第二話「史上最悪の大魔道士(後編-2)」
グレイファスは自身専用術法アンチェインドでエクシリオンを異世界に飛ばしたと同時に自身も異世界に飛び込んでしまった。
アンチェインドは異世界に飛ばす移動系術法だが何処に飛ぶか彼自身も全くわからない厄介な代物。
(同じ移動系術法でもワープやリターンは目的地がはっきりしている)
異世界についたグレイファスは首をかしげた。
「此処は・・・何処だ?」
首をかしげつつも人気がいない事を確認しドラゴン体に戻って空から状況を確認した。
上から見たら木々や自然が殆どだが少し離れた所に多くの木造建築物と往来する人々の姿が見える。
木造建築物は住居だけでなく大きな屋敷や小さい商店も幾つか点在。
人々の衣装は男性の多くは簡素な直垂に袴姿、少数ながら水干姿の者も。
女性の多くは小袖姿で大きな屋敷にいる女性の中には十二単姿の者もいた。
グレイファスが飛ばされたのは人間界、衣装から察すると平安時代中期から後期頃の日本だと思われる。
-成程、此処は人間界。この国は日本というのか。-
地上に降り立ったグレイファスは怪しまれないように人間体に変身した。
今、身につけている衣装は某アニメの砂漠の使徒風の衣装。
「空で見た限り、この衣装は此処では違和感がある。確かこんな感じだったな。」
グレイファスは空で見た庶民の男性衣装をイメージし衣装を変えた。
今の衣装は灰色と黒を基調にした簡素な直垂と袴姿。
グレイファスは早速、エクシリオン探しをしようとしたその矢先・・・
そう遠くはない距離から殺気と邪悪な魔力を感じた。
-強い殺気と邪悪な魔力を感じる。禁術に手を染めた者特有の邪悪な気が。-
感じ取ったその時、頭上と両サイドから大量の氷の矢がグレイファスめがけて襲い掛かってきた。
「ちっ、陰険な事をしてくれる!炎よ、渦巻け・・・フレイム・ストリーム!!」
陰険な不意打ちにグレイファスは腹を立てたがすぐに冷静になり炎の術法で対処。
氷の矢を打ち出した犯人は何処かに隠れていると思われるエクシリオン。
先程の氷の矢でグレイファスはエクシリオンのいる場所をある程度まで割り出した。
「奴の居場所はある程度絞り込めたがどの方角かまではオレ様もわからん!ならば・・・コレならどうだ!!」
グレイファスは右腕を空に向けて伸ばし、人差し指を高く掲げた。
「天を揺るがす霹靂よ、大地に降り注げ!サンダースコール!!」
そう詠唱した瞬間、グレイファスのいる地点から半径1キロ圏内に雷のスコールが降り注いだ。
すると、すぐに断末魔に近い叫び声が聞こえ、グレイファスは術を使うのをやめた。
グレイファスの術法であぶりだされたエクシリオンが前からあらわれた。
「き、貴様!卑怯にもほどがある!!サンダースコールは魔族では扱えぬ強力な技、貴様どこで!?」
エクシリオンの質問にグレイファスは腕を組みながら答えた。
「エクシリオン、貴様の言うとおりこの術法は貴様クラスの魔族の術者でさえ扱う事ができぬ代物だ。」
「わかってるじゃねぇか、若造。なら、何故貴様が扱える。魔族の魔法剣士ごときが!」
エクシリオンのセリフを聞いたグレイファスは不敵な笑みを浮かべながら赤竜に変化解除。
その姿を見たエクシリオンは高笑いしながら次の攻撃術法の準備をしている。
「ふははははは!そうか、貴様が魔神世界の異端児グレイファス将軍だったとはな!!」
エクシリオンのセリフを聞いたグレイファスは怒りの感情を抑え人間体に再び変身。
「誰が異端児だと・・・。」
「魔力・戦闘能力は魔神最強クラスだが無益な殺生と婦女暴行を嫌い、正義の味方面してお節介を焼く変わり者。我はそういう奴が一番だいっ嫌いなんだよぉ!!!」
エクシリオンはそう叫ぶと術法を使いグレイファスを地面に叩きつけた。
-く、くそっ・・・こいつは普通の重力波ではない。普通ならこんなにダメージを受けぬ筈だが。まさか!!-
グレイファスはエクシリオンの術法で地面に叩きつけられた時、禁術の技だとすぐに理解。
「普通の重力波は魔神に余りダメージを与えぬ事ぐらい調査済み!我は魔界だけでなく全ての世界の覇者になる為、禁術に手を染めた。貴様に禁術の犠牲になってもらおうか!!」
エクシリオンは禁術の重力波と同時に攻撃系の禁術を生み出してグレイファスを仕留めようとしたその時・・・
彼の肉体に異変が起きたらしく、嘔吐しながら悶絶している。
恐らくグレイファスだけでなく、色々な場所で様々な人種に対して禁術を乱用したつけが回ってきたらしい。
悶絶の所為か術法の威力が弱まり、グレイファスは重力波の呪縛から解かれると
ブレスレットからクレイモアに形状の似た剣グレイシアソードを取り出しエクシリオンの肉体を斬りつけた。
しかし、仕留めた手ごたえは全くない。
「ふははははは、バカめ!我は精神体だ。光属性の術者でない限り我の体は消滅せん!!」
斬りつけたのは器の方。エクシリオン本体は斬りつけられる少し前に器から抜け出ていた。
「奴の言うとおりだ、オレ様の力では奴を消滅できぬ!だが・・・」
-消滅はさせられないが、あの術法ならば・・・。しかし、オレ様の全魔力を消耗するハイリスクな物。-
グレイファスは魔神ゆえに光属性は扱う事ができない。
しかし、消滅させる事が不可能だとしても封印と言う手段がある事を把握。
その封印の術法はグレイファス自身の全魔力を消耗するハイリスクの術法で使用する事を躊躇っている。
-奴を野放しにする位なら全魔力が回復するのに一日かかっても構わぬ!あの術法で奴を止める!!-
現在の状況と将来的状況を判断したグレイファスは全魔力を消耗してもいいからエクシリオンを封印する事を決めた。
「な、なんだ。観念して我の配下になると言うのか!?」
エクシリオンのセリフに対しグレイファスは睨みつけ指差し術法を詠唱し始めた。
「オレ様は凄く諦めが悪い性質なんでな・・・闇の力よ、悪しき魂を捕らえよ!ダークネス・ホールド!!」
グレイファスの術法が精神体のエクシリオンを捉え身動きできないように。
「し、しまった!貴様は魔神。闇属性が得意だったな。闇属性には精神体さえ拘束する物と封印する術法があったか!!」
更に全魔力を消耗してしまう封印の術法をグレイファスは詠唱し始めた。
「天と地の怒りを闇の箱に変換し悪しき魂を半永久的に閉じ込めよ、ブラックボックス!!」
グレイファスがそう叫ぶと精神体のエクシリオンは黒い箱に吸い込まれ強制的に眠らされて封印された。
黒い箱は禁術の重力波でかなり深くなってしまった所に埋められ土がかぶせられた。
グレイファスがエクシリオンを封じた場所は数百年後、高垣台という地名になり
エクシリオンの封印が解かれ再び暴走を企てる事になるのはそれは後の話。
封印で著しく体力と魔力を消耗したグレイファスは、その場で一晩眠り込んでしまった。
グレイファスは一晩眠った後、衣装を直垂+袴姿から某アニメの砂漠の使徒風の衣装に変えリターンの術法で魔界・クスハ国最北端の村に飛んだ。
エクシリオン襲撃の生存者に再び会いエクシリオンを封印した事を伝えた。
それを聞いた生存者達は大喜びをしたがグレイファスは冷静なまま。
彼が施したのはあくまでも封印、完全消滅できるのは光属性の術者だけ、とわかっていたから。
村から離れたグレイファスは使い魔を召喚し、エクシリオンに関する全ての事を記した手紙をクスハ国王に届けるように指示。
それからカリナの国に北上し試作品のクラスターソードを議事堂の門番に返却。
ここでもエクシリオンの事を伝え門番達には国家元首に近い者に消滅できる術者養成依頼の事を伝言して欲しいと伝え、その場から立ち去った。
お節介ながらも一仕事を終えたグレイファスは自身の故郷へ一度戻る事にした。
「管轄地を貰ってからは帰っていなかったが久しぶりにあそこに戻るとするか。」
グレイファスは誰もいない事を確認しドラゴン体に戻ると久しぶりに魔神世界へ帰っていった。
魔神世界ではライバルの総統候補の言葉を信じきった総統がグレイファスの処刑を命じ
ライバルの総統候補が水属性術法の得意な魔神たちを引き連れて待ち構えている。
グレイファスにとって死の罠が張り巡らされている事は彼自身、まだ知る由もなかった。