リンク栃木ブレックス「どん底から日本一達成」の秘密
実績も施設もお金もなかったプロバスケットチームが、創設3年にして日本一を勝ち取った。なぜ、こんな快挙を成し遂げることができたのだろうか。
ノンフィクションライター 松瀬 学=文
心の持ち方次第で何事も成し遂げられる
スポンサー集めでは、販促効果も訴えてきた。商品とのタイアップ企画を打ち出し、リンク栃木の選手や試合を販促ツールとして使ってもらう。例えば、明治製菓と組んだキャンペーンでは、同県内のスナック菓子の売り上げを八倍ほど伸ばした。栃木銀行の募金活動には田臥らのユニホームを提供し、イメージアップにひと役買った。
スポンサーは昨年より、10社ほど増え、95社となった。経営は順調で、一昨季の約3億3800万円から、昨季の売り上げが約4億6800万円に膨らんだ。約1600万円の黒字を計上した。
内訳を聞けば、山谷はパソコンをすぐ持ってきた。画面を示しながら、説明する。スポンサー収入が一昨季の約2億500万円から昨季が約2億2400万円に、チケット収入は約8900万円から約1億3300万円、グッズ関連が約2200万円から約5800万円に増えた。ポイントはスポンサー収入の金額が増えながら、比率が全体の60%から48%と落ちたことである。収入バランスがよくなりつつあるということだ。
ただし、今季から親会社のリンク社からの支援(昨季のスポンサー協賛が4900万円)が打ち切られる。完全な黒字企業となれるのか。今季の売り上げは5億3000万~4000万円を見込んでいる。
ただ、と山谷は言う。「チケット収入は限界がある。試合数とキャパ(観客数)の問題がありますから。だからブレックス以外の興行をやることで、チケット収入をあげていくしかない」。
そこでリンク栃木は今年、日本バスケットボール協会から興行権を買い取り、宇都宮市や福島県須賀川市で日本代表の試合を開催した。12月にはJBLオールスター戦を前橋市で主催する。興行権が300万円。「これですよ、これ」とオールスター戦のパンフレットを右人差指でとんとんとたたく。
「キャパが5000。収益性が見込めます。チケットとスポンサーで2000万円はいくんじゃないでしょうか」
さらに今季、下部育成チーム「TGI Dライズ」を発足させ、日本リーグ2部に参入させた。いわばプロ野球みたいな1、2軍方式で、日本では初の試みである。TGIは栃木、群馬、茨城の頭文字。年間運営費が約3000万円。選手はバスケスクールで週2回の講師を務めることになっている。
「選手の発掘、切磋琢磨のためです。また栃木県の南部を本拠とし、群馬、茨城にも出張っていく。北関東に商圏を広げていくという発想なんです」
バスケット界は激動期を迎える。日本リーグとbjリーグからチームを募り、13年を目標に新リーグの設立を目指すことになっている。市場形態も変わる。「チームを持つ会社が、プロの球団としてちゃんと収益をあげて運営する形は外せない」と山谷は言う。
リンク栃木の中期的なビジョンが「BREX NEXT 5」である。今後5年間で達成すべき目標として、(1)新トッププロリーグ(13年スタート予定)の初代王者、(2)日本人NBA選手輩出、(3)年間売り上げ6億円、(4)平均観客動員3000人、(5)地域密着活動累計1000回達成、の5つを掲げる。
モットーは「すべては心の持ち方次第」。夢は?と聞けば、目が別もののような光を帯びた。
「チームとしてきちんとその地域に定着して、強くて、収益的に安定できるチームをつくること。スポーツを見る価値をもっともっと高めたい。でも究極の夢としてスポーツの現場の監督をしたい。アメフトの弱小チームのヘッドコーチなどいいですねえ」
目下、リンク栃木は連覇をかけたシーズンを戦っている。「もう一度、ゼロからのスタート」と言い切る。古い体質のバスケ界を変えるためには、勝ち続けないといけない。
「新しいことをやるうえでの一番の証明力は勝つことです。今年最下位だと説得力がなくなってしまいます」
延々2時間。濃密なインタビューが終わる。応接スペースの隣を通り、営業の若手スタッフが事務所から出ていく。山谷が笑顔で大声を飛ばす。
「いってらっしゃ~い」
いざ上質のスポーツ・エンターテインメントの確立へ。リンク栃木の挑戦が続く。(文中敬称略)
松瀬 学
ノンフィクションライター
まつせ・まなぶ●1960年、長崎県生まれ。早稲田大学卒業後、共同通信社にてスポーツ畑を歩む。2002年に退社後ノンフィクションライターとなる。『汚れた金メダル』でミズノスポーツライター賞受賞。著書に『早稲田ラグビー再生プロジェクト』『五輪ボイコット 幻のモスクワ、28年目の証言』『匠道 イチローのグラブ、松井のバットを創る職人たち』などがある。
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