道路交通網を輸送の手段だけでなく、情報通信の「ゲートウェイ」ととらえた「高度道路交通システム(ITS)」に注目が集まる。来年1月からは高速道路を中心に全国の1600カ所に設置した「ITSスポット」と呼ぶ路側機から、これまでより詳細な渋滞情報などをクルマに搭載したカーナビに送り、より安全でスムーズな交通社会を目指した実用化が始まる。システム対応のカーナビが相次いで発売されるなど経済効果も注目される。【熊谷泰】
電機、自動車メーカーなどは、「ITSスポット」対応のカーナビや部品の開発にしのぎを削る。既に2009年秋から、システム対応のカーナビが発売されており、国内の産官学から270以上の団体が加盟する特定非営利活動法人(NPO)の「ITS Japan」(渡辺浩之会長)は、15年度までに累計で約1000万台の普及を試算する。
ITSの今後を展望していく上で、来年1月からの「ITSスポットサービス」の全国展開が普及に弾みを付けるのは間違いない。また、13年には国内外から約8000人の関係者を東京に集め、ITSを交通工学や社会科学といった幅広い観点からとらえる「世界会議」の開催が予定されており、普及への大きな節目になりそうだ。
「ITS Japan」の天野肇専務理事は「有料道路の料金収受といった目的が限定されたETCと異なり、ITSの場合、システムを使った、さまざまな民間サービスが考えられます」と指摘。将来的には駐車場やドライブスルーでのキャッシュレス決済などでの利用を見込む。
一般のドライバーだけでなく、運送会社など企業経営にとってもメリットがありそうだ。「ITSスポット」の通過時点で通行履歴が分かるため、ネット経由で自社のトラックの運行状況をリアルタイムで把握。一定のセキュリティー保持を前提に効率的な物流システムが構築できそうだ。
より安全でスムーズな交通社会を目指した「ITSスポットサービス」が、来年1月から始まる。既に高速道路を結ぶジャンクションや事故が多発する地点など全国1600カ所に「ITSスポット」と呼ぶ路側機を設置。従来より詳細な渋滞情報などをクルマに搭載したカーナビに送り、全国規模でドライバーの安全運転などを支援する。
国土交通省は、道路交通の抱える課題として、(1)事故防止による安心・安全(2)渋滞解消で快適な社会の実現(3)二酸化炭素の削減など環境への配慮--の三つを挙げ、ITSを解決の「切り札」に挙げる。同省道路局は「これまでのカーナビが、かつてのワープロ専用機だとすると、ITS対応のカーナビは、いわば豊富なアプリケーションを搭載したパソコン。さまざまな情報をドライバーに提供できます」と説明する。
ITS対応のカーナビは、県境を越えて、より広範囲な渋滞情報をドライバーに画像や音声で伝え、最速のルートを選択。高速道路の本線を走る車両に側道から合流する車両の動きを知らせるなど、渋滞の解消による輸送効率の促進が期待される。
安心・安全では事故の多発地点の手前などで、ドライバーからは直接見えないカーブの先の渋滞情報を伝え、追突事故の減少などを目指すという。現在も事故が発生すると、高速道路上の電光掲示板などで状況を伝えているが、カーナビで直接、ドライバーに伝えることで、見落としを減らせるメリットがありそうだ。
ITS対応のカーナビは従来、別機能だったETCサービスにも対応。一部の機器はサービスエリアや道の駅で停車した際、その場でインターネットに接続し、地元の観光情報を気軽にチェックするといった便利な機能を備えているという。
ITSの普及では国内のみならず、国際的な連携に向けた取り組みが活発になっている。東京で10月、政府関係者らによる「日米欧ITS会議」を初開催、研究・技術開発などで連携していく覚書が日米間で取り交わされた。日欧でも近く、同様の覚書が取り交わされる見込みで、著しい経済成長でモータリゼーションが進み、事故が急増するアジアでもITSへの関心が高まっている。
毎日新聞 2010年11月30日 東京朝刊