【銀の魔導師】希望と絶望の在り処

<オープニング>


 魔弾術士と除霊建築士の力を操る神将シェルティラ。
 その力は個人戦力としては、並の能力者では及びもつかないほどに優れたものだ。
 だが、彼女が今、一人で迎え撃つ敵は、彼女が引き込んだ銀誓館の能力者達をも確実にまとめて倒せるだけの数を有していた。
 多勢をもってすれば神将とて倒し得ない存在ではないということは、他ならぬ銀誓館学園の戦果によって証明されている。

「確実に仕留めなさい!」

 妖狐・梓英の号令一下、妖狐達が一斉にアヤカシの群れを発動させる。無数の幻影がシェルティラを呑みこみ、逆に妖狐達を癒していく。
 勝敗の帰趨は決していた。
 シェルティラは強い。それは事実だ。だが、妖狐達は一撃で倒れなければ回復し、倒されたとしても、また別の妖狐がすぐに現れてしまう。
 能力者達が落下していった穴を背に文字通り孤軍奮闘していたシェルティラは、たちまちのうちに満身創痍へと追い込まれていた。その姿を嘲るかのように、口の端を歪めると、梓英は部下達に攻撃を止めるよう命じた。
「無謀なことをしたものですね、シェルティラ様……いえ、シェルティラ・シャラザード」
「無謀?」
 聞きとがめ、シェルティラが眉を動かす。
「銀誓館学園は確かに強敵です。彼らのメガリス破壊効果は、決戦時には無類の力を発揮します。ですが、彼らでは私達には勝てませんよ」
「へぇ、どうしてだい?」
 その位の事は、神将として出撃する際に説明を受けている。
 時間稼ぎとばかりに答えながら魔法陣を浮かべ、体力の回復を図るシェルティラ。だが、梓英が手を上げると共に襲い掛かったアヤカシの群れが、その回復分をすぐさま削ぎ落とす。
「封神台に封じられた神将は、私達が神将席を剥奪しない限り、滅びることはありません。そして封神台に封じられた神将の力は、銀誓館学園のそれを上回るものです。……無駄ですよ。あなたの行動は、ただの自殺行為です」
 どうやら、封神台の破壊手順を準備したことには気付かれていないようだ。
 シェルティラは内心の安堵を隠して、口を開いた。
「彼らは、希望だよ」
「ほう……?」
「ボクは、妖狐を滅ぼす力を持つ組織が現れるのをずっと待っていた……。この時代で彼らに出会えたのは、幸運だったね。いや、これも運命の糸の導きというべきかな?」
 これまで彼らと過ごした時間が、シェルティラの脳裏を過ぎった。
 敵であるはずの自分に、親しく接して来た彼らの事を思うと、危地にあっても心に温かなものが宿るのを感じる。
「銀誓館学園の能力者には、確かに甘いところがある。戦う者としての非情さも薄い……。でも、それでいい。それこそが、メガリス破壊効果よりも強い彼らの力だ」
 意志の篭った言葉と視線が、梓英を貫く。
 だが、梓英は笑いを抑え切れぬというように口元を九尾扇で隠した。
「彼らに感化されましたか。他の神将担当者からも問題が出たという報告を受けていますし、自由外出は再考する必要がありそうですね」
「余裕ぶった態度を取るのもいいけど、妖狐からも裏切り者が出てること位は知っているよ?」
「銀誓館学園側についた妖狐は、この時代に産まれた新参者や日本出身の妖狐達に過ぎません。『かつての戦い』を生き残った精鋭達には、何の動揺もありませんよ」
 シェルティラに応じる梓英の目に示されるのは、女王への崇敬の念だ。
「金毛九尾様の真の力を知る者が、妖狐を裏切るはずはありません。今は銀誓館学園についている妖狐達も、その力を見れば考えを改めることでしょう」
「その『真の力』とやらを蘇らせるのに、どれだけ詠唱銀と人の命が必要になるのかな。この拠点の詠唱銀も、そのためのものだろう?」
 敦賀港から運び出される詠唱銀の多くが妖狐の女王、金毛九尾の元へと運ばれていることは、シェルティラも知っていた。
「そこまで分かっているなら、九尾様の完全復活は時間の問題であることも理解できるでしょう」
「この拠点が落ちれば復活も遠のくさ」
「封神台がある限り、敦賀は落ちませんよ。神将を使って半日耐えればいいだけの話です」
 梓英の余裕の源は、封神台にある。多数の神将を封じ込め、不死の戦力として用いることの出来るメガリスの力は、強力極まりないものだ。
 だが、全ての神将が開神されたわけではない。
 今ならば銀誓館学園の力で、この基地を打倒し得るはずだ。その内心を押し隠し、シェルティラは告げた。
「必ずやってくれるさ。銀誓館学園ならね」
 その瞳を無表情に見つめ返し、梓英は言った。
「……なるほど。察するに、あなたがここに残ったのも、彼らに攻撃を踏み切らせるためということですか。封神台が破壊されれば、神将は全て消滅する。それは神将席を失った者も例外ではない」
 シェルティラの前で、梓英は納得がいったという表情で続ける。
「あなたが生きていれば、銀誓館は攻撃を行わないかもしれないと危惧しているのでしょう。違いますか?」
「ああ……確かに、その可能性はあったかな。でも、それだけじゃないよ。ボクと一緒に居たら、敦賀脱出は逆に難しくなるからね。神将の居場所、この基地からなら簡単に分かるんだろう?」
 シェルティラによってこの基地へ導かれた銀誓館の能力者達は、彼女を守ろうとするだろう。間違いなく。一人一人の顔を思い出し、彼女は半ば確信をもってそう考える。
「……それに、最後まで希望は捨てないって、約束したからね」
 銀誓館の能力者達を無事に生きて帰らせるという望みを達成するのであれば、彼らだけを先に脱出させるしかなかった。彼女が、仕掛けを施した地点に能力者達を先導したのは偶然では無い。
 自分も脱出するという望みは、かなわないかも知れなかったが。
「さて……それでは聞きたいことも聞けましたし、名残り惜しいですが終わりにしましょうか」
 梓英の言葉に、シェルティラは微笑を浮かべて言ってやる。
「時間稼ぎに付き合ってもらった事に、お礼でも言った方がいいかな?」
「いえ、礼には及びませんよ。あなたの考えは分かりましたし……こちらも準備が出来ました」
「……何!?」
 シェルティラの不意をつくように、部屋に駆け込んで来た者達の姿がある。道服を身に着けた老人達。彼らが何者なのか、シェルティラは知っている。
「除霊建築士!?」
「よくもワシらを謀ってくれたのう、小娘が!」
 能力者達を落とした脱出口を作るため、シェルティラが騙して協力させていた除霊建築士達。彼らは勢いよくシェルティラに向けて手を突き出して来る。
「石兵点穴……!?」
 自身も除霊建築士の技を修めているシェルティラは、即座に彼らの一人を打ち倒すが、一斉に繰り出された石兵点穴を避け切ることは出来なかった。除霊建築士の手が触れた場所から、シェルティラの体が石へと変わり始める。
「しまった……!」
 そこに、すかさず梓英達の攻撃が集中した。
 さしものシェルティラもその攻撃を凌ぎ切れず、彼女はついに、限界を越える。
「これまでか……。でも、希望はつないだ。後は……」
 それが最後だった。シェルティラは、完全なる石像と化して通路に倒れ込む。
「ご協力に感謝しますよ、許老師」
「なんのなんの。ワシらまで裏切ったと思われてはかなわんからのう」
 梓英は除霊建築士に礼を言うと、石像と化したシェルティラを踏みつけた。
「知っていましたか? 神将席を失った神将は、戦闘不能となれば消滅します。ですが、石化した状態で倒されたのなら、石像として残るのですよ」
 石像と化したシェルティラは、何も語らない。その顔を見下ろし、梓英は続けた。
「勿論、石化を解除すれば消滅しますがね。ですが、あなたの大事な能力者達をおびき出すには充分な囮になるでしょう」
 敦賀拠点の存在、そして封神台の在り処は、妖狐にとって最大の機密事項だ。
 この情報は、守らねばならない。
 通信を封じることぐらい、今の敦賀市内であれば簡単だ。要は、敦賀を脱出させなければ良い。
「逆に石化を解除する前に神将席を復活させれば、生き伸びる目だってあるのですよ。要するに、人質ですね。……嗚呼、まるで裏切られた私達が悪人のようですね。酷い行為だ。心が痛みますよ」
 燐澪にシェルティラを運ぶよう促し、梓英は一人頬を歪めた。

●脱出口の先で
 シェルティラの仕掛けた穴から落とされた場所は、さらにスロープへと繋がっていた。スロープを滑り、ご丁寧に置かれた落下の衝撃を吸収するためのマットに降り立った能力者達が立ち上がるや否や、彼らの耳に高笑いが届く。
『はっはっはー、来たか! 我が強敵と書いて「とも」達よ!』
「お前は……!!」
 通路の陰に隠れ、顔を半分のぞかせながら声をかけて来るヒーロー姿の地縛霊に、能力者達は見覚えがあった。
『我が名はジャスティーン! お前達を敦賀から脱出させるため、恩義あるシェルティラの頼みを受け、ここに参上!!』
「教えてくれ、この脱出口の入り口に戻るにはどうすればいい!?」
 武内・恵太(真牙道忍者・b02430)の勢いに、押されるようにジャスティーンは一歩下がった。
『い、一度外に出て、入り口から戻るしかない! それが一番早いな! それよりも、早く逃げなければ追っ手がすぐに来るぞ!!』
 言い捨てて走り出すジャスティーンに従い、能力者達はその場を後にした。

 警報が鳴り響く中、能力者達はジャスティーンの後について建物と建物の隙間を走り抜ける。
 シェルティラがジャスティーンに指示していたルート設定が良かったのか、それともジャスティーンの臆病な性格故か、今のところ妖狐達に見つかった様子は無い。
「どこまで行くんだ?」
『シェルティラの頼みは、お前達を脱出させることだ!』
 敦賀港近くにある拠点から、敦賀駅方面へと向かう貨物列車に能力者達を隠れさせる。
 その後は、敦賀駅から列車を利用して脱出すれば良い。通信を封鎖している影響で、妖狐の追跡もまだ完璧では無いのだ。脱出するならば、今しかない。だが、ジャスティーンの言葉に、スバル・ミストレス(自由を求める魔導師・b40526)は思わず足を止めた。
『どうした!? 逃げないのか!』
「シェルティラさんを置いていくわけにはいかないですよ!」
 自分達に重要な情報を与え、こうして逃げる算段までつけてくれているシェルティラ。
 彼女を見捨てるわけにはいかないと、皆が思う。
「でも……戻って、助けられるの?」
 だが、八雲・紫織(彷徨うマリス・b41675)の指摘に、能力者達も言葉に詰まった。
 シェルティラを助け、自分達も欠ける事なく脱出する。それが非現実的に過ぎることを、全員が理解していた。

 その時だった。
 警報音が不意に止み、スピーカーから女性の声が流れ出す。
『銀誓館学園からお越しの皆さんに、御連絡致します。シェルティラさんが皆さんをお待ちです』
 燐澪の声だ。能力者達は、その内容に顔を見合わせる。
『30分以内に出頭し、降伏しなければ、シェルティラさんは二度と復活できない石の欠片に変わることでしょう』
「そんな……」
「卑劣な真似を……!!」
 小早川・奈々(シトラスアナイアレイト・b16673)が口元を押さえ、御蛹・真紀(蟲姫・b44782)が眉をしかめる。
 だが、その憤りも、スピーカーの向こうまでは届かない。
『では、基地の入り口にてお待ちしています』
 スピーカーを通じて、声は平静に告げた。


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参加者
武内・恵太(真牙道忍者・b02430)
久郷・景(雲心月性・b02660)
小早川・奈々(シトラスアナイアレイト・b16673)
五十海・刹那(地獄の無鉄砲・b23743)
シーリウス・ユリアン(キャットシー・b33413)
スバル・ミストレス(自由を求める魔導師・b40526)
八雲・紫織(彷徨うマリス・b41675)
御蛹・真紀(蟲姫・b44782)
笹森・夢路(人間中退者・b52034)
川澄・華凛(黒の剣閃・b53304)



<プレイング>

プレイングは1週間だけ公開されます。

武内・恵太(真牙道忍者・b02430)
○目標
生還

○心情
シェルティラ(以下S)も一緒に、そう決めたのに…
納得なんて出来るわけない
けど泣く時間があるなら希望の為に一歩でも足を前に
俺達は、Sの思い、無駄にしちゃいけないんだ

※に従う
※【ルート】敦賀港〜敦賀駅周辺は貨物列車
敦賀駅からは舞鶴か近江塩津方面に向かう一番早い列車で
無理なら車、トラック、徒歩等で市外を目指す
※【連絡】電波が通じ次第携帯で状況報告と救援要請

学園には全情報を開示
緊急時は信号待ちの車を奪い仲間を乗せ逃走

○貨物
景と服を交換
黒い髪と瞳、眼鏡で変装し仲間のも手伝う
降りるタイミングや駅までの行動は皆に準拠
迅速を心がける

○駅から列車にかけ
奈々とデート中の恋人のように振る舞い
移動、乗車時にはくっつく等で顔を自然に隠す
挙動不審にならない様警戒も最小限の動きで
他班とはフォローしあえる距離を保つ
緊張した風に見えないよう留意

○戦闘発生時

殲滅戦
紅蓮奥義と吹き飛ばしで攻撃重視、回復は最小限
各個撃破し出来るだけ迅速に
倒した相手は可能なら隠す

撤退戦
正面の敵に対し上記同様で退路を開く
逃げながら体力回復

いずれも柱や座席等遮蔽物を利用
敵の射線を切りつつ近接、攻撃


○戦闘不能時
Sだけでなく自分まで見捨てるのか、と絶望
学園を裏切る、Sも目を覚ます筈
逃げた奴がいる以上殺しても意味がない
戦争時の人質等で自分の利用価値を提示

どうせほぼ死ぬ状況だ
気合を入れて悔しがる演技をし神将扇動して封神台奪取に繋げてやる

久郷・景(雲心月性・b02660)
彼女の事を諦め切れない気持ちは強く残っていますが
彼女の意志を継ぐ事を選びましょう。
誰一人欠ける事無く学園に辿り着く。
そして妖狐の目論見を阻止する。
ですが希望は捨てません。
妖狐がまだ彼女を人質として価値があると考えれば……。

■逃走方法
A班:恵太 奈々 シーリウス
B班:刹那 華凛 スバル 景
C班:紫織 夢路 真紀

恵太さんと服を交換した後
猫変身して刹那さんの鞄に隠れる。
列車、その他移動手段時でも同様。
鞄の中から見える範囲でも周辺を警戒。
こちらを見てどこかへ連絡していたり
後方から不意打ちを狙う動きを見つけたら
周囲に気付かれない程度の大きさの鳴き声で
仲間に注意喚起。

住人達と遭遇する前にジャスティーンから
貨物列車の位置とルートを聞き、別れる。
途中、敵と遭遇した場合は
敵が戦闘可能な味方の半数以上なら逃走。

■戦闘
猫変身を解除。
逃走ルートの前に現れた場合は接近して通常攻撃。
近接後はジェットウインド奥義で攻撃。
そうでない場合はその場でジェットウインド奥義で攻撃。
尚、接近の際に障害物がある場合はそれを利用し
敵の射線を避ける様に移動。

HPが50%を切った場合と
戦闘終了後にダメージがある場合のみ射手を使用。

戦闘時は味方が1名でも攻撃不可となる
BSを受けた場合は浄化の風を使用。

逃走時は味方が1名でも移動不可となる
BSを受けた場合は浄化の風を使用。
その際に孤立しない様、仲間に援護を要請。


他、※の共通事項には従う。

小早川・奈々(シトラスアナイアレイト・b16673)
【目的】
敦賀市からの脱出

【行動】
●班分け
恵太さん、シーリウスさん、小早川

●逃走
ルートをジャスティーンさんに聞いて、彼とはここでお別れですね

貨物列車では敦賀駅に着くまでに変装
八雲さんと髪を切りあいまして、お互いショートに整えます
服装は地味目で動きやすい服装にしておきますね

貨物列車は、スバルさんの合図でイグニッションして飛び降り
無事におりられたら解除

敦賀駅では班ごとに別れ、人混みにまぎれます
10〜15mほどの距離を開け、他の班が視界に入る位置をキープ

鞄に猫シーリウス先輩に入ってもらい
武内先輩と恋人を装いながら、周囲を警戒して移動します

妖弧に見つかったときは自分たちの半数なら戦闘、それ以上なら逃げます

●戦闘
連携と速攻重視、起動したら全力全開です

ローリングバッシュで気絶を狙い、退路を確保
通常攻撃で吹き飛ばすときは、進行方向外にとばします

遠距離攻撃系は遮蔽物を利用して避けるようにします

●共通事項
嫌な気配を感じたときは、頭を2回叩いてサインを送ります

●戦闘不能時
誰かの場合は、脱出優先
自分の時は、情報は話しません

●その他
※共通事項には従います

●心情はお手紙にしてジャスティーンさんへ

ごめんなさいっていうと怒られそうですけど、でもごめんなさい
シェルティラさんのこと大好きだから、想いを抱きしめて、今は逃げます

でも、絶対に戻ってきます
そのときもし貴女に会えなかったとしても、想いは必ず遂げて見せます

華凛・奈々

五十海・刹那(地獄の無鉄砲・b23743)
シェルティラは心配だけど、目的に為に歯食いしばって妖狐の仲間であったように、俺も今は歯食いしばって学園の皆に連絡することを優先
敦賀市脱出が最優先だ

※印の共通事項に従う

●逃走
なるべく目立たないように、人影に身を隠し逃走する(不自然にならないように気をつける)
行動に時間をかけないようにし、時間がかかる行動は避ける

夜は上着を羽織る等時間帯に合わせた服装を心がけ、周りの人の格好や話題を調べながら、目立たない格好や行動をする
(親戚の家への旅行を装う)
猫変身の仲間は、型がしっかりしたリュックにいれていく

逃走経路はジャスティーンから聞く
その上で、今後バラバラに行動することを念頭に置いて逃走のポイントや合流地点を相談

駅や電車でみんなとはぐれても待たずに学園を目指す

敦賀市を脱出し可能であれば学園へ連絡

※交戦判断
敵がこちらの半数以下の場合、口封じ&時間節約の為全員で戦う
半数以上の場合、発見された班は逃亡
残りの班は、見つかりそうな場合全力逃走(班同士、別々の方向に逃亡)
少なくても近くに気配がないか確認
比較的安全なら下手に注目を集める事を避け、他人の振りし場を離れる

●交戦
光の槍を使用して、数を減らす事を考える
出し惜しみして時間のロスするわけにもいかねーし、全力で
大きな怪我をした場合のみ自己回復
軽いものであれば、逃亡時余裕があれば回復
極力派手なエフェクトにならないよう、光を抑えたり不必要な方向に向けない

シーリウス・ユリアン(キャットシー・b33413)
※共通事項は従う

■行動
皆が行動する前に手紙を手早く書く

詳しい道順を聞きて迅速に行動し、ジャスティーンと別れる前に手紙を託す
「これを無事に梓英や燐澪に届けてくれ。拾ったと言っても構わない。お前だけが頼りなんだ、俺達のヒーロー…」

手紙内容
『今回は逃走する。だが、…どうしてもシェルティラの命は惜しい。殺さないでくれ。今度会う時に彼女が無事なのを確認出来れば、俺は学園の強みである、未来予知が可能なメガリスを手にして投降する』
と嘘のメガリスで交渉し、彼女の延命を望む

仲間と共に足並みを揃え、警戒して貨物列車に乗り込む
必要ならば機械修理を活用し、不審に思われないように閉め直す

貨物列車内で、目立たない様にスバル(猫)を落ちない様に支え外を覗かせて外を警戒

後の移動方法は、奈々の鞄に猫変身して入る
鞄の中から穴を空け、覗き込んで周囲を警戒
危険感知したら鞄を叩いて仲間に報告

危険な場所等は猫変身して身を潜めながら先行偵察
不審な人物、集団が居るか感知
自身が危険と感じたら、さり気なく逃走して仲間に報告

■戦闘
常に声を掛け合い連携を重視

猫変身を解除し、敵の数が少なければ雷の魔弾で攻撃
敵の多い場合は一点突破を狙い近接攻撃して逃走

祖霊降臨は声を掛け合い無駄撃ちせずに傷が深い味方に使用
自身の傷は魔弾の射手を使用

自身や味方が動けない状態異常になれば、即座に赦しの舞を使用

戦闘後、余裕があれば味方の回復して重傷者を出さぬ様にする

スバル・ミストレス(自由を求める魔導師・b40526)
※班分け及び共通事項は遵守

■心情
何も出来ないで逃げるのか、何も…
…シェルティラの想いを希望を抱いて進もう

■逃走
猫変身しておく
鋭敏感覚は常時研ぎ澄ます
貨物列車では頭だけ出して先を確認し、人気のないところ(出来るだけ駅に近く)を確認したら尻尾を振って知らせる
貨物から飛び降りた後、華凛さんに用意しておいてもらったリュックの中に入り込んでおく
リュック内の時は空いてる小さい穴から覗くようにしておく

人の気配を感じたら動かないようにして音を出さないように注意
戦闘になりそうならばリュックから飛び出す

■戦闘
速攻を重視しクレセントファングで切り込む
逃走の条件になれば、素早く班メンバーと共に全力逃走
逃走時はメンバーの先頭に立ち進む

街中での逃走方法は
人ごみに紛れるのが無理そうならば
ビルや家の中に入れるならば入った後、素早く窓をクレファンで壊して脱出
逃走時にHPが減っていればインフィニティエアで回復して前を進む
遮断物があれば利用
出来るだけ鋭敏感覚で前方を察知できるように注意しておく
車を強奪できるならば、運転できる人に託す


基本HPは50%以下で射手(戦闘)インフィ(逃走、HPが極力やばい時)を使用
逃走完了時はHPは完全回復する

■戦闘不能時
他の人の場合は脱出を優先
自分の時は命乞いをし
助かる場合は妖狐側につけるか人質扱いを希望
その際シェルティラも人質として使うのが良いと伝える

■他
報告内容は夢路さんの記載内容に遵守

八雲・紫織(彷徨うマリス・b41675)
最優先目的
最低一人、生きて学園に帰還

心構
自分が死ぬ覚悟
仲間を見捨てても目的を優先する覚悟
一般人が巻き込まれる覚悟

※他メンバーの共通事項に従う
共通事項:人目、監視カメラの無い所ではイグニッションして移動やショートカットも考える/それ以外では常時解除

逃走
目立たない/住民の半分は敵勢力な事を念頭に行動
飛び移る等して敦賀駅方向の貨物列車に潜入
列車内で御蛹先輩と手早く服を交換
アクセの眼鏡も着用
髪を小早川先輩と互いに切り整えあう
皆で今後の流れを再確認
自分が捕まって人質にされても救出無用と伝える
敦賀駅付近で飛び降り
降りるタイミングは仲間が決める手筈
飛び降れない又は降りても駅に行けない場合は
停車駅で密かに降りる方針に転換
笹森先輩と恋人を偽装し移動/互いにフォロー
他班とはお互い見える位置を保つ
他班が多数の敵と遭遇→見捨てて逃走
敦賀駅で来た電車の行先を確認して
市外へ出るものなら乗車
最短で学園を目指す

電車内
乗客乗務員に敵がいる事を警戒
敵との騒ぎ等で電車が停止→車外に脱出
トラックの荷台に潜入/山野に潜む等で市外へ

戦闘
標準/積極攻勢
戦う相手は少数想定で速攻を狙う
初手からジャンクプレス奥義を使う
自分or仲間の体力が6割切ったらヤドリギの祝福
エンチャ目的で使うときは御蛹先輩を優先
逃げる時は敵の足止めBSを最大限警戒
状況次第で、一部が残って足止めし残りが逃げる事を提案

戦闘/行動不能者
街中で目立つ/移動が遅くなるなら置いて行く

御蛹・真紀(蟲姫・b44782)
■共通事項
▽ジャスティーンについて
シェルティラから指示された逃走ルートを尋ね
貨物列車潜入直前に別れる

▽班分け
A班:恵太、奈々、シーリウス(猫)
B班:刹那、華凛、スバル(猫)、景(猫)
C班:紫織、夢路、真紀(黒燐憑依)

各班は適度に距離を開けて他人のフリ
いざという時はすぐ支援に駆け付ける

●心情
本音を言えば
シェルティラを見捨てるのは悔しい
助ける方法が思いつかない自分の才覚の無さを呪いたい
でもだからこそ
彼女の願いだけは必ず果たす!
彼女の意志を継げるのは私達だけだから…

●特記事項
※共通事項に従う
※人目の無い所では常時イグニッション
※必要時以外は黒燐憑依(仲間の要請で解除)

●逃走
貨物列車に隠れて乗り込んだら
仲間と服を交換したり
アクセの服や化粧品で変装

貨物列車内に隠れて
今後の流れを検討すると共に
時刻表で各公共交通の時間等を確認

妖狐に列車での逃走を気付かれた場合
駅に付く前に列車を飛び降り
車、トラック、徒歩等で市外を目指す

●戦闘基準
敵がこちらの半数未満なら戦闘

基準を満たしていても
敵が戦闘を長引かせるようなら逃走

●敵の見分け方
可能なら華凛に闇纏いの使用を依頼
華凛が見える人は敵能力者
ただし
明らかに敵が気付いていないようなら
戦闘せずにやり過ごし騒ぎを起こさない

●戦闘
初手強化せず攻撃
迅速な殲滅を優先
仲間や自分に使う奏甲は最小限で
移動時余裕があれば体力を回復

●情報
全て開示
破壊すれば全ての神将が消える事も含め

笹森・夢路(人間中退者・b52034)
■心情
絶対に生還、シェルティラ、皆も無事に笑って学校に帰る
それだけです、頑張り所ですね

■脱出
基地脱出の際は班分けで集団行動
足音には極力注意
ガラス等の反射道具を用いて曲り角に当てて敵が居ないか確認
敵の足止め系の不意打ちには細心の注意を払う
敦賀駅方面行きの貨物列車に潜入
詠唱兵器の衣服、眼鏡で一般人に装う格好に変装
八雲さんと共にフォローし、
公共カップルの様なフリをし話し辛く極力目立たない雰囲気を作る
「とりあえずほら、寒いのは大敵ですよ?」
降りるタイミングは仲間内で見計らう

■電車内
鋭敏感覚で乗客乗員に敵がいる事を警戒

■交渉
交渉の流れが悪くなればフォローに徹する

■戦闘
ノーブルブラッド=N
極力前衛で集団行動

まずはN使用
後はクレセントファングで手負いの敵から順々に狙う
体力が半分以下ならN
敵の数次第で集団の総意に従い撤退を提案

■学園への掲示内容
記憶能力をフル活用
また皆にも記憶作業は極力手伝って貰う

・妖狐拠点は福井県敦賀市全域であり、半数以上が現在妖狐勢力基地は要塞化の準備を進めている
・基地の場所とそこまでの道程(大きな倉庫や建物のある港)
・捕縛しているリリスや妖獣、詠唱銀の延べ棒、詠唱兵器と日本妖狐の具体的な数やその輸出先の場所
・基地内の大間かな地図
・大陸妖狐や除霊建築士の人物リスト
・日本に入荷する物資、妖狐勢力に組する者達の名前
・封神台の破壊手順
・見聞き行動した事は全て話す

■その他
共通事項は遵守

川澄・華凛(黒の剣閃・b53304)
※共通事項に従う
人の目、監視カメラの無いところでは常時イグニッション状態。
監視カメラの有無は周囲を見回る事で探すことが出来れば。

【逃走】
ジャスティーンさんには予め指示された行動予定や推奨ルートを聞いておきます。
貨物列車の中では協力しあいながら変装。
変装は上にコートを羽織り、一般人を装えるように。
髪は編み、伊達眼鏡をかけて顔もわかりにくく。
刹那さんと姉弟を装い、手をつないで行動します。
周囲を警戒はしますが、あまり目立つような行動は避け、普通の人と同じ雰囲気を持たせます。
スバルさんにトートバッグの中に入ってもらい、周囲の警戒をしてもらうようにお願いします。

【戦闘】
突破を第一に考えるため、進むべき道へと走りつつ自身に黒燐奏甲を。
その後は黒影剣での正面突破を重視して行動。目標は状況に合わせて。
この際、孤立しないように特に注意して動きます。遮蔽物も可能なら利用します。
防具分以上のダメージを受けた仲間が出た場合、付近であれば黒燐奏甲による回復で援護を行います。
可能な限り前に進んで突破することを重視しつつ、誰か倒れた場合は振り返らずにそのまま走るように。
自身の傷が深い場合は旋剣の構えをとり、黒燐奏甲の数を温存します。

【捕縛時】
抵抗はしませんが命乞いはします。
助かる場合は自分を見捨てた学園を裏切り、妖狐側につけるか嘆願し、人質扱いを希望。
その際、シェルティラさんも人質とした方が良いとも伝えます。




<リプレイ>

●意志を継ぐ
 束の間の沈黙が、その場を支配した。
 ここで自分達が逃げれば、シェルティラは確実に死ぬだろう。
 逃走しなければ、彼女が生き残る目もあるかも知れない。
「でも、それは、シェルティラさんの望みではないですよね」
 御蛹・真紀(蟲姫・b44782)が力なく呟く。ここで自分達が捕らえられれば、彼女の望みもそこで絶える。
 出頭する者と逃げる者を分けるという考えもあるだろうが、それで出頭した者が生き残ることの出来る手段も、即座には出て来ない。
 苦いものを噛んだような表情で、五十海・刹那(地獄の無鉄砲・b23743)は言った。
「撤退しかない」
「……はい。彼女の意志を、尊重しましょう」
 久郷・景(雲心月性・b02660)が同意する。ここで自分達が死んでしまえば、シェルティラの命を賭しての行動は全て無駄になるのだ。
『決まったか。ならば行くぞ!』
 言うが早いが、ジャスティーンは再び走り出す。
 脱兎のごとく妖狐の拠点から離れていく彼を、能力者達は追う。
「何も出来ないで逃げるのか、僕は……」
「……せめて、彼女の願いだけは叶えてあげましょう」
 でなければ、あまりにも報われない。彼女の意志を継げるのは、自分達だけなのだ。内心に忸怩たるものを抱えたまま、スバル・ミストレス(自由を求める魔導師・b40526)と真紀も先を急いだ。

 海沿いの施設の隙間を抜けた先には、金網のフェンスが立っていた。だが、そのフェンスの一部は破れ、用を為していない。
「これも、シェルティラさんの細工のうちですか」
 笹森・夢路(人間中退者・b52034)は、そっと裂け目の向こう側を覗いた。古びた線路が、市街地の方へと伸びている
「線路自体は、随分古いですね」
「普通の路線じゃ無さそうだな」
 武内・恵太(真牙道忍者・b02430)の言葉に、真紀は頷いた。彼女が持つ最新の時刻表では、この方面への電車は存在しない。
「たぶん専用路線……使われなくなった路線に手を入れて、勝手に利用しているようです」
「自分達の影響下にある市だからって、随分と好き勝手にやっているみたいね」
 八雲・紫織(彷徨うマリス・b41675)は、飽きれたように呟く。
「神将事件が起き始めて約半年。封神台を運び込んだのが状況を整えてからだとすると、かなり以前から、妖狐はこの市に侵入していたんですね」
 小早川・奈々(シトラスアナイアレイト・b16673)の推測は、おそらく正しいだろうのだろうと皆は思う。富士山麓の戦いで銀誓館に基地を潰されたこともあり、妖狐はよほど厳重に警戒していたに違いない。
『ここで待っていろ! しばらくしたら、加速中の列車が来るから飛び乗れ!』
「その後はどうすればいいんですか?」
 川澄・華凛(黒の剣閃・b53304)が問うと、ジャスティーンはきっぱりと答えた。
『そのまま乗っていれば敦賀駅に出る! 後は勝手にしろ!』
 華凛が目を瞬かせる。
「駅まで出られれば大丈夫ということですか?」
『俺に頼るな! 一時は協力したが、お前達とは敵同士なんだぞ!』
 スバルの問いに、ジャスティーンが応じるのを聞き、景は仲間達に顔を向けた。
「……これは、今のうちに打ち合わせておいた方がいいですね」
 真紀の時刻表を参考にしながらの打ち合わせを始める能力者達から、ジャスティーンは一歩、距離を取る。
『では、これでシェルティラとの約束は終わった。さらばだ!』
「待った!」
 そそくさと逃げようとしたジャスティーンの肩を、シーリウス・ユリアン(キャットシー・b33413)は咄嗟に掴んで止めた。
『な、なんだ!? 謝るから殺さないでくれ』
「いや、お前もともと死んでるだろう。……この手紙を、梓英や燐澪に届けてくれ」
 走りながら書いた手紙を、シーリウスはジャスティーンに無理やり握らせる。
「拾ったと言っても構わない。お前だけが頼りなんだ、俺達のヒーロー……」
「私達からも、お願いします」
 華凛と奈々も、シーリウスに続いて、手紙を彼に渡した。
『……まあ、いいだろう。言っておくが、俺とお前達は敵同士だからな! 恨むなよ!』
 言い捨ててジャスティーンが去っていく。
 それを見送った能力者達は、線路に震動が走るのを感じた。
「来ます……準備はいいですか!」
 奈々が告げる。
 そして十秒後、眼前を横切っていく貨物列車に向け、能力者達は一斉に跳躍した。

●敦賀港
 拠点の前で銀誓館学園の能力者達を待っていた妖狐・燐澪は、腕時計に視線を落とした。
「来ませんねぇ……」
 能力者達に指定した30分の猶予は半ばを過ぎたが、周辺に伏せた妖狐達からも連絡は無い。
 と、拠点の外の方から、一台の車が走って来ると、燐澪の近くの駐車スペースに停まった。燐澪にも見覚えのあるナンバーの車の運転席から降りて来たのは梓英だ。
「連絡は終えましたが……やはり来ていないようですね」
 30分の猶予を与えるとは言ったが、無論その間、妖狐側が座して待っていたわけではない。
 梓英は銀誓館の能力者を待つのを燐澪に任せ、他の妖狐達に警戒を連絡して回っていたのだ。
 逃亡した能力者達に通信を行わせないためにも通信封鎖は解くことが出来ないが、市内各所に他の妖狐達を向かわること位は出来る。
「シェルティラさんの犠牲を織り込んで作戦を貫徹するとは、中々根性の座った人達ですね。銀誓館の能力者は甘いと聞いていましたが、案外やるものです」
 半ば自棄気味に能力者達のことを賞賛する梓英に、燐澪は溜息一つ。
「あとは、網にかかるかどうかですね……」
「ですが、何か手がかりでも無い限り、捕まえるのは厳しそうです」
 梓英が拳を握る。一体の地縛霊が彼らの元を訪れたのは、その時だった。
『失礼する。このようなものを、拾った、んだが……』
 2人の視線を受けて、ジャスティーンの声は後ろになるにつれて小さくなっていった。
 ジャスティーンが持っていた能力者達の手紙を受け取り、梓英は底冷えのする声で尋ねる。
「これを、どこで拾ったんです?」
 妖狐の下僕、『百鬼夜行の地縛霊』であるジャスティーンは、正直に答える。
 そして妖狐の拠点から、梓英を乗せた車が猛スピードで飛び出して行った。

●敦賀駅北陸本線上りホーム
 敦賀駅は、JR北陸本線と小浜線、2つの路線に属する敦賀駅の中心駅だ。
 貨物列車が止まる前に列車から飛び降りた能力者達は、一旦3グループに分かれた後、この駅の北陸本線ホームへと到着していた。

「……あと3分」
 恵太が腕時計を見て小さく呟く。彼の横、恋人を装って側にいる奈々の体にも緊張が走る。
 能力者達がいるのは、近江塩津方面に向かう北陸本線のホームだった。
 恵太は東舞鶴か近江塩津方面に向かう腹だったが、
「こっちの方が、列車の本数多かったしな」
 北陸本線のホームにいるのは、恵太と奈々だけではない。2人のいる待合室からも、刹那と華凛、紫織と夢路が、それぞれ2人組を作っているのが見えている。他の4人の姿が無いのは、スバルと景にシーリウスが猫変身をしてバッグに隠れ、真紀が黒燐憑依法で華凛に憑依しているせいだ。
 三手に分かれた事、本業能力の利用によって見かけの人数が減った事で追跡の目も逸れたのか、今のところ妖狐達からの攻撃は受けていない。
 妙にくっついたカップルがいるとは思われてはいたかも知れないが。
 不安を示すように、奈々のカバンに隠れたシーリウスが喉を鳴らした。

 スバルを鞄の中にいれた華凛と、景をリュックサックに入れた刹那。2人(と2匹)は、姉弟よろしくホームで電車を待つ。
「向こうに着くの、楽しみだね!」
「ええ、そうですね」
 何気ない会話を交わしながら、華凛はホームの監視カメラに目をやった。
 敦賀市の半数を占める妖狐達が、市の異常を気付かれまいとしている以上、市の玄関口である敦賀駅を監視していることは十分に考えられる。
「……不安なものですね」
 能力者達は武器を隠す必要もあってイグニッションを解除し、さらには服を交換するなどの変装も行っている。だが、戦闘を仕掛けられたらイグニッションで姿が変わるため、一発で銀誓館学園所属だとバレてしまうだろう。
 そしてイグニッションを解除している現状、彼らのあらゆる能力は妖狐達よりも下だ。
 敵がこちらに気付いても、こちらが気付けない可能性は十分に有り得る。
 既に気付かれているのではないかという不安を抱きながら能力者達が待つうち、ホーム上にアナウンスが響いた。

『間もなく、電車が参ります。黄色い線の内側に下がって、お待ち下さい』

「来るみたいね」
「そうですね……。ほら、寒いのは大敵ですよ?」
 夢路は紫織の肩にマフラーをかけると、小声で告げた。
「……列車内にも、いますかね?」
「……そう思って行動しておいた方がいいんじゃない?」
 列車内にも敵がいれば、脱出の難易度はさらに増す。この駅からの次の列車に乗るのは彼らだけのようだが、警戒を絶やすことは出来ない。
 やがて、やって来た電車のドアが開いた。
 能力者達を乗せて、電車はゆっくりと敦賀駅を離れ、山へ向かう線路へと走り出す。
 能力者達は、時計に目を落とす。
 電車を降りる頃には、妖狐達に指定された時刻を過ぎているであろうことは確実だった。

●敦賀駅
 能力者達の乗った列車が敦賀駅を発ってから僅かに遅れ、拠点から車で敦賀駅に乗り込んだ梓英は、駅を担当する妖狐に命じた。
「全路線を止めて下さい。手段は問いません」
 ジャスティーンが『手紙を拾った』とした場所の情報で、銀誓館学園の能力者達が敦賀駅に向かったであろうことは分かっていた。まだ見つかっていない以上、既に列車に乗った可能性が高い。
「……間に合うといいのですが」
 梓英は地図に目を落とす。既に列車を追っている部隊はいるものの、彼らが到着するまでに時間がかかるのは明白だった。

●県境付近
 敦賀駅を出て約10分。特徴的な山のカーブとトンネルを過ぎた電車は、通過予定の新疋田駅を過ぎて、次のトンネルに入ろうとしていた。だが、その速度は急速に落ちる。
「!?」
 安堵しかけていた能力者達の顔が、一瞬で緊張に満ちた。アナウンスが告げる。
『信号機器故障の関係で、緊急停車致します。しばらくお待ち下さい』
「これは……」
「降りるわよ!」
 華凛の声に、弾かれたように能力者達は動いた。他の乗客達が驚くのを尻目に、電車の扉を開け放つ。勝手に扉を開けたことへの警告が響くのを無視して、能力者達は車両を飛び出した。

「イグニッション!」

 電車から離れると、すぐに能力者達はイグニッションした。彼らは常人を超越する運動力で、南側の斜面を駆ける。
「やっぱり、あれは妖狐の仕業か?」
「そう考えておいた方がいいでしょう」
「即戦闘にならなかったのは、不幸中の幸いですね……」
 危惧が外れたことに、夢路は胸を撫で下ろした。同乗していた乗客や乗務員には、妖狐は混じっていなかったらしい。猫に変化していた魔弾術士3人が入っていたバッグから飛び出し、イグニッションして他の仲間に併走する。
「どうします!?」
「どうするって……」
 憑依を解いた真紀の言葉に、華凛は迷った。
 あのまま電車に乗っていれば、もう数分で県境を越えることが出来ただろう。
 だが、ここからは、別の手段で逃げねばならない。恵太がこの付近の地図を思い出す。
「確か、南の方に国道があったな。車を強奪でもするか?」
「それも考えないでもないけど……まあ、ここまで逃げてしまえばこっちのものよ。そろそろ通信も出来るようになるはずだしね」
 紫織が、木々の生い茂る斜面へと突っ込んだ。ヤドリギ使いへの敬意を示すかのように、木々が道を開ける。
「……なるほど」
「これなら、山の中を逃げる限り、追いつかれる心配は無さそうですね」
「あとは、県境まで走れば……学園に連絡がつけられるな」
 そうすれば、シェルティラの意志を受け継ぐ者として、まず一つは目的を達することが出来るのだ。
「行こう!」
 能力者達は山中を走り出す。彼らが敦賀市を脱し、学園に連絡を取ったのは、数時間後のことだった。

●手紙
「……発見できず、ですか。分かりました、通信封鎖は解除するよう伝えて下さい。代わりに警戒態勢は強化でお願いします」
 部下に連絡を命じ、梓英は深い溜息をついた。追跡部隊が不審な少年達が車外に出る事件のあった列車に追いついた時には、問題の少年達は消えていた。銀誓館学園の能力者達に、脱出を許したのだ。
「……面倒なことになりました」
「責任問題ですよねぇ……」
 燐澪は嘆息すると傍らの机の上にある手紙に目をやる。シーリウスの書いた手紙だった。

『今回は逃走する。だが、……どうしてもシェルティラの命は惜しい。殺さないでくれ。
 今度会う時に彼女が無事なのを確認出来れば、俺は学園の強みである、未来予知が可能なメガリスを手にして投降する』

「……デタラメっぽいですねぇ」
「ええ。予知のメガリスなんてものがあるなら、とっくにこの拠点も見つかっていたでしょう」
 銀誓館学園が妖狐の動きを何らかの手段で察知していることは妖狐も分かっているが、それが単純な予知などで無いことも理解している。
「いずれにせよ無理のある話です。個人所有のメガリスでもあるまいし」
 梓英は疲れたように首を振ると、話を変えた。
「……全神将の開神準備をしておく必要があるかも知れません」
「ぜ、全員ですか?」
「それだけやれば、封神台が銀誓館学園のものになる事はありえなくなりますからね。彼らの制御に関する問題には目をつぶりましょう。今は、封神台を守ることが重要ですよ」
 無限に復活する神将がいる限り、封神台があるエリアの『制圧』はできない。
 例え他の場所に引き離そうと、シェルティラが能力者達の前で実演した通り、神将は即座に封神台の元に出現できる。封神台だけを奪うのは、釣鐘大の大きさと重量、神将の存在により、さらに輪をかけて難しい。
「……あとは、シェルティラさん、どうしましょう?」
 燐澪は気乗りのしない様子で、石像と化したシェルティラへ顔を向けた。複雑な心境らしい彼女に、梓英は冷淡に告げる。
「『封神台が破壊されても、石像になっている神将は消えない』ですからね。この裏切者に、生存の余地を一片でも残しておくのは業腹です。銀誓館向けの人質にすら使えないことも分かりましたし……片付けてしまいましょう」
 梓英は、もう一通の手紙に目をやった。華凛と奈々の手紙だった。

『ごめんなさいっていうと怒られそうですけど、でもごめんなさい。
 シェルティラさんのこと大好きだから、想いを抱きしめて、今は逃げます。
 でも、絶対に戻ってきます。
 そのときもし貴女に会えなかったとしても、想いは必ず遂げて見せます。
                                     華凛・奈々』

「……感動的な手紙ですね」
 無感動な表情で手紙を屑籠に捨てると、梓英は燐澪に無言で促す。
 燐澪が九尾扇を振るった。放たれた衝撃波が石像を粉々に打ち砕く。
 シェルティラだった石の欠片が、乾いた音を立てて床に散らばった。

 銀の魔導師は、二度と動かぬ石の欠片へと成り果てた。
 友とした能力者達の心に、受け継がれる遺志だけを遺して。


マスター:真壁真人 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2010/12/02
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