機械設計


★ このページは、金工室の機械工作実習における機械設計(自由課題)を指導するときのマニュアルに記載した内容を手直しして、機械設計の初心者が考えるべきポイントをコンパクトにまとめたものです。
  みなさんが実験装置を考えるときの手助けになれば幸いです。

最新の更新:2008年11月19日、CF2のアクセスカウンターを付けました。


 この章では、理学系の学生・院生が始めて機械設計に携わるときに、機械設計とはどんなことなのかを知ってもらうものとして、機械設計の概要と実践的な考え方」を解説します。
 実際の機械設計は奥深いもので、ここで取り上げることは「いろは」にも満たないものなので、是非とも専門書やJIS規格表、メーカーのカタログ等を取りそろえ、いつでも参照できるようにして下さい。  機械に関する読み物も、機械設計の力を伸ばすのにおおいに役にたちます。最近では図解を多く取り入れた初心者向けの参考書が多数出版されており、どれも良い教科書となりますので、大学生協の書店などを見て、気に入ったものを購入されると良いでしょう。

  1. 機械設計とは何か

  2. 機械設計の要点

  3. 材料力学

  4. 動きのある装置=メカトロニクス

  5. 機械設計のツボ



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機械設計とは何か


  1. 設計と製図の違い

     機械を作るとき、どのような原理や発想でどのような形にするかを考えることが「設計」であり、それを他の人にもわかるように図面にすることを「製図」といいます。製図に基づいて機械を作ることを「製作」(加工と組み立てを含む)といいます。
     「設計」は設計者の自由な発想に基づくので無数の解があります。それに比べ、「製図」には明確な規則があります。それは、機械の形は三次元なのですが紙などに記録する都合上二次元に変換し、機械を作る上での情報を間違いなく製作者などの第三者に伝えるため、 JIS(日本工業規格)やISO(国際標準化機構)などの規則が必要なのです。これらの規格に基づいて「製図」を書けば、世界中の誰が見ても同じ装置を作ることが出来る、つまり「製図」は機械設計における世界共通言語なのです。

  2. 設計は3段階ある

     次に、設計をもう少し詳しく見てみると、大雑把なアイディアをまとめる「概念設計」、具体的な構造や形状を決める「基本設計」、最後に詳細な寸法公差や加工基準など「製作」に必要な情報を全てきめる「詳細設計」の三段階に整理できます。この関係を図1−1に示します。
     私たちは、研究遂行における実験や観測を行うために、どのような原理を使ってどのように実現するかなど装置の概要や性能を決めます。これが「概念設計」です。「概念設計」に従って装置の基本構造や周辺の装置や購入する部品なども決め、装置を形成する部品の形状や精度を材料力学などを使って検証しながら決めます。これを「基本設計」といいます。「詳細設計」では「基本設計」で得られた情報に基づいて「作り方」も含めて検討し、最終的に「製作図面」を描きます。これが「詳細設計」です。「詳細設計」は第三者が装置を製作できるよう、全ての情報を整理して記述します。
     概念設計に無理があると基本設計の段階で行き詰ります。このとき、簡単な実験を繰り返して、概念設計と基本設計を往復します。基本設計が十分できたら詳細設計に移りますが、制作方法などに困難があって行き詰まることがあります。この場合、概念設計にまで遡って変更する場合もあります。

    図1−1.機械設計の概念


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2、機械設計の要点


 機械設計の要点を6項目に整理します。ここに挙げた項目はそれぞれ違った視点から設計を捉えたものですが、全て相互に関連しています。従って、この6項目の視点から、常に自分の設計を見直す努力が求められます。

  1. 装置の目的を明確に=「概念設計」の根拠はここにあり!

     機械設計を始める場合、装置の目的を明確にしなければなりません。目的が不明確なまま機械設計を進めると、基本設計で形状や寸法をきめる根拠がなくなります。
     大学の研究現場における機械設計では、装置のコンセプトやスペックの自由度が大きく、より挑戦的な目標のために、概念設計を変更することがよくあります。よい実験装置を作るためには、研究室会議で多くの人の意見を聞き、合理的な理由があれば概念設計〜基本設計を大きく変更する勇気も大切です。

  2. 機械の形にはかならず理由がある=材料力学的考察

     素材の選択、大きさ、厚さ、リブの有無、ねじの大きさと数など、機械を構成する部品の形には理由があります。機械設計はこれらを自分で決めていく作業です。設計者は、機械の形状、部品の形、大きさなど、全ての事柄について明確に説明できなければなりません。
     共同研究では他のグループとの調整で、基本的なコンセプトを変えなければならないことがあります。このような場合は、必ず概念設計に戻って整理し、基本設計を十分検証することが大切です。

  3. 作り方や組み立て方も考える

     これは1)〜2)にも関連しますが、作る過程を良く考えて設計しなければなりません。初心者の失敗例に、加工不能な部品や組み立て不能の設計をよく見かけます。実現不可能な精度や面粗さを指定するのはすぐ見つけられますが、穴が加工不能な位置にあるとか組み立て時にねじが締められないなどは、作業を進めて行って初めて気づくことが多いものです。このような見落としは大きな損失になります。

  4. 機械加工の精度=寸法公差と「はめあい」

     機械加工では、図面に表記された寸法ぴったりには出来ません。どのような加工部品にも必ず誤差があります。これを決めるのが寸法公差です。一般的には普通公差(JIS-B0405)を利用しますが、金工室では、 300mm以下はノギスの精度(±0.2mm)、300mmを超え1mまではスケール(金尺)の精度(±0.5mm)、1mを超えるものは巻尺の精度(±1mm)を暗黙の了解事項としています。

    金工室で常用している誤差範囲(主にノギスなどの測定工具に由来する)
    誤差範囲 基準寸法の区分
    300以下300を越え1000以下1000を超える
    許容値
    ±0.2±0.5±1

     以下に、普通公差(JIS-B0405)における公差等級を示します。

    普通公差(JIS-B0405)における公差
    公差等級
    (普通公差)
    基準寸法の区分
    0.5以上3以下3を越え6以下6を超え30以下30を超え120以下120を超え400以下400を超え1000以下
    許容値
    精級±0.05±0.05±0.1±0.15±0.2±0.3
    中級±0.1±0.1±0.2±0.3±0.5±0.8 
    粗級±0.2±0.3±0.5±0.8±1.2±2

     一つひとつの部品や寸法について誤差範囲を決め、部品を組み合わせたとき設計の意図が実現できなければなりません。特に軸関係の寸法公差は「はめあい」を使います。
     「はめあい」(JIS-B0401)は機械を作るうえで重要な要素です。軸と軸受けを考えると、軸受けに軸が入らなければ困るし、緩くてガタガタしても困ります。この時の互いの寸法の誤差範囲を「はめあい」を使って規定します。モーター軸はh7、市販の研磨シャフトはg6など、工業製品に多用されています。例えば、φ10の軸ならば、h7はφ9.985〜φ10.000、g6はφ9.986〜φ9.995の寸法公差です。

  5. ねじ、シャフト、ベアリングは市販の標準規格品を使う

     市販されている規格部品(ねじ、シャフト、ベアリングなど)をうまく使うことにより、コストと時間を節約できます。反対に、規格外の特殊なねじを使えば高価なものになり、納期もかかります。これらの工業製品は全てJISで規格が決められているものばかりです。
     一流メーカーのカタログを取り寄せ、工業製品の情報を数多く入手しておきましょう。

  6. コストと性能のバランス

     最初に機械設計には無数の解があるといいましたが、これらの解は全てコストと性能が反比例の関係になっています。設計者はコストと性能のバランスを常に考えなければなりません。
     しかし、時には誰も思いつかなかったアイディアで低コスト&高性能を実現できることがあります。このような発見や開発を行うことができたら、あなたはもう立派な装置設計者です。


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3、材料力学


 機械は金属やプラスチックなどの構造材料を多用します。これらの構造材料の形や大きさを決めるためには、材料力学の知識と計算によって構造の強さを確認する作業が必要です。
 構造の強さは、「ひずみ」と「破壊」を区別して考えます。機械設計では、構造の強さとともに、ねじ一個の強さや締め付け力など、全ての部品について材料力学的検証ができていなければなりません。

  1. 応力とひずみの解析

     応力とひずみは材料力学の基本問題です。構造物の応力やひずみは機械や装置の精度を考えるときの根拠となる重要な問題なので、十分に検討する必要があります。
     応力とひずみの計算は単純な形状(断面)であれば公式を使って正確に計算できます。
    複雑な形状では三次元CADに付随しているCAE(有限要素法を用いた解析)によって概要を確認できますが、要素の設定によっては現実離れした値が出ることもあります。従って、実際に負荷をかけてひずみを測定する簡単な実験を行い、その結果と有限要素法による解析結果を照合する必要があります。
     CAEを使った解析では穴や角などの形状変化の大きい場所を細かい要素に分解することにより解析結果の信頼性を高めることが出来ますが、こうしたことはあるていど経験が必要です。

  2. 破壊の検証=許容荷重と安全率

     機械の製造コストを抑えるためにも、取扱のよさを追及する上でも、軽くて安い素材で簡単に製作出来る方が良い設計と言えます。ここで必要なのが「破壊」の検証です。
     材料には「引っ張り強さ」や「降伏点」など材料が破壊を起こすぎりぎりの強さがあります。しかし、実際には様々な条件が重なって大きな荷重がかかったり、何回も荷重がかかることによって材料そのものが弱くなります。このようなことを想定して「安全率」が考えられました。

    表1−1 引張り強さを基準とした安全率
    材料静荷重 動荷重
    繰り返し荷重交番荷重 変化する荷重あるいは衝撃
    鋳鉄1015
    12
    木材101520

     材料に繰り返し荷重がかかる場合や加速度がかかる場合などの条件に見合った倍数をかけたものを「許容荷重」とします。このときの倍数を「安全率」といいます。機械の許容荷重は実際の荷重に使用条件による安全率をかけ、これが材料の引っ張り(あるいは圧縮)強度を超えないようにします。
     表1−1はハンディブック「機械」(オーム社)から引用した「安全率」です。ここで、繰り返し応力はゼロ〜正方向で繰り返す応力、交番応力は正負両方向で繰り返す応力のことです。

  3. 材料力学の参考書

     材料力学は実用的な公式を集めた参考書が多く出版されています。機械設計を行うものは、材料力学の本を何か一冊手元に置いて、設計の際に計算できるようにしておきましょう。
     以下の文献は金工室で普段よく用いているものです。
    ・JISにもとづく機械設計製図便覧(理工学社)
    ・機械工学便覧「材料力学」(日本機械学会編、丸善)

     ポケットサイズの参考書も便利ですし、機械部品の通信販売を行っている業者(ミスミなど)が出しているカタログにも機械設計に役立つ材料力学の計算式が出ています。それらを利用するのも良いでしょう。


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4、動きのある装置=メカトロニクス


 大学の実験装置はモーターやセンサーを使ってコンピュータ制御するものが多くなってきました。このような、機械と電気制御を組み合わせた技術をメカトロニクスと言います。ここではこうした装置を設計する場合に考えなければならないことを整理します。

  1. モーションと干渉のチェック

    例えば、メカニカルステージなどは、2から3の座標系をもち、それぞれが自由に平行移動するので、構造物が干渉(ぶつかってしまう)する領域ができたりします。このような装置を考えるときは、重心の位置や最大の移動範囲などを三次元的に把握することが必須となります。こうした設計には三次元CADシステムが大いに役立ちます。

  2. 動く機構と駆動方法

     動く機械を考える場合、実現したい精度によって、使える機構が変り、駆動方法も変ります。当然のこととしてコストも要求する精度とともに大きくなります。
     例えば、光学系のフィルターを交換する装置の場合は光軸上に障害物がない程度の大雑把な位置精度でよいのですが、分光素子でスペクトル観測する場合は精度よく同じ位置に止める必要があります。
     ステッピングモータはオープンループ制御で簡単且つ安価に高い精度を得られますが、脱調(指令値どおりにモーターが回転しないこと)があると正しい位置決めができないので、こうした場合は原点センサーやエンコーダによる誤差検出が必要です。
     直線案内の機構や精密な送り機構など、装置の精度は使用する部品の精度に大きく依存します。当然のこととして、価格も大きく異なります。

  3. 安全優先の設計

     動く装置は暴走事故を考える必要があります。大きな装置ならば人身事故にもつながります。
     大学の実験で用いられる装置は、時として「安全」への配慮が足りないものがあります。それはその実験に精通した者が使うことを前提として、いるからです。コストをおさえながら性能を最大限に引き出すために、あえて「安全」を犠牲にしたからです。しかし、製造物責任法が整備されてからは、メーカーの実験装置は、不注意による間違った使用があったとしても安全装置が働いて事前に事故を防止するという考え方が徹底しています。
     私たちの設計も、安全に関する考え方を最優先させるべきだと考えます。特に大型の機械では、組み立てる途中の状況も考えながら、安全装置や機構を組み込んでいくことが求められます。

  4. 振動と発振

     動く機械は制御系の振動について十分注意をはらわなければなりません。
     望遠鏡など大きな慣性質量をもつ装置は共振周波数が数Hz〜数十Hzと低く、制御装置が不安定な動作になりがちです。特に、まだ調整できていない装置の試運転では、振動による事故も想定されるので、設計の段階でこうした調整中の不慮の事態を織り込んだ安全な機械設計が必要です。

  5. メカトロニクス技術を勉強するためには?

     メカトロニクス技術は非常に広い範囲の知識と経験が必要です。コンピュータ制御を使う場合は、システムの細部まで理解していないと信頼性の高い良い実験装置は作れません。
     ここでは、初心者にも読みやすく、メカトロニクス技術を体系的に習得できる文献を紹介します。
    ・ハンディブック「メカトロニクス」(オーム社)
    ・やさしい制御システム「基礎編」(坂巻佳壽美著、日刊工業新聞社)
    ・たのしくできる「PCメカトロ制御実験」(鈴木美朗志著、東京電気大学出版局)

     できれば数名のグループで実験も含めた勉強会を行うのが良いでしょう。オムロンやオリエンタルモータなど、メーカー主催の講習会や通信教育も大変勉強になります。
     PLC(プログラマブル・コントローラ)はラダー言語を使ったシンプルな制御が特徴ですので、最小規模のセットを用意して、リレーシーケンスやタイマー・カウンターなどを含めた総合的な制御の勉強を行うのは便利ですし、実用的でもあります。ラダー言語はアルゴリズムが独特ですが、マイクロコンピュータによる制御と開発環境を単純化して取扱・保守を容易にした点で優れています。
    注:ラダー言語とは、リレー接点によるシーケンス制御を言語化したもので、ラダーチャートとも言います。


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5、機械設計のツボ


 ここまで設計について解説してきましたが、ここで、よい設計のこつを紹介します。
 機械設計は実に深く広い知識が必要なのですが、ここではそうした知識を面白く身に付けられる方法を紹介します。

  1. 機械を知る

     良い機械を設計するには機械のことを知るのが一番!当たり前のことですが、今私たちの周りにある機械や、機械によって生み出された工業製品について知ることはとても大切なことです。
     雑学的興味でもよいので、機械の多様性と柔軟性、機械を構成する要素の多様性と合理性、技術革新によって生まれた新しい技術がどのように機械に取り入れられているかなどに興味をもってください。これらを知ることによって実験装置のアイディアも広がっていくのではないでしょうか。
     そこで、以下に機械や工業製品のつくり方について楽しく知ることのできる参考書を紹介します。
    ・ハンディブック「機械」(オーム社)・・・このシリーズは「制御」「電子」など多数あり、みな面白い!
    ・ものづくり解体新書(1の巻〜6の巻+番外編、日刊工業新聞社)・・・これもシリーズになっている

  2. 材料を知る

     機械の次は「工業材料」となります。
     日本は信頼性の高い工業材料を世界の市場に提供しています。この分野で日本の製造業は世界の先頭に立っています。よく管理された生産ラインで信頼性の高い製品を生み出し続ける技術の、層の厚さには驚かされます。素材産業は新興国の安価な製品に市場を奪われて苦戦していると聞いていますが、私たちは日本の企業のこうしたところに大きな信頼をよせても良いと思います。
     古典的な材料の知識だけでなく、材料科学の最先端を知るのもよい勉強になります。新しい素材の開発によって実験装置が飛躍的に進歩することはよくあることです。私たちはこうした知識によって新しいアイディアが生まれることを期待しています。
     鉄鋼や金属材料などの構造材料以外にも、合成樹脂、CFRPなどの複合素材、接着剤、特殊機能材料(防震、耐熱、形状記憶など)を紹介した読み物な文献は、自然に材料の知識を得られます。

  3. 機械部品やJIS規格を知る

     工業材料やねじなどの機械要素(部品)はJISの規格表に詳しく掲載されていますので、日本規格協会が刊行している「JIS規格表」があると便利です。金工室には機械設計で必要なJIS規格表を完備しています。カタログ通信販売を専門とする「ミスミ」のカタログには機械部品の知識が満載されており、非常によい参考書となります。無料で手に入るので持っているととても便利です。

  4. 良い装置をまねる

     身の回りにある様々な工業製品を手にとって、設計者の目で見てください。最初に形や大きさには全て根拠があるといいましたが、それを考えてみましょう。
     研究室の実験装置も同じです。すばらしい研究成果を出した装置があったらそれを良く見てください。研究目的を念頭におき、実験装置を分析して、製作者の工夫や苦労がわかるようなら、あなたはもう一人前の機械設計者です。
     私たちは、いまだに金工室の汎用旋盤を見て「はっとする」ことがあります。それまで気づかなかった設計者の意図を見つけられるからです。

    さあ、それではみなさん、機械設計に挑戦し、独創的な実験装置・観測装置を作りましょう。


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