2010年12月1日8時19分
敷地内を全面禁煙にする大学が増えている。学生・職員数が2万人を超える東北大もこのほど、来年10月までの全面禁煙化を宣言し、機運がさらに高まった。ただ先行大学では、敷地外での喫煙マナーの悪さに苦情が増えた例もあり、大規模校の成否に全国の注目が集まる。
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東北大の全面禁煙化は大学の環境・安全委員会が決め、井上明久・総長名の宣言がホームページに掲載された。受動喫煙による教職員や学生、学内外の関係者の健康被害を防止するため、仙台市内5カ所に分散している全キャンパスを1年かけて全面禁煙にする。学内の作業グループが各部局の意向を聴き、喫煙場所を順次廃止する。
同大では2006年10月に大学病院など一部の敷地内を全面禁煙としたが、全学的な禁煙の指針はなかった。各学部や研究所はそれぞれ、屋外の指定場所や喫煙室で喫煙を認める「分煙」を実施。しかし、灰皿が建物の裏の出入り口や自動販売機コーナーのそばにあることも多く、環境委は「これでは受動喫煙を防げない。思い切った対策が必要だ」と判断した。
03年に施行された健康増進法を受け、国立大学の保健管理施設協議会が05年10月に「禁煙宣言」を公表したころから、分煙でなく敷地内を全面禁煙にする大学が増えた。東北地方でも国公立大の多くが全面禁煙となっており、東北大は「後発」。仙台圏でみても5番目の実施になる=表。
とはいえ、全国の旧帝大や大規模な私立大は「分煙」が一般的で、その中で全面禁煙に挑戦するのは東北大が初めて。いくつかの大学の保健管理担当者から「よくぞ踏み切った」という声も届いているという。
大規模校も学内で全面禁煙化を検討しているが、学生や職員のすべてを納得させるのは難しいようだ。先行して全面禁煙を実施した大学の例からは、禁煙相談や指導をいくら強化しても喫煙者をゼロにはできないことがわかり、大学周辺の地域に迷惑をかけることを懸念する声も大きい。
あと1年で、東北大はどう禁煙を徹底させるのか。
井上総長の禁煙宣言に並べてホームページに掲載された「禁煙を考えている方へのサポート情報」は、「勤務時間に好き勝手に飲酒する人はいない。たばこも同じはずだ」といった原則論を訴え、喫煙の健康被害に関する最新研究を説明する。一方で「ニコチン依存症の人には非現実的な楽観主義がみられ、論戦では闘えない」とも述べ、対策の難しさを認めている。
環境安全担当の飯島敏夫・理事は「何より喫煙者の健康が心配。『大切なあなたへ』をスローガンに、被害の科学的根拠を元に、禁煙を薦めていきたい」と話している。
■先行の東北文化学園大 周辺も“禁止”、巡回
敷地内の全面禁煙を実施している大学では、喫煙者をゼロにすることの難しさがはっきりしている。
仙台市の東北文化学園大は、地域ぐるみの禁煙対策を始めた大学として全国的に知られる。07年に敷地内を全面禁煙化し、08年10月には大学の北西部1キロ四方ほどの近隣住宅地を、大学関係者を対象に「喫煙禁止区域」に指定した。
定期的に職員や学生が区域を巡回し、喫煙者がいると注意する。一方、学内の禁煙委員会がニコチンガムやニコチンパッチを配布し、禁煙相談を行っている。その結果、喫煙者はかなり減った。
それでも、「公園に吸い殻が捨てられている」という苦情はなくならない。禁煙できない学生は、両親ともにヘビースモーカーなど生活環境に問題があることが多く、決定打がない。
禁煙対策担当で総合政策学部の志賀野桂一教授は「とにかく駄目だ、というだけの禁止型社会は息苦しく、効果も少ない。地道に説得を続け、禁煙の意義を納得してもらうしかない」と話す。 (斎藤義浩)
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■東北各県の全面禁煙大学
青森=弘前大、県立保健大、八戸大
岩手=岩手大、県立大
秋田=秋田大
宮城=東北大(予定)、宮城教育大、東北薬科大、東北文化学園大、宮城学院女子大
山形=山形大(一部)、県立保健医療大
福島=福島大、県立医大
(日本学校保健学会・「タバコのない学校」推進プロジェクトの資料などから)