この話のタイトル、純情乙女はゆきの事で暴走赤竜とはグレイファス本来の姿の事を指します。
距離・時間の単位は今の単位に置き換えて書いています。
なお、この話はダイジェスト版で完全版ではありません。
完全版を発表する予定は全くありません・・・というより不可能なのです。すみません。
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今から800年ほど前の日本。
西の地域にある小さな山のふもとにある小さな村。
一見は普通の農村だが・・・かつて栄え滅んでしまった武家に仕えた者が隠れ住みはじめた隠れ里。
その里のすぐ近くにある小さな畑でクリムゾンレッドの長髪を襟足で束ねた男が草を刈り取っている最中。
刈り取っている草は雑草でもなければ食料用の植物でもない、薬草の一種と思われる。
「グレンさん!」
と男を呼ぶ黒髪の小袖姿の少女が何か小さな荷物を持っていた。
「スノウ、もうそんな時間か。」
男は少女の事をスノウと呼んでいるが本当の名はゆき。近くの里に住む。
そして少女ゆきがグレンと呼んだ男の本当の名はグレイファス。
実は人間の姿に化けた魔神で10年前から理由あって、この村で暮らすようになった。
10年前に彼を助けたのが当時7歳だったゆき。その関係かグレイファスは彼女に対しては親しい。
グレイファスの事に関しゆきは好意を抱いているのだが当のグレイファスは気がついてないようだ。
ゆきが持ってきた小さな荷物はグレイファスのお昼ご飯。
「ありがとう、スノウ。」
ゆきが村に帰ろうとしたその時、彼女の後ろ数十メートルで異様な視線をグレイファスは感じ取った。
異様な視線の先には馬に乗った武士らしき2人の男。
男達はグレイファスが睨みつけている事を知らず、
ひたすら薬草畑から里に帰るゆきを舐める様に見ていたのだ。
「可愛いなぁ、あの子。この村にあんな可愛い子がいたとはね。恐らくあの状態だと・・・」
若い武士がゆきに狙いを定めている事に対し中年の武士が若い武士をたしなめている。
「若、女遊びも程々にしておかないと後で痛い目を見ますぞ。」
中年の武士にたしなめられた若い武士は激怒した。
「うるさい!いいからあの娘の身元を洗い出せ、それから一日も早くオレ様のもとへ連れて来い!何も知らぬ娘をオレ様の手で・・・。たまらぬ。」
「あの野郎達、ここら辺りで見た事がない。・・・ずっとスノウの事を見ていた、何か嫌な予感がする。」
その数日後、グレイファスの嫌な予感が的中してしまう事は本人もまだ知るよしがない。
それから数日後・・・
グレイファスは、用事でこの里から一番近い町に出かける為に里を出た。
数日前にゆきを見ていた2人の武士の存在が気になるのだがグレイファス自身の胸のうちにしまった。
「あの娘を連れて行くのに、この里で一番厄介なのはグレンと言う異国の男。用心棒もかねていると言う噂だ。あの男を引き離せば後は雑魚ばかりだ。」
若い武士は数日の間、この里に関する情報を部下に命じて調べ上げ今日の朝にゆきを誘拐する事を決めた。
グレイファスが里を出て姿が見えなくなったのを確認すると赤い武士は部下に命じ里の入口に火矢を放った。
里から出て二キロ過ぎた地点で何か嫌な予感を感じ取ったグレイファスはすぐに里へと走って引き返した。
道は舗装されているとはいえ今のようなアスファルトではない。
二キロだとグレイファスが走ると5分あれば戻る事が出来る。
5分後、グレイファスが里に戻った時は入口はボヤで済んだようだが
建物の一部が破壊され里の民は被害の大小は有るものの怪我をしていた。
グレイファスは直ちに里の外で栽培していた薬草で作った傷薬を里の者達に配布した。
一番奥にいる里長と妻のさよにグレイファスは駆け寄り何があったのか聞こうとした。
「一体どうした!里長、おさよさん!!」
「おお・・・グレン、大変じゃ。おゆきが、おゆきが若領主に連れて行かれた!」
里長はゆきが若領主に連れて行かれたとグレイファスに伝えた。
「おゆきちゃんの存在をかぎつけたらしいのよ。言う事を聞かなければ皆殺しにすると脅されて・・・」
さよは若領主に脅されて仕方なくゆきは領主の館へと行ったと。
それを聞いたグレイファスは数日前にゆきを舐める様に見ていた若い武士の事を思い出し小声で呟いた。
「あの野郎・・・スノウをさらう目的で見てやがったのか!」
さよの話だと、この里と近隣の村・町を治めている領主は最近、息子に世代交代したばかり。
若領主は以前から若い娘を無理矢理誘拐しては乱暴を働く悪名高い人物だと言う事だ。
「ところで領主の館はどこにある。」
グレイファスは里長とさよに領主の館の居場所を教えてもらうと里の前の薬草畑に向かった。
-10年間、抑えてきた赤竜の力、今・・・開放する!!あいつだけは許す訳にいかぬ。-
誰もいない事を確認するとグレイファスは10年間、抑えてきた赤竜の力と姿を開放し領主の館へ空を飛んで向かった。
ゆきを一刻も早く若領主の毒牙から救い出すために。だが怒りに狂い理性は完全に失われていた。
グレイファスが赤竜となり理性を失ったまま空で領主の館を目指している同じ時刻・・・
領主の館へ連れて行かれたゆきは若領主の寝室へと入れられた。
-助けて、グレンさん!!-
ゆきはあまりの恐怖で声が出ず身動きも取れない状態。
その状態のゆきに対し若領主は乱暴を働こうと、ゆきの小袖の帯に手をかけたその時・・・
領主の館の正門前に突如火柱が上がっている。
若領主の寝室前に中年の武士が現れ伝言した。
「若、大変です!屋敷の前に赤い大きな化け物が火を吹いて暴れております。」
その報せを受けた若領主はゆきをそのまま置いて赤い大きな化け物を倒そうと現場に向かった。
辛うじてゆきの純潔は失わずに済んだ。
-赤い大きな化け物って、まさか!?-
中年の武士の話を聞いたゆきは、その存在に心当たりがある。
-赤竜のグレンさんが助けに来てくれた!!-
ゆきは助かったと希望が出たらしく声が出、体も自由に動くようになった。
若領主が出た隙にゆきは屋敷から抜け出そうと寝室を出た。
すると、ゆきの目の前で大きな赤竜が建物を破壊し人を次々と殺している。
「うそ・・・グレンさんが破壊と殺戮を・・・。」
ゆきは目を見た瞬間、グレイファスが理性を失って暴走している事に気がついた。
理性を失い暴走している赤竜グレイファスは、ゆきの存在を忘れ踏み殺そうとしたその時・・・
「やめて下さい!無益な殺生はしないで・・・お願い、グレンさん!!」
するとドラゴン体のグレイファスは、自身の足元にいるゆきの声と涙に反応し、暴走をやめた。
暴走が止まった事に安心したのか、ゆきは気を失ってしまった。
-ス、スノウ!どうしてこの姿の事を知っている。オレは一度も見せていないはずだが。-
赤竜グレイファスはすぐにゆきを背中に乗せると飛び立った。
最後の報復として口からインフェルノと言う炎系術法を吐き屋敷全て焼き尽くしてから立ち去った。
領主の館から里までは赤竜グレイファスのスピードでは10分もあればいける。
一度、薬草畑に降り立ち、ゆきをおろすとグレイファスは再び人間体へと変身。
ゆきを背負い里の入口へ入った。
すると、里の者達は2人が帰ってきた事に大喜びした。
「大丈夫、気を失っているだけだ。彼女を頼みます。」
里長の妻・さよは、気を失っているゆきをグレイファスから受け取る時、グレイファスの悲しそうな表情の中に決意を決めた目をしている事に気がついたが声をかける事が出来なかった。
日が暮れて夜になり里の住人は眠っている。
但し、グレイファスだけは悩み事があるのか起きていた。
「あいつを助けるためとはいえ・・・オレは赤竜になった。遅かれ早かれこの里に魔神世界の者が来るだろう。」
グレイファスはゆきを女癖の悪い若領主から取り戻す為に赤竜の姿になって領主の館を全壊・全焼させた。
それだけでなく館の住人を殺しており派手に暴走してしまったのだ。
グレイファスは魔神世界の理不尽な掟に背き脱走した、言ってみればお尋ね者。
里の人間にはこの国の遠くの海に流れ着いて放浪した外国人だと偽っている。
-そしてオレの正体がバレたら必ず恐れおののく事は目に見えている。あいつの笑顔も奪ってしまう。
正体がばれてしまう前にこの里を出よう!心残りはあいつを思うと苦しくなる事だけだが。-
里の民を起こさないようにグレイファスは音を出来る限り立てずに外に出て里の入口へと向かった。
外は朝になろうとしていたのか空は少しずつ白み始めている。
-さらばだ、里の人たちと過ごした10年間は忘れな・・・誰だ、入口に立っているのは?-
グレイファスが里の入口にさしかかろうとした時、小柄な少女が立っていた。
入口に立っていた少女を見た瞬間驚きを隠せない。
「ス・・・スノウ!」
そう、入口に立っていたのはゆき。恥らい震えつつもグレイファスを待っていたのだ。
グレイファスはゆきに素性を明かし立ち去ろうとしたが、既にゆきはグレイファスの素性を知っている。
「グレンさんが魔神だって事は私、10年前から知ってました。夢は叶わなかったけれど、お慕いする殿方に純潔を捧げられるのなら乱暴されても私は構わない!!」
ゆきは硬く目を瞑り手を組んでグレイファスの手で乱暴される事を覚悟した。
彼女の夢は成人したら好きな人=グレイファスのもとに嫁ぐ事。
しかし、魔神の男には恋愛感情がない、その夢が叶わぬとわかり乱暴されてもいいから純潔をグレイファスの為に守り通してきたのだと。
人間でなくても愛する男の為なら命を懸けるゆきの姿を見て、グレイファスが長年ゆきに関して苦しみ続けた理由が恋愛感情によるものだとようやく気がついた。
-オレがずっと苦しかったのは魔神には本来ない感情・・・スノウを愛している、という感情。
あいつはオレの正体を全て承知で10年間一途に思い続け純潔を今差し出そうとしている。
オレもあいつの覚悟に全身全霊で応えなくては!!-
グレイファスはゆきを抱き寄せ本当の気持ちを伝え始めた。
「正体がばれたら拒否されてしまう事を恐れオレはお前に思いを伝えられなかった。だが、今なら言える。
オレもスノウの事を愛している。人間グレンとしてこの地に骨を埋め愛する者と未来に生まれてくる子供とささやかだけど温かい家庭を築きたい。」
ゆきへの本当の思いを伝えグレイファスは人間グレンとして人間界で骨を埋め添い遂げる事を決意した。
そして、その夜・・・ゆきは10年間一途に思い続けたグレイファスに純潔を捧げ二人は身も心も結ばれ
程なくして、ゆきのお腹にはグレイファスの子が宿り、その年の冬に赤茶色の髪の男の子が生まれた。
end