マイペースで大臣礼賛を繰り広げた孫社長が、ようやくこの日の主張の趣旨を述べたのは、資料が11ページまで進んだ時だった。ここまで進んで、やっと、孫社長は「光(ファイバー網敷設)のコストは安い、(だからNTTの光のアクセス部門を)構造分離すべきだ。(分離しても)経営は成り立つ。そうすれば、自然に豊かな国民生活を実現できる」と主張したのだ。
光ファイバー網の維持費には触れないまま
さらに、孫社長は畳み掛けるかのように、多数の電話線が架けられている電柱の写真を聴衆に見せた。次いで、ほんの数本のケーブルが懸架されているだけの電柱の写真を示して、光ファイバー網は効率的で、飛躍的に伝送能力が向上すると言い張った。また、銅線と違い、ガラス製の光ファイバーは腐食しないから、寿命が長いとも強調した。
こうした論証により、光ファイバーは投資効率が高いとのイメージを刷り込もうと試みたのである。
さらに、孫社長は、2本の棒グラフが並ぶ16ページの図表に話を切り替えた。(右図)グラフの左側を指して、
「メタルの、10年で維持費だけで3.9兆円です」
と、説明。それから右側の短い棒に話を移して、
「追加で、(残りのメタル回線を)100%光の芯線に置き換えるのに必要なコストは、たった2.5兆円です。つまり、(メタル回線の)維持費だけで、(必要な光ファイバー網の)モノが買える」
と、自信たっぷりの表情で請け負って見せたのだ。
しかし、この議論にはムリがある。
なぜならば、孫社長の説明は、メタル回線の維持費(3.9兆円)と今後必要になる投資額(2.5兆円)の2つの数字の比較に過ぎないからだ。その主張が正しいと裏付けるためには、光ファイバー網の維持費がいくら必要かを示さなければいけない。その説明がすっぽり抜け落ちていたからである。
そして、ヒアリングが進むに連れて、孫社長の論理は、どんどん破綻の色を濃くしていった。
その第一は、孫社長が、光ファイバー網の整備について「今後5年間で早期に一括して行う必要がある、さもないとコストが嵩む」と説明した点である。
前述のように、孫社長は、メタルの回線維持コストが不要になり、1年間に3900億円、10年経過後に3.9兆円を捻出できると述べた。しかし、5年間で投資を終えるというならば、その半分に過ぎない。足りない分は借金でもしないと賄えないのである。孫社長は、そういう肝心の点を無視して、机上の空論を振り回していたのである。
さらに、孫社長はこの日、投資や工事を前倒しすることによって、NTTグループが従業員の雇用を維持できると述べた。
実は、メタル回線にしろ、光ファイバー網にしろ、維持コストの中で大きな位置を占めているのは、補修要員の人件費だ。これを減らさないと、メタル回線にしろ、光ファイバー網にしろ、維持費の抜本的な削減などできない。雇用確保が目的なら維持費は削減できないのである。
孫社長のこうした矛盾だらけの説明は、一般傍聴席からも疑問の声があがっていた。筆者はヒアリングの終了後、複数の電気通信事業者から「孫社長の説明はまるでペテンだ」との手厳しい批判を聞かされる始末だった。
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