ニューヨークで現在、5年に一度の核拡散防止条約(NPT)再検討会議が開かれている。だが、ある興味深い問題が議題に上がっていない。日本からインドへの核技術のセールスだ。
この数カ月間、インドの議員は日本に民間の核原子力技術の提供を求め、ロビー活動を展開している。このような取引を可能にしたのは、ブッシュ米政権と米議会が2005年に認めた米印間の民生核協定だ。これにより、すべての核施設に国際査察を認めない国に加える貿易制裁をインドは免れている。
これまで日本政府はインドの原子力事業への協力に消極的だった。一部の政治家や核軍縮支持者は、日本がインドの原子力事業に全面協力すれば、核拡散防止や核軍縮といった交換条件なしに、インドに核兵器の保有を認めることになると考えている。
現在、経済産業省などの技術承認に関与する省庁は、インドとの通商に門戸を開きたいと考えており、インドで原子力事業の展開を狙う米国やフランス、ロシアを前に、自国のみが高潔である必要はないとしている。一方、拡散防止や核軍縮の支持者たちは、米国などが非拡散体制を守らなくても、日本は堅持すべきだと主張する。
日本の影響力は、一般的に認識されているよりも大きい。インドでの原子炉建設契約に署名したフランスの原子力大手アレバは日本製の部品を必要とし、契約取得を目指す米複合大手ゼネラル・エレクトリック(GE)も、パートナーの日立製作所のノウハウを必要としている。したがって、インドとの原子力協定に関する日本政府の決定は、インドの原子力事業の方針や規模だけでなく、アレバやGEなどの企業、および日本の提携企業の事業計画にも影響を及ぼす。
日本のハイテク企業や政治家は、原子力事業における協力が、直接的な利益をもたらし、政治面での親善強化につながることを認識している。成長著しいインドでビジネス拡大に道を開く可能性があるこうした協力は、景気回復が遅れている日本にはどうしても必要なものだ。
日本は核兵器の保有権を放棄し、1976年にNPTに署名している。この条約に基づけば、核保有国は5カ国に限定される。事実上、核を保有するインドを条約の対象外とする取り決めは、日本にとってとうてい納得できるものではない。
インドを規制対象外とすることは、過剰な譲歩であると考えているのは日本だけではない。多くの国々も同様に感じている。また、インドとパキスタンは包括的核実験禁止条約に署名しておらず、両国と中国は核兵器に用いられる核分裂性物質の生産停止に合意していない。
日本企業と海外の提携企業がインドの原子力市場に参入するのを政府が妨げることはまずないだろう。今後のインド経済は極めて重要であり、米仏の原子力パートナーから強い協力要請もある。だが鳩山政権は日本の原則、利益、そして拡散防止でのリーダシップの追求を完全にあきらめる必要はない。
日本はインドに対し、明確な合意に沿った原子力協力の提供が可能だろう。その合意とは、インドが核実験に踏み切れば、協力を解消するというものだ。両国の企業間の契約にもこの条件を盛り込むことも可能だ。このような条件は、米国とインドの原子力協定交渉の前触れとなった、米印平和利用原子力協力法(ヘンリー・ハイド法、06年)の規定とも一致する。
インドが断固として反対することは間違いないだろう。だが98年の核実験以来、インド政府は一貫して今後の核実験の一時停止を強調している。90年代後半の保守派インド人民党政権は、インドは包括的核実験禁止条約の締結を邪魔するつもりはないと明言した。今後核実験があればその言葉に反することになる。日本はインドに約束を守るよう主張すべきだ。そうすることで日本が非難される理由はない。
インドの核実験停止を日本との原子力協定の条件にすることは、日本、および海外の原子力パートナーだけでなく、インドにとっても合理的かつ公正な妥協策となるだろう。NPT会議に集っている非核兵器国を十分納得させることはできないにせよ、大きな前進になるはずだ。
(ジョージ・パーコビッチ氏はカーネギー国際平和財団の副所長兼同財団の核政策プログラムのディレクター)