劇団紹介コーナー「ピンスポ」第29回は、下落合にある自社劇場・TACCS1179を中心とした劇場公演展開だけでなく、アニメ映画にもなった人気絵本原作「あらしのよるに」や「船乗りクプクプの冒険」(NHK連続人形劇「ひょっこりひょうたん島」の一部エピソード原案にもなった作品)などの演目で全国各地の学校やホールでも公演を広く行っている「劇団俳協」(http://www.jade.dti.ne.jp/~ghaikyo/)を紹介します。
アニメやゲームが好きで声優に詳しいという人のほうが、「俳協」と略称で呼ばれることの多い本事務所(正式名称は東京俳優生活協同組合)をご存知かもしれない。数多くの人気&実力を兼ね備えた俳優・声優を輩出し続けている老舗中の老舗事務所だ。そんな俳協は設立から50周年という記念すべき節目をちょうど迎え、今まさに、新たな段階へとステップアップしようとしているところ…来週より上演が始まる劇団俳協の本公演「いとしの儚」は、そういったタイミングということもあり、非常に注目に値する公演である。
8日(水)〜12月12日(日)にかけて計7公演、下落合にあるTACCS1179にて『いとしの儚』の上演を控えた劇団俳協の稽古場へ。演出の伍堂哲也と本公演に出演する村上龍太郎、三宅真衣、山岸治雄、あさぎ野瑶子を直撃した!
■常に発信! 常に勉強!
劇団俳協の旗揚げは今から28年前。俳優の育成やマネージメントサポートなどを行う母体・俳協から派生する形で誕生した。それは小劇場ブームよりも前のことであった。
「願わくば役者が役者であるためには、常に表現をしていかなくてはいけないと思っています。常に発信していかなきゃいけないと思っています。とは言え、どこのプロダクションでもそうだと思いますが、養成所や研究所といったところで育成までは平等に行えても、その先、表現の場を提供する段階になるとそうはいきません。芝居の仕事を途切れなく与え続けられる役者はほんの一握りです。役者は基本待ち体制ですからね。そこで俳協は、役者たちが表現することの出来る場を少しでも設けていこうと劇団を立ち上げることにしました。ボロボロのビルながらも自社劇場も作られました。これは役者陣としては本当に本当にありがたいことで…なぜなら、舞台で演技が出来るという直接的なこともそうなのですが、芝居をマネージャーや外部の方たちに観ていただけることで、テレビドラマや映画といった仕事にも呼んでもらえるチャンスが生まれるからなんです。実際、そういった流れで劇団員たちは表現の場を広げていっていますしね」(伍堂)
「旗揚げ時は10人だったという劇団員数も、今では40名ほどにまでなっています。どれだけ劇団員数が増えても変わらない点があります。それは“常に発信! 常に勉強!”という方針です。作品によっては3名しか出演者枠がないものもあります。当然、出演出来ない人も出てきます……うちはたとえ出演出来ないからといって、作品に全く携わらないということはないんです。キャスティングされてないメンバーは、大道具班・小道具班・衣装班・制作班・演助班などに分かれて公演をサポートするということをしています。役者にとっての勉強は、何も出演して舞台に立つだけではないということですね」(あさぎ野)
「舞台セットも自分たちで作るんです。役者としての演技技術はもちろん、裏方としての技術を身につけることも、俳協の長い歴史の中で受け継がれてきたものですね。だからうちのメンバーは、どんな現場に行ってもちょっとやそっとじゃ動じません。現場で何が行われているかが分かっているからでしょうね(笑)」(村上)
■年間100ステージもの地方公演
劇団旗揚げ時から続く全国各地へ出向いての公演。中でも“舞台の面白さを知ってもらいたい”というコンセプトで行われている子供に向けた公演展開(「あらしのよるに」など)は、劇団俳協の魅力が溢れたものとなっている!
「作品により、小さな子ども〜高校生まで様々な子ども向けの鑑賞団体として、全国各地の劇場・学校・施設に呼ばれては公演に行っております。嬉しいことに、北は北海道から南は沖縄まで、これまでに全都道府県を制覇することが出来ました! 本当に多くの子供たちに観ていただいてきております。最近では少子化問題で子供劇場自体も少なくなり、ステージ数も減りましたが…それでも年間100ステージ近くは行っているでしょうかね(多い年では年間130ステージぐらいもあった)。ありがたいことです! でも、まあその分、家賃を払うのが馬鹿馬鹿しいくらい自宅に帰れなくなってしまう時期も出てきてしまうんですけどね(笑)。そのように劇場公演だけでなく地方公演も同時並行で行われているので、劇団員が全員集合することもなかなかありません。新しい作品の稽古初めか、あとは忘年会ぐらいでしょうか(笑)。今も3本の公演が並行して行われているのですが……実はこの山岸は3本共に出演しているんです。たいしたものです」(伍堂)
「ほとんど自宅にいませんね(笑)。来年には4つ目の作品展開も予定されているようなので、その作品への出演もオーディションでぜひ勝ち取りたいと思っています!」(山岸)
■役者にとって大きなプラス要素
劇団俳協のもう1つの大きな特徴。それは、違ったテイストの作品、そして幅広いジャンルでの活動チャンスを与えられる《役者環境》にある。
「多くの劇団では、作・演出を毎回同じ人がやる場合がほとんどで、それが劇団のカラーになっていると思うのですが…うちには演出家が2人おり、違ったテイストの作品が展開されていっています。私の作品はエンターテイメント性が高く、例えるなら“打ち上げ花火”なんですが、もう一人の演出家・増田の作品は日常的なしっとりとした芝居が多くて、例えるなら“線香花火”…。ある意味、正反対なカラーの作品を観ることが出来るのも、今のうちの特徴だと思いますね。役者にとってもお客さんにとっても、違ったカラーを同一の環境で得ることが出来るのはいいことだと思います! そして、劇団俳協の劇団員たちには、映画やテレビドラマ・舞台の仕事だけでなく、CMナレーションやドラマCDなどの声優の仕事も多々来ます。幅広いジャンルの仕事に挑戦出来る環境は、役者にとって、とても大きなプラス要素だと思いますね。そうやって他ジャンルの仕事で新たに得た“何か”を、みんなが劇団へと持ち帰ってくる……それがうちの発展に繋がっていっていると実感しています!」(伍堂)
「幅広いジャンルの仕事に挑戦出来る環境にいるのは、役者として本当に嬉しい限りです。そういった人たちがまわりにいっぱいいるのも大きな刺激になっていますし。そして、劇団員たちに与えられる役の幅も広くて、子供から老人の役まで…あ、人間でない役もありますね(笑)」(三宅)
■テンポ良く進み目が離せない作品
来週より上演開始となる『いとしの儚』は、以前から横内謙介の脚本が好きだった伍堂が、数年前に明治座で上演されていた本作品を観に行ったところから企画がスタートしたという。
「私の発想展開の1つに、大きい小屋でやられていた作品をどう小さい小屋でやるかというのがあります。大きい劇場だと迫力もあるし、エンターテイメント性のある様々な仕掛けを行うことも出来、お客さんを喜ばせることが色々と可能です。極端な言い方をすれば、さらに予算があればいくらでも(笑)。…でも、あえて“小劇場でやるからこそ生まれる面白み”もあると思うんですよ。それを私なりに表現していきたいんです! シーン展開が多い本作品……大劇場であれば、それこそ回り舞台を使って次々と転換していくのは簡単です。でも、私はそれを照明や音響だけで表現していこうと思っています。何年も付き合っている照明さんなのですが、毎公演私の演出は照明を変える回数が多すぎるようで、だいぶ悩ませていますね(苦笑)……でも、どんどんテンポ良く進んでいくので、目が離せないだろうし、見応えは十分あると思います! さらには、本公演は歌あり、踊りあり、立ち回りもありの盛りだくさんなエンターテイメント作品なので……目が離せないどころか、息もしていられないかもしれません(笑)」(伍堂)
■愛しか知らない女と愛を知らない男
最後に本公演に向けての意気込みとコメントを頂いた。
「主役の鈴次郎という天涯孤独の博打うちの役を演じます。ありとあらゆる悪さをしてきた、全く自分勝手なろくでなしの男なんですが、博打の神にだけは見守られていて(笑)、一度も博打で負けたことはない……そんな鈴次郎に人間に化けた鬼が勝負を挑んできて、というのが物語の始まりになります。儚と出会ったことによって少しずつ変わっていく鈴次郎が、最後どのような境地へと辿り着くのかをじっくりと見て頂きたいです!」(村上)
「鬼が作りだした女・儚役を演じます。儚は実は、生まれてから百日の間に抱かれてしまうと水になって流れてしまうんです。でも、生まれた時からずっと鈴次郎を一途に想っていて…愛しか知らない女性なんです。その熱い想いがお客様にも伝わればいいなと思っています!」(三宅)
「女郎屋のお鐘という、儚とはまるっきり正反対の役です(笑)。年増で女には冷たく、男には色仕掛けで、地獄の沙汰も金次第という金の亡者ですが、こんな生き方もかっこいいと思わせたいですね」(あさぎ野)
「鬼シゲという名の赤鬼役をやります。まわりの者たちを次々と引っ掻き回す鬼です(笑)。あ、殺陣もやります。そこも含めて見ていただければ嬉しいです。愛しか知らない女と愛を知らない男の百日間の物語をどうぞご期待ください!」(山岸)
「主人公の鈴次郎は汚い言葉遣いをする荒くれな男なんですが、そんな男が落ちぶれて、情けなくなっていく姿って男性だったら痛いほど分かると思うんです。それとは反対に、女性が観たら、どうしようもなくダメだなって感じるんじゃないかな。同じ演技から2面性を表現するのはなかなか難しいのですが、あえて大胆に表現していこうと思っています。挫折に悩み苦しんだり、賭けに勝って大喜びしたり、泣き叫んだり、笑い転げたり、人間の感情を前面にさらけ出させて、共感できる面白い作品を作っていきたいと思います。是非、劇場まで足をお運びください!」(伍堂)
劇団俳協 「いとしの儚」
【日程】来週12月8日(水)〜12日(日)/計7ステージ
【会場】TACCS1179
【作】横内謙介
【演出】伍堂哲也
【出演】鈴木浩之、村上龍太郎、山岸治雄、浅川聡、伊藤有人、小田浩幹、滝野洋平、奥山直久、神山武士、斎藤卓、霜田龍秋、加山淳、野村能由、あさぎ野瑶子、山崎倫子、岡美智恵、寺澤美央、こづかみと、三宅真衣、小林舞子、松本樹里、三原佳恵
【あらすじ】天涯孤独の博打うちの鈴次郎。人の温もりなど少しも知らぬ男だったが、博打の神にだけは愛されていた。ある日、鬼とのカケに勝った鈴次郎は美しい女を手に入れる。女の名は「儚」−はかな この美女とは、何体もの死体から良い所を寄せ集めて作った人間だった。ただし、生まれてから100日経たないと抱いてはいけない。100日待たずに抱けば、水となって流れてしまう、という。愛を知らない男と愛しか知らない女の100日間の物語りがはじまる。そして100日目を迎えようというその時…!
【サイト】http://www.jade.dti.ne.jp/~ghaikyo/
■取材先劇団募集
『ピンスポ』は取材先劇団・ユニットを大募集中です。詳細は本コーナーをプロデュースする、コンテンツプロダクション・株式会社ルートデザイン公式サイトまで! http://contents-pro.com
■チケットプレゼント
劇団俳協『いとしの儚』の公演初日12月8日(水)19:00〜に3組6名様をご招待致します! お申込は演劇ライフ(http://engekilife.com/)のプレゼントコーナーより。
次回(第30回)の掲載は12/7(火)です。お楽しみに。