<分析>
北朝鮮による延坪島(ヨンピョンド)砲撃事件の対抗策として朝鮮半島西方の黄海で行われていた米韓合同軍事演習は1日、4日間の日程を終えた。北朝鮮は激しく反発していたが、新たな挑発行為はなかった。一連の挑発は米国との対話を求めての行動とみられるが、米国は依然として中国に仲介を求める姿勢を崩さない。一方、来年1月の胡錦濤国家主席訪米を重視する中国指導部は米空母の黄海入りを容認したが、これに軍部などが反発して中国国内から不協和音が聞こえ始めた。米国の圧迫を受ける中国が対応に苦慮する構図が生まれている。【ソウル大澤文護、北京・浦松丈二、米村耕一、ワシントン草野和彦】
中国の楊潔〓(ようけつち)外相は1日、北京でのシンポジウムで「当面の急務は情勢のエスカレートを防ぐことであり、決して火に油を注いではならない」と訴えた。
中国は今回、黄海に米空母ジョージ・ワシントンが入ることを事実上容認した。北朝鮮砲撃事件への国際世論の厳しさを意識しただけでなく、胡主席訪米を念頭に置いた措置だろう。
中国はさらに、先月28日に北朝鮮核問題の6カ国協議首席代表による緊急会合を提案した。緊張を緩和するとともに、国連安全保障理事会での北朝鮮問題に関する協議が中国の消極姿勢で進まないことへの批判をかわすために、自らが議長を務める6カ国協議を持ち出した形だ。
韓国の李明博(イミョンバク)大統領は1日、「中国との対話と信頼関係を強化しなければならない」と述べ、「米韓」対「中朝」の対立構図を作らないよう注意が必要との考えを示した。だが、中国提案の緊急会合には日米韓は否定的だ。米国のギブス大統領報道官は先月30日の会見で「攻撃的な態度をやめるよう、中国は北朝鮮に圧力をかける義務と責任がある」と強調し、中国の外交努力を求める姿勢を示した。
そうした中、「米国の演習の狙いは中国けん制にある」(軍関係者)と考える中国軍や強硬派の間に、胡錦濤指導部の受け身の外交姿勢への反発が広がっている。情勢が緊張し、中国近海に再び米空母が派遣される事態になれば、指導部の責任が問われかねない。中国指導部は国内事情からも事態をエスカレートさせるわけにはいかなくなっているのだ。
北京の外交筋からは、6カ国協議首席代表による緊急会合という提案には、さらなる挑発行為に出ないよう北朝鮮を抑える狙いもあったのではないかという声が出ている。
ただ、北朝鮮が今後も抑制した対応を取る保証はない。中国の北朝鮮専門家は「北朝鮮は焦っていない。米国が交渉に出てくるのを待っているだけだ。狙い通りに進まなければ、問題をさらにエスカレートさせるだろう」と分析する。交渉が始まらなければ核やミサイル開発を進め、いずれ「次の一手」を繰り出すだけとの見方だ。
だが中国には、人民元問題などを抱える対米関係を悪化させられない事情もある。「中国指導部は国際世論と国内強硬派の板挟みになっている」(北京の外交筋)。事態が再び緊迫化すれば、中国はさらに苦しい外交を迫られそうだ。
毎日新聞 2010年12月2日 東京朝刊