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日本や世界で現在進行形の最新の軍事情報を選別して、誰にでもわかるような文章で解説します。ホットな事件や紛争の背景や、将来の展開を予測したり、その問題の重要性を指摘します。J-rcomでは、日本で最も熱い軍事情報の発信基地にしたいと頑張ります。(1999年11月)

2010.12.02

 ウィキリークス流出 武器輸出三原則 米が見直しを要求 SM3ブッロク2Aを欧州に輸出 

カテゴリ自衛隊政策出典 産経新聞 12月2日 朝刊 
記事の概要
民間内部告発サイト「ウィキリークス」が公表した機密の米外交公電で、日米が共同開発している海上配備型迎撃ミサイル(SM3ブッロク2A)の欧州解禁を米国が日本に打診し、武器輸出三原則の事実上の見直しを求めていたことが30日、わかった。

公電は昨年9月、東京やソウル、中東などの関係国の大使館に国務省から送信され、米国のミサイル防衛(MD)戦略に言及。

米側は将来的なNATOへの装備売却を模索しており、SM3ブロック2Aをその候補に含めるかについて、その障害となりかねない日本の武器輸出三原則の緩和を含め、日本政府と「戦略的な決断」に向けて連携したいとしている。

ゲーツ米国防長官は昨年10月、北沢防衛相と」会談した際にも輸出規制の緩和を求めていた。
コメント
このHPでは、今月発表の”16防衛大綱の見直し”(新大綱)では武器輸出三原則の規制が緩和され、NATO向けの武器輸出に道が開かれると書いてきた。

日本のメディアでは主として日本の次次機戦闘機(FXX機)の開発に向けて、NATOとも日本がFXXを共同開発ができる体制を整えるためと報じていた。

しかし実際は、日米が共同で開発した対弾道ミサイルのSM3ブッロク2AをNATOに配備するための規制緩和の要求であることがわかった。

ここでちょっと説明するが、SM3とはイージス艦に搭載している対弾道ミサイルだが、この性能を日米の技術で向上(射程の伸張など)させて、地上配備にも使えるようにしたのがSM3ブロック2Aである。

日本が同盟国のアメリカに限って武器輸出三原則の例外を認め、共同開発したのがSM3ブロック2Aなのである。それがアメリカの同盟国であるNATOなどの欧州に輸出したいという。

そこでアメリカは日本に武器輸出三原則の緩和を求めてきた。

ここで日本が武器輸出三原則を決めた原点をふり返れば、佐藤首相の時代、米国の北ベトナム爆撃が始まったのが1965年である。日本はベトナム戦争によって朝鮮戦争特需のような好戦的な産業育成を避けるため、1967年に武器輸出3原則を決めたという経緯がある。

その3原則の中には、日本が武器輸出を禁じる国として「紛争の当事国か、そのおそれがある国」という表現があるが、これはベトナム戦争を行っている国としてアメリカが含まれていた。

そして北ベトナム軍によるサイゴン陥落で1975年にベトナム戦争は終結した。

武器輸出三原則が国際的に日本の平和国家のイメージを高めたことから、ベトナム戦争が終結した翌年の1976年に三木首相(当時)によって3原則以外にも、日本は武器を輸出を慎むことを決めた。

それが中曽根首相の時代(1983年)、同盟国のアメリカに限り、武器技術だけの例外で武器輸出禁止を緩和した。

さらに小泉首相の時代(2004年)、米国と弾道ミサイル防衛システム(MD)の共同開発と生産を例外的に認めた経緯がある。

日本のFXはF35戦闘機でほぼ決まった。さらに現有のF15戦闘機の後継がFXXとなるが、ずいぶんと先のことを論じるものと感じていたが、やはり規制緩和の本命はSM3ブッロク2Aだった。

NATOにSM3ブロック2Aが配備されれば、イランの弾道ミサイルの脅威を受ける中東の親米国にも配備されることは必至だ。

さらに韓国や台湾、東南アジアなど、中国やロシアの弾道ミサイルの脅威に対抗するため、SM3ブロック2Aが防衛的な兵器と説明されて配備される可能性もある。

莫大なビジネスチャンスとともに、日本の産業構造が好戦的な軍事産業に転換する可能性が高くなる。

今回、ウィキリークスが明らかにした米国の武器輸出三原則の緩和要請の公電は、今後、大きな波紋を広げると思う。FXXの話ではなかったことは明らかになった。
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