2010年11月30日10時49分
総務省が進める電波利用の再編で、現在、劇場やホールのワイヤレスマイクとテレビ中継などが使っている周波数帯が、新たに携帯電話に割り当てられる方向が固まった。「立ち退き」を迫られた形の音楽や演劇、放送関係者には、反発と困惑が広がっている。総務省は「スムーズに引っ越しできるよう配慮する」と説明するが、新しい電波をうまく使えるかは未知数で、課題も多い。
問題になっているのは、コンサートやミュージカルで使うワイヤレスマイクと、テレビのスポーツ中継などとが共同で使っている770〜806メガヘルツの周波数帯だ。免許を受けているマイクは全国で約2万ある。
■携帯電話に譲る
電波が途切れにくいこの帯域は、携帯電話事業者が使用を希望している。総務省の作業部会は25日、経済成長や利便性などの観点から、2015年から携帯が利用できるようにするという結論を出した。ワイヤレスマイクの移転先は、地上波テレビがデジタル化された後に生じるホワイトスペースと呼ばれる「空き地」のどこかか、より波長の短い帯域を提示。テレビ中継はもっと波長の短い帯域へ移す、としている。
ホールや劇場では、歌手や俳優一人ひとりが小型マイクと発信機を装着して声を電波で飛ばし、場内のアンテナで受けて、スピーカーから響かせる。多い時には同時に30〜40台が稼働する。周波数帯が変われば、いま使っているワイヤレスの音響機器はすべて買い替えが必要になる。
ミュージカル「レ・ミゼラブル」を上演するためには、買い替えに1億円程度かかると東宝は試算する。劇団四季では所有するマイクすべての交換に6億円近く必要だという。こうした機器は各地の市民会館などにも備え付けられており、影響は全国に広がる。
総務省はこうした買い替えなどに必要な費用を1千億円程度とみており、「跡地」を使う携帯電話事業者に負担してもらう方針だ。併せて電波を高度に利用するために、音の伝達が遅れるという難点があるデジタルマイクの改善をメーカーに促し、2年後をめどに現在使われているアナログマイクに代わるものを開発。そのうえで、周波数帯の移行先の調整をする。「費用負担で解決できる部分は解決して、技術開発によって一緒にステップアップする機会にしていただきたい」という。