河田だけ。」

アルヴィスはそう言うと屋根裏部屋へ移動を始めた。


その光景を見た大魔道士とその側近は悔しい思い。

「くそっ!人間の分際で。仕方ない、お前の体を貰い受ける!!」

屋根裏にいる河田を除いて倒されてしまったのを見た大魔道士は側近の肉体を無理矢理乗っ取った。


「腕の立つガキと言っても所詮は人間、コレを食らえばひとたまりもないだろう。」

側近の体を乗っ取った大魔道士は火・地属性の合体技メティオ・ストームを繰り出そうとしている。

大魔道士達が人間の子供だと思い込んでいる子供アルヴィスをしとめる為に。


階段を登り屋根裏部屋へのドアを開けようとしたアルヴィスに和樹は叫んだ。


「これは罠です!逃げてください!!」


大魔道士の放つメティオ・ストームがこの部屋に入ってくる子供アルヴィスに襲いかかろうとしている。

両手と両足を拘束されたままの和樹は、操られた河田少年に殴られつつも叫ぶ事しかできなかった。

小さなガーディアン(後編-1)

2010-07-29 21:15:42 テーマ:三世界の守護者達・番外 posted by orimitsukao

クラスメート達の心無いいじめに和樹は心が折れてしまい理科室から飛び出してしまった。

担任教師も助けるどころか見てみぬフリをしている事に子供アルヴィスは堪忍袋の緒が切れ

悪態をついて和樹を探すために理科室を出た。


心が折れてしまう位だから一度や二度のいじめではすまない。

長い時間いじめを受け続けていたのだろうとアルヴィスは察した。


「それに、今のあいつの精神状態だと、あの野郎の格好の餌食だ。」

旧校舎の壁には挑発の言葉とは別にこう記されてあったのだ。

-精神(こころ)の絶望の淵に立つ心弱き子供、我が新たな器として貰い受ける。

そして、再び世界を混乱と破滅に導いてやる。-


心が折れてしまった和樹を探しに子供アルヴィスが校内を探している同じ頃・・・


授業をサボり学校を出た河田グループの面々は和樹追い出しの最後の仕上げをする前に

かなり昔に廃墟となった大きな屋敷の一部を秘密基地としそこにいた。

河田少年は大きな声で高笑いしていた。


「ざまぁみやがれ!1年かかったけど、これで和樹の奴をこの町から追い出す事ができるぞ!!

事実であってもオレ様に意見した奴はデマを流してでも徹底的にいじめ倒してやる。」


和樹の嘘つき疑惑は河田少年が流したデマだったのだ。


セリフによると間違った話をしていた河田少年に和樹は正しい意見をしただけ。

自分が一番正しいと思っている河田少年は和樹の行動が気にいらなかったらしく

濡れ衣を着せクラスの男子の多くを買収し和樹を徹底的にいじめ出したのだ。


つまり、本当は和樹は嘘つきどころか正直者だと言う事。


「も、もうやめようよ・・・河田君。相沢君が自殺しちゃったら・・・」

と、気の弱そうな小太りの少年が河田少年の暴走を止めようと意見した。

それを聞いた河田少年は小太りの少年を睨みつけながら

「文句を言うならば、お前もあいつと同じ目に遭うか?」

と脅した。

それを聞いた小太りの少年は何も言えなくなってしまった。


-面白い・・・、心歪みし子供達よ、我が下僕につかわそう・・・-

河田達のいる部屋に謎の声が聞こえる。

謎の声の主は河田達のやり取りを一部始終覗き見しているらしく下僕を探していたようだ。


謎の声は河田達には全く聞こえない。


河田達はこの廃墟と化した屋敷に何かがいるとは知らずに祝い事をやっている。


祝い事をやっていたその時・・・辺りが暗くなり出入り口から黒いゼリー状の物が流れ込んでくる。

その状況に河田達は対処できないらしく全員大パニック。

廃墟となり静まりかえった大きな屋敷で複数の絶叫がこだました。


河田達が廃墟で黒いゼリー状の物に飲み込まれかけている同じ頃

再び高垣台小学校では、いじめで心が折れて出て行った和樹を子供アルヴィスが捜している最中。

「一体どこに行ったんだ。まさか屋上から飛び降り自殺する気か!?」

飛び降り自殺をしてしまうかもしれないと察したアルヴィスはワープの術法で屋上まで移動した。


ワープの術法で屋上にたどり着くとアルヴィスの読みは的中していた。

和樹の目は虚ろになり屋上から飛び降りたその時・・・


「風よ、受け止め・・・な、何!」

アルヴィスが風の浮遊術法・キリュウをかけるより先に衝撃波がアルヴィスを直撃。

衝撃波を受けたアルヴィスはフェンスに叩きつけられてしまった。

普通の衝撃波であれば子供の体だろうが大人の体だろうがアルヴィスにとっては大したダメージにはならない。


-くそっ!体がうごかない・・・そして声も・・・!!禁術の金縛りつきか!-

アルヴィスは反撃しようとしたが体が全く動かず声も出なくなってしまった。


この衝撃波には術者以外の全ての者を一定の時間、動けなくする禁術の金縛りが含まれていた。

(合法の金縛りの術法も有るがそっちは術者の魔力よりも上回る魔法防御力の敵には効かない)

金縛りで動けない子供アルヴィスは虚ろな目で飛び降りた和樹が

何者かによってロックブラストで石化されるのを大人しく見ているしかなかった。


和樹の体は石化された状態でカラスの大群によって(コレも使い魔)山の方向へと運ばれていった。


カラス風の使い魔たちが消え去った後、アルヴィスにかけられた禁術の金縛りも解除。

体は自由に動けるようになったが飛び降りた和樹を助けられず、

何者かに連れ去られた事を悔やみフェンスの一部を破壊してしまった。

「も、元宮くーん!」

アルヴィスを呼ぶ声に反応し我に返ると小太りの少年が一人、今にも泣きそうな顔で立っていた。


「ええっと、君は確か日高君だったよね?一体どうしたんですか」

口調を子供仕様に切り替えてアルヴィスは小太りの少年・日高に話しかけた。

子供アルヴィスに声をかけられた途端、日高少年は大声で泣き出してしまった。


「ちょ、ちょっと、どうしたんですか!?」

「もっと早く河田君の暴走を止めてあげればよかった!!」

-そうだった、日高も河田グループの一員。-

泣きながら日高少年は和樹が河田からいじめを受けている理由と

河田達がたむろしている旧高垣屋敷の場所と異変が起きた事を話した。


旧高垣屋敷は山手にあり今は壊されてしまったが高垣台小学校の初代校舎と同時期に建てられたもの。

河田少年たちはあそこにいる。突如黒いゼリー状の物に河田達は飲み込まれ

窓側にいた日高少年は怖くなって窓を破って逃げ出したのだと。


-そういえば、カラスもどきもあっちの方向へ飛んで行った。あいつらの本当の潜伏場所は旧高垣屋敷!-


日高少年の話によると和樹が河田にいじめられ始めたのは小学4年のGW明けから。

河田少年が間違った発言をしていたのを和樹が意見したら(口調はソフトな口調らしいが)

逆切れしてしまい、次の日から和樹に対し嘘つきというデマを流していじめ始めたのだと。

「悪いのは河田君じゃないですか!気に入らないからって濡れ衣着せるなんてとんでもないですよ!!」

怒る子供アルヴィスに日高少年は続きを話した。

「河田君は気に入らない人間に対してデマを流すだけでなく家族構成や家庭事情まで調べ上げて弱みにつけ込んで苛め抜くんです。」

「理科室でクラスの女子が言ってたけど相沢君の両親が離婚して2人とも親権を捨てた話は・・・」

子供アルヴィスの質問に日高少年は首を縦に振った。

「相沢君の両親が離婚して捨てた話は本当だよ。」


-和樹は嘘をついてないのに河田の所為で濡れ衣を着せられ1年間いじめを受け続け、両親の離婚と親権放棄で精神がボロボロになって飛び降り自殺を働こうとしたのか。-


「ボクに話をしてくれたのはいいけど・・・もう手遅れだよ。」


子供アルヴィスは日高少年に捨て台詞を言うとスリープの術法で眠らせ自分が関わった記憶を全て消した。


-河田、あいつだけは・・・人間のクズのあいつだけは許さん!

意識不明の病院送りにしても構わぬ、鉄拳制裁してやる!!-


アルヴィス個人としては河田達に鉄拳制裁をして痛い目を見て貰いたい心情。

だが守護者の任務は現地住人の生命の保護と秩序の守護、そして異界の犯罪者の捕獲あるいは消去。

アルヴィスは個人的な感情を押さえ込んで和樹と廃墟で捕まってしまった河田達の救出と

指名手配の大魔道士とその部下達を消去するために子供の姿で単身、旧高垣屋敷へと向かった。

小さなガーディアン(中編-3)

2010-07-16 22:13:29 テーマ:三世界の守護者達・番外 posted by orimitsukao

和樹に正体がばれてしまったアルヴィスは観念して素性を話し交換条件として

この地に封じられている魔神に近い能力を持つ大魔道士の消去を手伝わせる事にした。


調査を再開しようとした矢先・・・


アルヴィスの持つクラスターソードの刀身全体が濃い灰色になっていた。

もう一つのクラスターソードは剣先が上を向いており総合すると天井に何かが沢山いるという事。

それを察したアルヴィスは和樹に後ろに下がるよう指示し天井に向けて術法を放った。

「後ろに下がれ、和樹!アクア・トルネード!!」

アルヴィスが放ったのは水属性のアクア・トルネード。

アクア・トルネードを放った後、天井から塊のような物が落ちてきた。

塊の正体はナメクジ風物体の大量水死体。


和樹が前で見てみると・・・

「な、ナメクジー!ぼ、ボク・・・ナメクジ、どうしても苦手なんです!!」

どうやら和樹はナメクジが大の苦手らしく混乱した挙句に腰を抜かして後ずさり。


そんな和樹を見たアルヴィスは少し呆れながらも本物のナメクジではない事を説明した。

「・・・言っておくがコイツらは使い魔だ。第一、本物のナメクジなら水属性の術法は使わない。」

本物のナメクジは水に強い為、アルヴィスの言うとおり水属性の術法を使えば逆効果。

そして、クラスターソードの生命反応の色が本物のナメクジと使い魔とでは大きく違う事。


アルヴィスの説明を聞いて和樹はようやく平静を取り戻した。


改めて調査を再開したが最初の地点のナメクジ風使い魔がいた以外は

アルヴィスの持つクラスターソードには生命反応が現れなかったし

昨日の対魔神ウィルスのような罠が仕掛けられた形跡もない。


最後の調査ポイントにたどり着いた所で破壊の形跡が見られる。

壁には何らかの文字が記されておりそれを見たアルヴィスは何の言語かわかり

メッセージを見た瞬間、悔しそうに左の拳で床を叩いた。


「どうしたんですか、アルさん!え?この文字は英語でもないし、ハングルでもないし・・・。」

和樹も壁の文字に気がついたらしいが見た事がない言葉だったためか首をかしげている。

「人間界の言語ではない、魔界の古い文字で指名手配犯の追跡者、つまり守護者達を挑発するような内容が書かれている。」

アルヴィスはその文字を音読しようとしようとしたその時・・・・


新校舎の予鈴が鳴りはじめ再び調査を中断せざるを得なくなった。

壁に記されていた魔界の古い文字の文章は特別製のインスタントカメラで数枚に分けて撮影。

休み時間に和樹に説明するつもりだろう。


「此処からボク達のいる教室って、結構離れてるんですよ。今から走っても遅刻・・・。」

5年3組の教室は新校舎の3階にある。

普通に考えたらここから教室まで間に合わない。

しかし、アルヴィスは何か策があるらしくいたって冷静。

「大丈夫だ。建物の配置は昨日で全て把握している。アクア・イグニッション!」

アルヴィスは子供に変身すると和樹の手を握り移動術法のワープを唱えた。


流石に教室の前まで飛ぶと周囲が驚くため教室近くの階段の踊り場に照準を合わせたようだ。


二人が教室に入ると担任の先生は来ておらず辛うじて遅刻だけは免れた。

教室の扉を開けた時に河田グループの面々は何かよからぬ事を話している。

耳のいいアルヴィスはその内容が少しわかったようだが・・・。


一時間目が終わり次の授業は理科の授業で理科室に移動。

二時間目のチャイムが鳴り授業を開始しようとしたら・・・

女子は全員いるのだが男子は河田グループに属していない子供アルヴィスと和樹、その他数人しかいない。


担任の先生が河田達の事を聞いたら

「せんせーい、河田君達なら帰りましたー。

嘘つきで両親に捨てられた眼鏡チビの本オタクがこの町から出て行くまで学校には行かないそうでーす!!」

一人の女子児童がわざとらしい大声で和樹を中傷する発言をした。

他の子達はクスクスと陰で笑うだけ。


嘘か事実かわからぬ心無い発言に子供アルヴィスは例え女性でも殴りたい位だったが

人を殴れば最後とわかっている為こらえていた。


少しだけ聞いた河田達の企みは一時間目から二時間目の間の教室移動のドサクサに紛れ

授業をサボり学校の外に出る事、それだけではなく和樹に対する中傷を町中に流してこの街にいられなくしてしまう事だ。


授業を再開したくても嘲笑や中傷など和樹に対する心無い仕打ちはエスカレートしていくばかり。

その状況に耐え切れなくなったのか和樹は理科室を飛び出してしまった。

理科室にいる児童達は和樹を連れ戻そうとするどころか消えてせいせいした態度を取っていた。


担任の先生も和樹を連れ戻そうとするどころか残った児童で授業を続けようとする始末。

昨日と今日の光景を見て我慢してきた子供アルヴィスは堪忍袋の緒が切れて・・・


「・・・おい、貴様ら。一人を集団で苛めるのがそんなに楽しいのか、ゴルァ!」

と、かなり乱暴な口調で残った同級生達を怒鳴りつけた。

子供アルヴィスの突然の態度に理科室にいる教師と同級生達はびっくりして声が出なかった。

「貴様らそこに座れ・・・、先公、貴様もだ!!」

同級生と先生を床に正座させると子供アルヴィスは突っ込み用の柔らかい棒で一人ずつ肩を叩きながら毒づき始めた。

中には口答えをする者もいて、そういう者には二回・三回と肩を殴り続けた。

見事な悪態ぶりに、ただ呆然とするしかない。


おまけにブチ切れした子供アルヴィスがやってる事は某新喜劇女性団員の芸状態。


10分経過してようやく気が済んだのか子供アルヴィスは我に帰った。

我に帰った子供アルヴィスは目を潤ませてこんな捨て台詞を言った。

「怖かったです~!」


最後のセリフで理科室にいる先生と児童達は子供アルヴィスのギャップの激しさに飛んでしまった。


悪態をつき終えると子供アルヴィスは理科室にいる者達の記憶を消し和樹の居場所を探しに出て行った。


後編に続く

小さなガーディアン(中編-2)

2010-06-25 20:45:13 テーマ:三世界の守護者達・番外 posted by orimitsukao

アルヴィスは子供アルヴィスに変身する所を見られ

和樹はスバルと大人アルヴィスが同一人物だと知ってしまい互いに大声を上げ指差した。


子供アルヴィスは大きな声を出したがすぐ冷静になりスリープの術法で和樹を眠らせた。


「何じゃ、アル。この坊主と知り合いか?」

オラトリオ老の質問に声は子供、口調は大人の状態でアルヴィスは話した。


「知り合いも何もありませんよ、師匠。相沢和樹はオレの今回の仕事の潜入先の同級生です。」


それを聞いたオラトリオ老は驚きを隠せない。

「なんじゃと!この坊主はアル、お前の同級生だったとは。確かに、お前の仕事に支障が出るかもしれんな。」

オラトリオ老の発言に子供アルヴィスは首を縦に振った。


「しかし・・・このまま放置しておくのもなんじゃ、この坊主の家まで送り届けてやろうかの。」

流石に眠ったままの和樹を放置しておくわけにはいかず

オラトリオ老は和樹を背負いアルヴィスはカバンを持って和樹の家に送り届けた。

家の住所を知らないため途中、職員室に立ち寄り和樹の家の住所を聞き出して。


眠ったままの和樹を玄関前に置いてアルヴィスとオラトリオ老はその場を立ち去った。

二人が和樹を玄関前に置いた時、和樹の眼鏡がずれてしまいアルヴィスは何か思い出しかけたようだ。

(誤解の無いように書いておこう。

和樹を玄関前に置いたのは二人がドアホンを何回鳴らしても家族の者がでなかった為。)


和樹の家から立ち去った二人は高垣台小学校に再びやって来た。


外は既に夜。

オラトリオ老はファティマに帰る準備をしている。


「師匠、今日は助かりました。」


オラトリオ老と別れアルヴィスは小学校の屋上で眠りについた。


朝になった高垣台の町。


小学校屋上で眠っていたアルヴィスは大人の体に戻り(*賢者の法衣は白コート)体力も戻っていた。

アルヴィスは目を覚まし屋上から飛び降りて時間を確認すると午前6時。

教師も児童もまだ登校していない時間。


誰もいない事を確認しアルヴィスは昨日、新型の対魔神ウィルスのせいで出来なかった仕事を再開した。

オラトリオ老人の話しどおり旧校舎の敷地内は中和剤のおかげでダメージを受けずに済んでいる。


アルヴィスは昨夜オラトリオ老から受け取った特別製の小型水晶を旧校舎の敷地内に10箇所埋めた。

そして小型水晶を利用してブリザードウォールという名の吹雪の結界を張った。

結界は指名手配犯を結界の外に出させないようにするための物。

もう一つは興味本位で勝手に入ってくる者の侵入防止も兼ねて。


「あの妖怪もどきはこの敷地に主人が眠っているとしか白状していない。ならば、これで探すしかないな。」

アルヴィスは指輪から二本のクラスターソードを出した。


クラスターソードが出現したと同時に賢者の法衣は黒コートに変化した。


クラスターソードは二刀流専用の剣で威力はそこそこの攻撃力がある。

しかし、武器レベルSのグレイシアソードやオラクルの槍に比べると攻撃力は多少劣るものの

あらゆる種族の生命力に反応する特殊な金属で作られている為、生命のダウジングマシンとも呼ばれている。


「ん?この生命反応は純血種の人間のもの。此処にはまだ誰も登校していない筈。」

アルヴィスが察したのはクラスターソードが自分の瞳の色と同じ朱色の光を二つ放った事。

朱色の光を二つ放つ事は近くに純血種の人間二人の生命反応がある、と言う事を意味する。


このまま侵入されると仕事の邪魔になると判断した為かアルヴィスは攻撃術法を威嚇に使う事を考えた。


「・・・アイスボルト。」

旧校舎に少しずつ近づく足音に反応したアルヴィスは後ろ向きのまま

かなり威力を弱くした氷系術法のアイス、雷系術法のサンダーを組み合わせて

アイスボルトという合体術法を作り出し足音の主の体ギリギリを狙ったのだ。

(もっともアイスもサンダーも各属性最低ランクの攻撃術法なのだが。)


足音の主は突然の威嚇攻撃でバランスを崩しつつも大きな声を上げながら逃げ出してしまった。

「まずは一人撃退。それから、もう一人・・・。」

続いて旧校舎にやってくる二人目を追い払うためにもう一度アルヴィスはアイスボルトを放った。


案の定2人目もバランスを崩し大声をあげていたのだが・・・

何か鈍い音がして旧校舎の敷地内に何かが転がり込んできた。


砂埃がなくなり転がり込んできたのは全身擦り傷だらけの上に足を痛めて悶絶している和樹。

少し血の気が失せたような表情から察するに捻挫ではなくて骨折をしてしまったようだ。


「また、お前か。相沢和樹。・・・こうなってしまったのはオレの所為だし仕方がない。リカバー!」

アルヴィスはため息をついて呆れつつも自分の威嚇攻撃で骨折沙汰にしてしまった責任もあって

体力や傷を全回復+状態治癒させる術法リカバーを和樹にかけた。


リカバーのおかげで和樹の擦り傷はきれいに消え、折れた足の骨も元に戻り和樹自身気絶状態から目を覚ました。


目を覚ました和樹は混乱しつつもアルヴィスの素性を何もかも知っているような事を口走っている。

最初からアルヴィスが半分人間でない事を知っていた事も。


それを聞いたアルヴィスは観念し白状し始めた。

「殆どバレてしまっているなら仕方がない。オレが此処に来た理由を、そしてこの事は・・・」

アルヴィスが続きを言わずとも和樹は秘密だと言う事を把握していた。

和樹の態度を見るとアルヴィスは本当の事を白状した。

此処に来たのは自身が生まれる前の大昔から指名手配を受け続けている罪人がこの地に封印されている事。

一昨日、和樹が目撃したのは指名手配犯の部下の封印現場。

部下の妖怪もどきの下級魔神の白状(ゲロ)からこの小学校の旧校舎に封じられている事を。

封じられているのは魔神ではなく魔神に近い魔力を持った魔族の大魔道士。

その大魔道士を永遠に消去するのが今回の仕事であらゆる世界の秩序を守る守護者。

そして子供に化けて潜入するしか手段がなかった事、調査ミスで対魔神ウィルスの被害にあった事も。


「それでお兄さんは気を失って・・・。あれ?元宮スバルって言うのは偽名ですよね?本当の名前は何て言うんですか。」

和樹の質問にアルヴィスは本当の名を名乗った。


「アルヴィス。魔神世界の言葉で希望の光、と言う意味だ。親しい者はオレの事をアルと呼ぶ。」


「アルさんでいいですか?それと学校の中では小さいアルさんの事はスバル君でいいんですよね。」

アルヴィスは和樹の言葉に対し首を縦に振り和樹の左手首に特殊な腕輪=護身アイテムをつけた。


「これを持っておくといい、この腕輪は心と力に反応し自動的にその人物に合う武器を最大3つまで選び出す。

それから指名手配犯の消去までの間、臨時の守護者助手として任命する。」

アルヴィスは自分の素性を白状した代わりに和樹を臨時の守護者助手として任命した。


中編-3に続く

雨の思い出

2010-06-14 23:07:10 テーマ:三世界の守護者達・番外 posted by orimitsukao

お断り

*作中では直接名前が出ませんが赤い髪の大男はグレイファス、男の子はアルヴィスの事です。

それからアジサイは現在セイヨウアジサイが主流ですが、話の背景の時代はガクアジサイやヤマアジサイ等が主でした。


梅雨の季節の地方の山。

山のふもとには元・武家の隠れ里、今は村になった里がある。

季節は梅雨の時期らしく外は雨。


山の入り口の木の下で雨宿りをする180cm台後半の大男がいた。

男の特徴はクリムゾンレッドの長い髪を襟足で束ね簡素な直垂と小袴姿、庶民の一般的な服装だ。

-雨か・・・。オレはこの雨というものが嫌いだった。12年前、この里に来るまでは-

男は雨に対して余りいい思い出がなく、この里に来る前の出来事を思い出していた。


赤い髪の大男は実は人間ではなくて違う世界からやって来た魔神。

人間体とドラゴン体二つの体を持つ魔神世界・次期総統候補筆頭の実力者だった。


-人間体の時は余り影響が出ないがドラゴン体の時は雨が降るとオレの力は弱ってしまう。-

人間体の時は能力に影響が出る事は少ないが

ドラゴン体での属性は火属性らしく雨が降るとその力は半減どころかゼロに近い状態まで落ち込んでしまう。

ライバル達は、男の体質につけ込み雨の日を狙い襲撃する事が頻繁。

体質と度重なる襲撃で男は雨を嫌うようになったのだ。


この里に迷い込んだ12年前も雨の日に襲撃され、里に飛ばされ一人の少女に助けられた。

少女の説得で、この里に住み始めて雨に映える、ある植物を見て少しだけ雨嫌いではなくなった。

その植物とは・・・


「おーしゃん(お父さん)!」

と大男を呼ぶ子供の声が聞こえる。

子供の声に男は我に帰り顔を上げると・・・

1歳半位の赤茶色の髪の男の子がよちよち歩きで駆け寄ってくる。


男の子は赤い髪の大男の一人息子だ。


道は舗装しておらず雨がある程度の量降ると必ずぬかるんでしまう。

ましてや1歳半位の子供は余り上手に歩けないせいか、足をとられて転んでしまった。

転んで泥だらけになった男の子は泣き出してしまったのだ。


それを見た男は転んでしまった男の子を抱きかかえ顔についた泥を払ってあやした。

暫くすると男の子は泣き止み何かに興味を示し始めた。

「おーしゃん(お父さん)、こえ(これ)なに?」

泣き止んだ男の子が指差した先を赤い髪の男が振り向くと雨の中で可憐に咲く花達があった。

「この花はヤマアジサイ。」

男の子をおろし、男の子の質問に男が答えると男の子はキョトンとしていた。

「やまあじしゃい(ヤマアジサイ)?しゃと(里)のあじしゃい(アジサイ)とちわう(違う)の?」

「このアジサイは里のアジサイよりも小さいんだよ。」

-そうか、これも、この季節だったのだな-


雨に濡れ体が冷えたのか男の子は小さなくしゃみをした。

「帰ろうか、母さんが心配してるからな。それにこのままだと風邪引くぞ。」

男は男の子の目線までかがみ、男の子の髪を撫で優しい口調で言った。


オリキャラひろば-頂き物20

その問いに男の子は笑顔で微笑んだ。


男の子を再び抱きかかえると赤い髪の大男は雨の中、自分の住居へ帰っていった。


-今はこの季節の雨は嫌いではない。この里に来て雨の中に咲くヤマアジサイに惹かれてしまったのだから。-



挿絵は以前、参加しているグルっぽでちび太さまからいただいた物を使用させていただきました。

小さなガーディアン(中編-1)

2010-06-05 20:13:48 テーマ:三世界の守護者達・番外 posted by orimitsukao

「大丈夫?お兄さん!」
アルヴィスの意識が失われ倒れた音に反応し和樹は引き返してきた。

引き返してきた和樹はアルヴィスの異変を感じ取り保健室へ運ぼうと担ごうとした。
「何とかお兄さんを保健室に運ばないと・・・お、重い・・・」
アルヴィスは180cmという身長の割には比較的細身の方。
しかし、小学生で体力も腕力も自信のない和樹にとっては担ぐにも一苦労。
担ぐのを諦め引き摺って保健室に向かう事にした。

-見つけたぞ、新たな我が器を。心弱き小さな少年は我が器にもっとも相応しい・・・-
アルヴィスと和樹の耳には聞こえてはいないが旧校舎にいる謎の存在が和樹に狙いを定めはじめた。
新たな器と言っている事から謎の存在は肉体のない存在なのだろう。
-心弱き少年が引き摺っているあの男、我を封じた魔神の面影がある。-
謎の存在は意識を失っているアルヴィスをかつて封印した魔神に似ていると・・・。

対魔神ウィルスで大ダメージを受けたアルヴィスは夢の中にいた。
アルヴィスの見た夢は両親が殺された時の出来事。
その日は近くの山に父グレイファスと野草を取りに出ていた。
下山する途中で隠れ里のある方角から火の手があがっている事を知り
急いで駆けつけてみると里の全ての住人は無残に殺されていた。
無論、母ゆきも例外ではなかった。
犯人は魔神世界からグレイファスを始末しにやって来た刺客とその手下。
最愛の妻を殺されてグレイファスは怒りに狂い17年間封じていた力を解放し数百人の手下は全て倒したが・・・
刺客自身、かなり卑劣な性格で人質とって、その人質を半殺しにする事は当たり前。
外で隠れているアルヴィスの存在に刺客は気がつき命を奪わぬ程度に全身を傷つけ人質に取ったのだ。
アルヴィスの命を助けるために丸腰になった隙を狙われグレイファスは刺客の手に倒れてしまった。

「・・・父さん!母さん!」
アルヴィスはその声と共にようやく目を覚まし起き上がってきた。

辺りを見回すと意識を失うまでいた高垣台小学校旧校舎とは景色が違う事は一目瞭然。
どこをどう見ても学校の保健室。
「何故オレは小学校の保健室にいる?」

「気がついたか、アル。ワシが担いで此処に運んだ。お前を引き摺ってた眼鏡をかけた背の低い坊主の代わりにな。」
アルヴィスの事をアルと呼ぶ体格のいいスキンヘッドの老人がアルヴィスの質問に答えた。

「オラトリオ師匠・・・何故貴方が此処に。それに眼鏡をかけた少年がオレを引きずってた?」
アルヴィスはスキンヘッドの老人の事をオラトリオ師匠と呼んだ。

このオラトリオという爺さん、アルヴィスの武芸の師匠で身元引受人。
現在は隠居生活をしているが現役時代はファティマ国の将軍で武勇伝は魔界中に名を轟かせたほどのツワモノ。
兵種は戦士ゆえに術法は全く扱う事ができないが武器は全ての種類・全レベルを扱える戦闘のプロ。
もっとも得意としていたのは槍術でアルヴィスの手持ち武器の一つ『オラクルの槍』は元々は彼の所有物。

「まず、ワシが何故、此処にいるかって?」
オラトリオ老は高垣台の町に来た経緯を話した。

アルヴィスが任務で人間界に行って間もなく魔界と魔神世界の条約違反を犯した指名手配犯を捕らえた。
捕らえた指名手配犯は人間界・高垣台の大きく古い建物の敷地全てに新型の対人種ウィルスを撒いた、と
オラトリオ老やファティマ国王ウェンリークの目の前で拷問の末に白状した。

魔界と魔神世界の条約違反とは人間界も含め、いかなる世界いかなる人種に対して
無差別に民を殺す対種族ウィルスを作る事そして、そのウィルスを撒き散らす事。

それを破れば良くても一生プリズン(監獄)から出られない終身刑、最悪の場合は死刑になる重罪。

それをわかっていながら極秘でウィルスを開発し撒き散らす者も魔界や魔神世界では少なくはない。

続きを言おうとしたオラトリオ老は頭を抱えため息をついた。
「そのバカチンは対種族ウィルスを作って撒いた事は白状したがどの種族に対してか、までは聞けんかったのじゃ。
若が弓で場所を考えずにアレをやってくれた所為で・・・犯人はハリネズミになってしまった。」
その話を聞いたアルヴィスは大方使った技が何かを察しており呆れるしかない。

オラトリオ老の言う若とはファティマ国王ウェンリークの事でハリネズミになったとは矢が敵の全身に無数に刺さっている事を意味する。

犯人がハリネズミになる手前の所で中和剤を手に入れウェンリークを拘束させてから人間界・高垣台へと急行した。

人間界に行ってすぐに近所の熟女軍団から高垣台の古くて大きな建物の事を尋ね、
それが高垣台小学校の旧校舎だという事を教えてもらったオラトリオ老が向かうと・・・
普通の対魔神ウィルスなら人間の血を半分引く為に貧血程度のダメージしか受けないアルヴィスが
意識を失う位の大ダメージを受けていたのを見て
撒き散らしたのが新型の対魔神ウィルスだとオラトリオ老はわかったのだ。

アルヴィスの口に中和剤を一口飲ませた後、旧校舎に敷地内全てに中和剤を撒き対魔神ウィルスを無効にしたのだ。

「師匠がここに来た理由はよくわかった。それともう一つ、オレを引き摺ってた少年は?」
アルヴィスは自分を引き摺っていたのは和樹だとわかってはいたが名前を出さず聞く事にした。

「・・・隣のベッドで大人しく眠っておる。正体がばれたらまずいから眠り粉を吸わせた。」
オラトリオ将軍は術法が全く使えない為、武器の効かない相手対策で眠り粉・痺れ粉の類を常備。
隠居になった今でも常に携帯している。

それを聞いてアルヴィスは胸をなでおろした。

「一旦ファティマに帰って力を回復するか?アル。」
オラトリオ老人に聞かれアルヴィスはこう答えた。

「いや、今晩は学校の屋上で子供の姿で体力が回復するのを待つよ。アクア・イグニッション!」
アクア・イグニッションは大人アルヴィスが子供アルヴィスへ変身する言霊。
小学校への潜入捜査や大ダメージを受け体力を回復させる為にこの姿に変身する。

「ん、な、何でしょう。この青い光。眩しいです・・・え?」
保健室の隣のベッドで眠らされた和樹は強い青の光で目を覚ましてしまいカーテンを開けると・・・
目に映ったのは大人アルヴィスから子供アルヴィスへと変化していくところ。

その光景を見た和樹は今まで出た事のないような大声を出し、その声に子供アルヴィスとオラトリオ老は振り返った。

「え、ええーっ!お兄さんと元宮君は同一人物!?」
「・・・って、相沢和樹。お前、いつ目が覚めたんだ!!」
子供アルヴィスと和樹、二人揃って大声を出し互いに指をさした。

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