■TVプロデューサー ジョン・ウェルズとは…
最後に、駆け足になるが、ウェルズとはどんなプロデューサーなのか。まず、同じ脚本も書くプロデューサーたち−『アリー・myラブ』のデイヴィッド・E・ケリーのような−に比べると、作品のジャンル性や登場人物の個性など、強烈な色を感じさせない。だがこれは、複数の物語を並行して描くアンサンブル・ドラマ(『ER』に代表される)の面白さを追求したことに付随した、必然の結果ではないか。ウェルズ自身もこう語っている。我々に必要なのは、あらゆるキャラクターをあらゆる方法で見せることだ≠ニ。そして『ER』のベントンを例に、黒人を黒人らしく描く必要なんてない。そんな人物描写を見る視聴者はいない≠ニもいう。筆者がウェルズが答えた各インタビューを読んでよく思うのだが、彼は実に理路整然としたコメントが多い。混乱しがちなアンサンブル・ドラマの多彩な要素を効果的に配置する、そんな作業に向いたドラマ作家なのではないか。
そう考えると、『ER』のマイケル・クライトン、『ザ・ホワイトハウス』のアーロン・ソーキンなど、他のクリエイターとの合作をウェルズが物にしてきたのも合点がいく。彼らのヴィジョンを実現するため、ウェルズは見事な女房役をつとめたといえよう。余談だが、筆者は『ザ・ホワイトハウス』のキャストにLAで取材したが、出てきたのはソーキンのほうの名前ばかりだった。逆にソーキンに対するウェルズの好サポートを感じた。
ウェルズはこう語ってもいる。『ヒル・ストリート・ブルース』に衝撃を受け、フィルムで撮影するTVドラマを作りたいと切望にするようになった≠ニ。番組作りの現場を共にする直接の師弟関係こそないが、実はスティーヴン・ボチコの遺伝子はウェルズに受け継がれたのではないか。アンサンブルの魅力、登場人物が抱えた人間的弱さ、演じるキャストは地味な外見でもOK(?)……。ウェルズ自身そこまで語ってこそいないが、やはりボチコの影響は大きいにちがいない。
何より、安易な方法で視聴者の目を引こうとしない、胴が据わった姿勢。そんなウェルズに、米国ドラマのメイン・ストリームを代表する名クリエイターの風格を感じずにいられない。最近の『ER』でも重要なエピソードに彼の名前を見つけると、ついホッとするのだ。
注)引用したウェルズのプロフィールやコメントは『ER 緊急救命室/完全ガイド・ブック』(ジャニーン・ブロイ著/扶桑社・刊)などを参考文献とした。
※この文章は、私がキネ旬ムック「海外TVドラマファイル」(キネマ旬報社)に寄稿した文章を、私自身がリライトして短縮したものです。(池田敏) |