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米国に階級制度は存在するか?

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 米国では、ありがたいことに自分の力で上流階級の仲間入りを果たすことができる。ウィリアム王子に見初めてもらう必要はないのだ。

 350年ぶりに庶民が王位継承者と結婚するというニュースに英国中が仰天している。ウィリアム王子の婚約者、ケイト・ミドルトンさんは炭鉱労働者の家系出身。母親は元客室乗務員、父親は薄給の航空機の運航管理者だった。英国の貴族系譜集「バークズ・ピリッジ」に記載された1万人ほどのウィリアム王子のお妃候補にミドルトンさんの名前がないことに、一部の貴族は冷ややかな目を向けている。

イメージ Getty Images

俳優マット・デイモンの結婚相手、ルシアナ・バロッソさんは元バーテンダー

 当然ながら米国人は自分たちの階級意識は、英国よりもはるかに低いと考えている。庶民が上流社会入りすることに違和感を持つこともない。米国の上流階級の住人である、アスリート、俳優、歌手などは、ほとんどが中流階級以下の出身だ。「クイーン・オブ・デイタイム」ことオプラ・ウィンフリーや、「キング・オブ・ポップ」ことマイケル・ジャクソンも生まれは貧しかった。

 シンデレラ物語をこよなく愛する米国人は、映画スターと一般人の結婚を称賛する。マット・デイモン、ジュリア・ロバーツ、パトリック・デンプシー、ジェフ・ブリッジス、トビー・マグワイアなどのケースだ。そして自分の子どもにも、王子や王女と出会い、結婚する可能性があると信じている。王国へのカギを手に入れるチャンスはだれにでもあるのだ。

 だがまず米国で階級制度がどのように機能しているのかを理解しておくべきだろう。ここでいう階級制度とは、血統に基づくものではなく、教育、実績、評判、魅力、そしてなにより資産による区別だ。

 ニューヨーク州立大学のエイレン・ラッピング教授(米国研究)は「われわれは全員が平等で階級のない社会に生きているという幻想を抱いている。その間にも米国内の格差は広がっている」と説明する。

 米誌フォーブスが発表した「フォーブス400」(米国資産家400人リスト)に名を連ねた富裕層の純資産は、今年8%増の1兆3700億ドル(約114兆円)となった。ニューヨーク大学のエドワード・ウォルフ経済学教授の見積もりでは、米国人の上位20%が国内資産の85%を所有しているという。一方で下位40%は、債務を考慮すると資産はゼロに近く、格差は世界恐慌以降、最大となった。

 米国人は、大企業の社長から、IT業界の寵児、米国大統領に至るまで、なれないものはないという考えを好む。そして現実にはまずあり得ない、作家ホレイショ・アルジャーのアメリカンドリームを描いた小説に夢中になる。「突出した存在は注目を浴びる」とウォルフ教授は指摘する。

 社会移動に関する調査では、米国の子どもは、デンマーク、ノルウェイ、フィンランド、カナダといった国々の子どもよりも、両親の階級から上方移動する際に苦労することが示されている。調査を行ったオタワ大学は、その一因に教育格差を挙げている。例えばフィンランドは、貧しい家庭の子どもにも平等に教育の機会を与えるために、公的資金でまかなわれる教育制度を構築した。米国では学校の運営は地元任せの傾向が強く、裕福な家族はより教育制度の整った地域に移動したり、私立学校に通うことを選択することが多い。

イメージ Reuters

女優ジュリア・ロバーツは、カメラマンのダニー・モダーさんと結婚した

 ニューヨークの社交界情報サイト、ニューヨーク・ソーシャル・ダイアリーの創設者、デビッド・パトリック・コロンビア氏は、米国人は英国人よりも階級意識が強いのでは、と指摘する。「誰もが等しく平等というのは建前。われわれはいつでも、自分が他人よりも優れていることをアピールしようとしている。上流階級の定義では、『優れている』というのは『金持ち』と同じ意味だ」と語る。

 米国と欧州の階級制度を比較する際、アイデンティティの意味を理解すると分かりやすい。ひとつの大きな違いは称号の意義だ。「欧州では、例え一文無しになったとしても爵位や王位を失うことはない。からかいの材料になるかもしれないが、そのことは誰もが理解している」とコロンビア氏は説明する。

 一部の米国人がケイト・ミドルトンさんに親近感を覚える理由は、われわれが結婚を経済的な意味で転換をもたらすゲームチェンジャーだと考えているからではないだろうか。欧州では若い人たちでも同じ階級の人と結婚することが当然と思われている。だが米国の場合、結婚は上流階級にのし上がる手段のひとつだとする考えが残っている。「結婚による昇級」は米国の文化が魅力を重視しているからこそ可能なのかもしれない。つまり男性は必ずしも家柄や資産で妻を選ぶわけはないということだ。

 だからといって、出身階級が異なる者同士の結婚が簡単というわけではない。カリフォルニア大学ロサンゼルス校のロバート・メア教授とウィスコンシン大学マディソン校のクリスティーン・シュワルツ教授の調査によると、米国では自分と共通点の多い人を伴侶に選ぶ「アソータティブ メイティング(同類婚)」が増えているという。これら2人の社会学者によって、過去50年間、学士号取得者同士が結婚する確率が高いことが判明した。

 英国で何世紀にもわたって君主制が存続しているひとつの理由は、階級制度が文化に組み込まれてきたためだ。国民は自らが所属する階級を理解し、そこに安心感を見出してきた。

 「米国の人々は、アイデンティティの混乱に直面している。自分が何者なのか、どのような人間になるべきなのかを見出そうと内省的になっている」――ラッピング教授はこう語った。

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日本版コラム〔11月30日更新〕