<リプレイ>
●最も平和であるべき場所で 古都鎌倉に紅葉散り敷く昼下がり。文人墨客が愛したはずの歴史の町にこだまする無粋などら声。人知れず世の平和と結界の秩序を守る銀誓館学園は今十重二十重に囲まれている。 「わかってんな、てめーら!」 「おー、我らが天竜・頭蓋さんのために!」 じゃらりと鳴るチェーンの音、ギラリと光を跳ね返すナイフ。とりどりに染められた髪は叩けば音がしそうなリーゼントであったり、モヒカンだったり――。 「うわー、うわー、再放送のドラマみたいです!」 そのまま空へ飛んで行ってしまいそうな勢いで山崎・ましろ(雪風桜の小命婦・b45247)はぴょんぴょんととび上がる。 「見比べると最近の不良さんはすたいりっしゅなのです」 闘いに赴く能力者達の肩越しに見える『不良』達は確かにスタイルと個性という点では確かに群を抜いているかもしれないが……。 「……すたいりっしゅ、なあ」 毒気を抜かれたように呟いたのは片岡・友明(高校生竜虎・bn0125)。落ちかけたその肩を神室・光(蓮葉・b03118)がポンと叩く。 「こういうノリの奴等は嫌いじゃねぇが、学園荒らされんのは勘弁だしなぁ。つか、古くせぇし」 「……卒業生的にはカチンとくんだよなぁ、オイ」 母校荒らされて、センセーや後輩にまで手ぇ出されるとかさぁ……校門めがけて駆けていく桐嶋・宗司(深黒晦冥・b25663)の足もどんどん早くなって行く。 「ふん、ここが銀誓館のシマと知ってカチ込んでくるとは良い度胸だ……」 アリシア・マリンスフィア(星屑の鉄槌・b22046)の笑いも不敵そのもの。自主映画の撮影用にと一般生徒から借りてきた高校男子の制服を肩にかけたその姿は、向かい来る敵――不良達を相手にとっても堂々たるものだ。ことここに至るまで予報士に察知もできなかったとは敵もさるもの。油断のならない相手であることは百も承知であるけれど、自分達の本拠地に飛び込んでくる愚かさを教えてやるにはいい機会といえなくもない。 「いっちょ派手に返り討ちしてやっか!」 光がにっと笑えば宗司も友明も勢いよく頷いて。 「うっしゃ!! 首洗ってまってろよ!」
校庭の付近にいた一般生徒達は既に避難を促してある。今を去ること数分前、能力者達はそれぞれの言葉で一般生徒達を現場から遠ざける。 「……能力者でない方まで巻き込もうとは……許せませんからね」 そんなネフティス・ヘリオポリス(屍人の花嫁・b31266)の呟きを受けて、宗司はにこやかに女子生徒の一行に声をかける。 「自主映画の取り直しが難しいシーンを撮影するから、屋内の安全な場所に移動してくれ」 「カメラに映らないよう離れてもらえないか」 とはアリシアの言。蜜月・杏奈(あんみつ姫・b00657)が歩調を合わせて説得に回ったところを、ダメ押しに友明が王者の風を――これならば多少のことがあっても何とかごまかしがきくだろう。 「白昼堂々とんでもないの……!」 だがいくら怖い人ばかりでもここに手だしなどさせない――決意も新たに上尾・亜衣(アイから始まる名前・b25928)が武装を整えれば、 「……守りましょう、絶対に……」 懸命に前を見据えて、夜咫・晶(獅子の思いを映す銀鏡・b53016)も真ケルベロスのデルタの金色の背中を押した。
●疾風怒涛の如く 「疾風迅雷電光怒涛!! 見参!」 彼方ではずらりと並んだ長ラン軍団が、しきりと怒声をあげている。『舌、噛みませんか?』と小さく問うた晶の声などあっさりとかき消して。 (「でもチーム名がちょっとかっこいいなあ……意味は、わかりませんが」) 口々に叫ばれるチーム名。難しい字面の漢字が並ぶイメージは外国生まれのネフティスには興味深い。もっともそんなことを云々している間もなく、両者はあいまみえようとしていた。
疾風、迅雷、そして電光――全ては駆け抜けていく速さを誇るもの。だがマントにも似た長ランをはためかせる怒涛の軍団よりも、アリシアはさらに早かった。 「止まれ……ここから先へ進みたければ我々を倒していくのだな」 接近戦を仕掛けるにはやや距離があるその位置で、アリシアは果てない演算プログラムを自らの瞳に宿す。そんな彼女の背中にぴたりと付いていったのは宗司と杏奈。 「こんな事をしていて大丈夫なのかな……?」 今の時期、勉強しないと大変なのに……言わずもがなの呟きに、魔法陣の輝きが重なる。保育士を目指している杏奈にしてみれば迫りくる長ランの集団も心配の対象となるものなのか。だが無論不良達がそれに深甚なる感謝の意を示すことなどあるはずもなく、古式ゆかしく名乗り等上げ始め。 「今、ここにィ、正義の鉄槌を――」 「下さんとする、われら疾風迅雷電光――」 古き良き時代の不良には様式美というものが確かに存在していたのかもしれない。 「……めんどくせぇ、こいつら。長ランでいいや」 無敵の構えを取りながら吐き捨てるように断言する宗司に、ネフティスはくすりと笑みを零す。だがやはりそれもほんの一瞬のこと。 「……パワーも見た目も、負けません……セト、行きましょう」 傍らの真フランケンシュタインFWの腕にはネフティスが作り上げた闘気のパーツ。そのセトの向かう先には宗司、アリシアら前衛陣の背中が見える。そしてすぐ後ろにはそれぞれに狼虎の気を纏う2青年。 「支えは、任せて、ください」 中衛を張る亜衣の傍らにデルタをそっと向かわせて、晶は声を張った。
「速さと鋭さで、負ける訳にはいかんのだ!」 銀色の月がトウモロコシ色の髪の男の上に輝く。自分に何が起こったのか果たして彼は理解することができただろうか。長い裾がふわりと天へと翻った。神速の蹴りに大きくのけぞったのだと知ったのは数瞬のち。その時には既に宗司の踵の刃が真っ黒な闇で覆われ、金色の獣が肉薄していた。 「!?」 それまで一方的に痛めつけるだけだった不良達の目に困惑に近い色が浮かんだ。3人の攻撃を浴びたトウモロコシ頭は防戦に回らざるを得なかった自分が信じられないとでも言いたげに身を起こし――。 「……」 だがその時にはネフティスの漆黒の弾丸がぴたりと狙いをつけ、セトのキャノンが火を吹いていた。 「「な、なにーーっ」」 不良達の驚愕の声が秋空に響く。だが季節はましろの吹雪によってあっという間に進んでしまう。雪は全ての敵を巻き込んで、この世のものならぬ氷でその体を覆う。尋常ならざる事態にパニックを起こしかける連中をよそに、光は高速の蹴りを、亜衣は雑霊達の弾丸を――。勝利の女神は一気に能力者達に微笑むかに見えた。
●迅雷の走るがごとく 能力者の壮麗な技で幕を開けた闘い。しかし相手は腐ってもナイトメアビーストの手先である。一時の劣勢からの立ち直りは常の人にはあり得ぬものであった。 「げっ」 避ける間もなく友明の右腕に錆の浮いたチェーンが絡む。鎖の主を確かめるべく顔をあげればそこにはみごとなスキンヘッド。ボスかと思う時間すら与えられずに少年の体は自由を失う。後を追うようにアリシア、宗司にもチェーンの麻痺が襲いかかり……。いきなり3名もの戦力を封じられてしまったことに、晶は血の気が一気に引くような思いを覚えた。だが窮地はそれだけでは終わらない。動けぬ友明に別のナイフが襲い、長ランの裾が刃と化して件の3人を薙ぎ払い、更には光、セトまでがとらわれるに及んでは、先手を取った余裕などないも同然になってしまう。 「回復を……!」 杏奈は唇をかむ。自分の技では仲間を麻痺から救うことはできない。ならばせめて傷だけでも……癒しの力のこもる祝福は動いた後には使えない。杏奈はすぐにでも駆けよりたい衝動を抑え、友明に力を宿し、ネフティスはセトの腕に新たなガントレットを取りつけた。 「すぐに……助けます……」 晶もすぐに呼吸を整えて常緑の枝を一振り、二振り。年に似合わぬ優雅な舞いは光の自由を取り戻し、自力で麻痺を振り払ったアリシアと共に前線の防衛に奔走する。亜衣の真モーラットピュアぴーぴもぱちぱちと火花を爆ぜて、前線が崩れるのを防ぎにかかる。 「まずは……1体」 銀色の三日月が細く消えていくのを目の端に眺めつつ、アリシアはほっと息を吐く。チェーンがもたらす麻痺の恐ろしさは身を以って知った。確かにあれに絡め取られれば戦線などあっという間に崩壊してしまう。だが、個人個人の力を見れば決してこちらが劣る訳ではないように思う。 「なら、少しでも早く削るのです!」 その数も、体力も――ましろの吹雪は使い手の意思のままに不良達を取り囲み、亜衣は最も傷深き者を穿つべく雑霊達を呼び集める。こちらが数を減らすのが早いか、敵がこちらを食いつくすのが早いか、勝負はこれからが佳境。 「ふははは……。何度でもやってやる! 覚悟しやがれ」 ばさりと大きく長ランはがはためく。前を守る者達の頬に赤い血が飛び散り、別の1人のチェーンがさらに友明に麻痺をかける。銀色のナイフはぴーぴを狙って空を切り、最後の1人が再び大きく長ランの裾を揺らした。確かにこれは楽ではなかった。 「けど、覚悟しやがれってのは、こっちの科白だろ?!」 再び麻痺に囚われる寸前に友明は叫んだ。もちろんと光の足が流麗なステップを踏む。傷ついた者により大きな傷を――その蹴りは鮮やかな弧を描き、銀色の軌跡を残す。2人目の不良はその光の下に力尽きていった。 「荒らしまくってくれた分、全部返すぜ」 遠慮しねぇし、させねぇ……宗司の刃は罪人の首をはねるもの。それが漆黒の闇を帯びるとき、彼は冷酷無比な処刑人の顔になる。力を封じ込められていた反動を一気に載せて、漆黒の剣戟が3人目の男を切り裂きにかかる。仲間を救うべく舞いつづけていた晶の目には、それは天の断罪のように映った。 「すごい……」 範囲攻撃で削られていたとはいえ、敵を一気に死の淵に追い詰めてしまった腕前にはただただ感嘆するほかはない。自分にはああいう強靭さはないけれど……だが強さにも様々あることを晶は知っていた。ものを砕くのも強さなら、何度でも立ち上がる力を与えることもまた強さ――晶の舞いはそれを証明するかのように、残る仲間の麻痺を全て霧散させていった。
●古き時代を封じよ 「……セト……鉄拳制裁です……!」 自由を取り戻した広くたくましい背中に、ネフティスの静かな声が通った。闘いの場とは思えない程の穏やかさには仲間を安堵させるものがあったが、その指輪から生まれる弾丸は真っ黒な穢れに満ちみちて。チェーンを再び振り回そうとしていた1人に吸い込まれるように消えた弾丸は深々と黒い穴を穿つ。傷口からじわりと広がって行く紫が強い毒がまわっていることを教えてくれた。追い打ちを……前衛陣の目に強い光が宿る。だが次の瞬間、彼らが手を下す必要はなくなっていた。セトの強力な打撃が気持ち良いくらいの勢いで不良の体に吸い込まれていったのだ。 「……そろそろか?」 4人目が片付くのが時間の問題だとしった前衛陣の間で素早く視線が交わされる。取り巻きが半減したら余力のあるうちにボス格へ。作戦の転回点がいまやってこようとしているのだ。 「行こう!」 光の声が全てを決定した。その瞬間、ましろの吹雪が銀誓館の庭先に吹き荒れる。ホワイトアウト――全てを覆いかくす冬の白はこの時も残る5体を極寒の地へと落とし込む。吹雪の音色は終焉への前奏曲。杏奈はヤドリギ使いの祝福をぴーぴに与え、来るべき時に備えた。 「俺を倒そうなんぞ、百年早いわ!」 一騎当千の俺が蹴散らしてくれる……向かってくる能力者達にボス格の男はマントを翻す。鋭利な刃物と化した裾は容赦なく前衛陣を切りつけたが、それは彼らも覚悟のうち。 「百年っていや、長いもんだけど」 全身に虎の紋様を浮かび上がらせた友明がいえば、ましろもふわりと笑んだ。 「あの人の百年目が、今来たのです」 もうおしまいなのです……その呟きに重なるのは漆黒の剣戟、光の神速の蹴り。後に残された光跡は夜明けの空を飾る逆の三日月のような――。 「うん、銀誓館に手だしはさせないって、言ったよね?」 掌にふわりと丸く集まる雑霊達。亜衣の気弾もまた迷うことを知らずにボス格へ。ここには大切な人がいて、そして大切な思い出があるのだから。 「見届けてやるよ……」 お前達の無謀さと愚かさを――。アリシアの足が大地を蹴った。それに引かれるようにして光の足も空を飛ぶ。二筋走る三日月が銀色の弧を描くのに、宗司は闇を纏った一撃を合わせた。一瞬の夜に輝く刹那の月。それは目を見惚れる程に美しく、ネフティスは我知らず感嘆の吐息を洩らしていた。 「……セト」 静かな声が遭い方を呼ぶ。真フランケンシュタインFWが声でそれに応えることはない。だが、貫く漆黒の弾丸にセトはその拳でもって忠実に応えた。 「……なぜだ! なぜ、俺がァ……」 長ランの裾が重たげに大地を打った。がくりとついた膝、もはや2本の腕では満身創痍の体をさせることはできない。レンガの道にうつぶせたスキンヘッド。その後頭部に黒々と残る一騎当千の文字。もう何の意味も持たないその文字をましろは色なき吹雪で覆い隠す。 「凍てつき果てよ、来たれ六花の風!」 核を失った不良達にもそれは容赦なく降り注ぐ。支えの無くなった不良チームは疾風怒涛の勢いとも電光石火の激しさとも無縁だった。そして――能力者達の攻撃はとどまるところをしらない。 友明の拳が右側の男に吸い込まれれば、亜衣の操る雑霊達が止めをさし、反対側ではアリシアの蹴りと宗司の剣戟とが鮮やかな連携を見せている。 「デルタくん、あの人を、お願いします」 息をつく暇を与えないように――デルタは主の願いに完璧に応えた。幾度も幾度も走る獅子の爪。どさりと倒れたその体に走った傷の数は数えることさえ無駄に思えた。 1人、また1人。倒れて行くのは不良達のみ。終わってみれば始めの苦労が嘘のように能力者達は完全な勝利を収めていたのだった。
「……まさかこの戦いが陽動だったりしないよね?」 天竜・頭蓋本人が来ているともきいているけど……累々と倒れたままの不良達を見つめながら杏奈は呟く。 「こいつら、起こして聞いてみるか?」 アリシアがボス格を引き起こせば、宗司が頬を叩いて覚醒させる。 「おい。お前らの総大将……天竜って奴の居場所、教えろ」 だがスキンヘッドの男はまだ答える気力すら取り戻していない。他の不良達もどうやら似たり寄ったりの状況らしく、一向にらちがあかない。 「こうしている間にも……」 敵は近付いて来ているのかもしれないです。ましろは十絶陣を皆に施し、全身で敵の気配を探る――。と遠くで大きな声が上がった。それが新たなる襲撃の幕開けであることを彼らが知るのは、後ほんの少し未来のこと。戦闘が終わった安堵とは程遠い何かが、ひたひたと能力者達の心を打ち始めている……。
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参加者:8人
作成日:2010/11/30
得票数:カッコいい1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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