2010年度 日本福祉大学 第8回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集 36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。
学長メッセージ
審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 人とのふれあい
第2分野 あなたにとって家族とは?
第3分野 わたしが暮らすまち
第4分野 社会のなかの「どうして?」
学校賞
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入賞者発表
第1分野  人とのふれあい
優秀賞 空の絵
福岡県立輝翔館中等教育学校 4年 松尾 駿吾

 私は人一倍、絵を描くのが好きだ。私が絵に興味を持ち始めたのは小学四年の頃、ある友達との出会いがきっかけだった。その子は足し算引き算の計算や会話のテンポが周りの人より少し遅かった。が、絵のとても上手な子だった。彼はよく絵を描いていた。エメラルドグリーンの綺麗な青空の絵だ。その吸い込まれそうな空に私は幼心ながら驚嘆した。
 当時の担任の先生は、算数の時間になるといつも、その子に問題を聞いていた。頬に冷や汗を浮かべながら「ええと、ええと」と必死に答えようとする彼の姿を見て、他の子達はくすくす笑っていた。先生は答えが出るまでしつこく何度も言わせた。私はその先生が嫌いだった。
 六年生になる少し前、その先生が他の学校に転任することがわかった。学年末の全校集会で生徒代表としてお別れの言葉を言う人を決める事になった。「先生に一番世話をやかせたのだから、あの子がやれよ」と誰かが言った。話し合いの結果、結局彼が言う役になり、当日、彼のお別れの言葉が始まった。
 「僕を普通の子と一緒に勉強させてくれて、ありがとうございました。」
 絵の具の使い方を教えてくれた事、つきっきりで算盤を教えてくれた事など、彼の感謝の言葉は十分以上に及んだ。静まりかえる体育館の中、先生が拳をぶるぶる震わせ嗚咽をくい縛る声が響いた。
 「彼は絵の才能の代わりに他の持ち物が皆に比べて少ない。だけどそれは決して取り戻せない物ではない。そして彼はそれを一生懸命自分の物にしようとしている。これは決して簡単なことではない。」
 その後に先生が言ったこの言葉を聞いて私は、厳しさとは優しさの裏返しであると思った。そして、先生のことを嫌いだと思っていた自分が恥ずかしくなった。
 毎年、先生の家には、一枚の空の絵が送られてくる。先生が彼に作り方を教えた、綺麗なエメラルドグリーンの空が。

講評

 とても具体的に書かれていて、先生と生徒たちの関係がよく伝わってきた点を評価しました。「その先生が嫌いだった」との一文から先生の日頃の厳しい指導が想像できますし、毎年彼から一枚の空の絵が送られてくることにより、先生の厳しい指導を受けていた友達が、実は先生を好きだったことがわかります。また、一日だけの出来事ではなく、長い期間の出来事がうまくまとめられています。それによって、算数の時間の様子や先生が転任する時の全校集会の様子が目に浮かびますし、ここに書かれたエピソード以外でも先生が熱心に指導していたであろうことを想像できます。一方、友達を「その子」や「あの子」と書くのではなく、もう少し細かい点まで気を配って文章を磨くと、さらに良くなると思います。

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