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有害鳥獣:イノシシ・シカ肉、地域振興の目玉に 農水省が対策拡充へ

 里山にイノシシやシカが出没して農作物や果樹を食い荒らす被害が後を絶たない。その被害額は全国で年間約200億円に上る。農林水産省は11年度概算要求で有害鳥獣対策として、駆除したイノシシやシカを食肉として加工する施設の建設費の補助などに113億円を計上した。厄介ものを地域振興に生かすことができるのか。【山本建】

 ■仏料理にエゾシカ肉

 東京都目黒区のフランス料理店「ラ・ブーシェリー・デュ・ブッパ」では、鮮やかな赤身のエゾシカ肉を使った「タルタルステーキ」と、血に生クリームや野菜を混ぜて固めた「イノシシの血のブーダンノワール」などがメニューに並ぶ。

 タルタルステーキは卵の黄身やトマトにマスタードをあえたソースをかけてさっぱりとした味わいがある。ブーダンノワールはリンゴとカカオのピューレを加えた濃厚な味が特徴だ。シェフの神谷英生さんは「シカ肉は鉄分が多く、貧血予防が期待できる。イノシシの血には家畜のブタに衛生管理上投与される抗生物質の臭みや濁りがない」と話す。

 食材として捕獲されたイノシシ、シカ、カモなど野生の鳥獣はジビエと呼ばれる。冬に備えて栄養を蓄えるため、今ごろが旬になる。神谷さんによると、質のよい肉を安定供給する食肉加工業者が増え、ジビエ料理を提供するレストランは最近増えているという。

 エゾシカ肉を専門に加工、流通する食肉解体処理会社「エレゾ・マルシェ・ジャポン」(北海道帯広市)は、徹底した衛生管理と発注側のニーズに応えるサービスで業績を伸ばしている。地元のハンターと04年度から始めたエゾシカの出荷は、09年度に500頭まで伸びた。シカ肉は雄より雌のほうが軟らかく、特に2~3歳の雌はしっとりとしてうまみがある。地元ハンターに会員登録してもらい、レストランからの注文に応じて年齢や性別を選んで捕獲することで取引先を開拓した。

 同社の運営会社であるエレゾ社の佐々木章太社長は「多くのハンターは角が採れ、体格のいい高齢の雄を狙いがちだが、肉質が硬く流通に向かなかった。ところが、エゾシカ肉も上手に加工すれば高値での取引が可能でハンターの意識が変わった。スーパーや百貨店を通じて家庭に届けたい」と意気込む。

 ■食肉加工に補助金

 農水省は、国産ジビエ普及の動きを有害鳥獣対策につなげようと、11年度概算要求に食肉加工施設の新規建設費だけでなく、既存の施設に冷蔵庫や加工場を増設する費用も補助対象とする予算を要求した。安全で質の高いジビエを流通させ、ハンターや農家の高齢化で伸び悩む有害鳥獣対策に弾みをつけたい考えだ。

 京都府京丹後市は来月から、わなにイノシシがかかれば、ハンターの携帯電話に画像付き情報が送られるシステム100台を導入する。今年5月に完成した食肉加工施設で扱うイノシシ肉の品質や流通量の確保が狙いだ。同市農林整備課の小西晋哉さんは「わなにかかったイノシシは、暴れて身を痛める。早く処理したほうが肉質が保たれ、結果的に流通量が増える。わなの見回りはハンターの負担だった」と説明する。

 人材育成で鳥獣害による農作物被害に取り組む動きもある。宇都宮大里山科学センターは09年度から、鳥獣害を防ぐとともに、その有効活用を図るため、社会人を対象にした鳥獣管理士認定制度を始めた。受講生は1年間、野生鳥獣の生態や里山の環境保全機能、鳥獣害対策法などを学び、修了時に鳥獣管理士に認定される。10月には第1期生17人が認定を受けた。茅野甚治郎センター長は「鳥獣管理士の連携が、被害対策に加え、質と量が課題の獣肉の利活用に役立つ」と期待する。

 一方、野生のジビエが食肉として安定流通するには、解体技術や衛生的な管理、流通体制の整備など課題は多い。散弾銃で弾がめり込んだ部分は使えず、解体時に内臓を傷つければ臭みや感染症対策のため廃棄せざるを得ない。

 イノシシ肉の流通に詳しい小寺祐二・宇都宮大特任助教は「黒字を出せる経営戦略を練らないと、補助金頼みではいずれ行き詰まる。全体重のうち食肉に回すことができる部位は良くても5割程度だ。衛生的で歩留まりのいい解体技術の普及なしに食肉加工施設を用意しても、有害鳥獣の駆除につながりにくい」と指摘する。

毎日新聞 2010年11月29日 東京朝刊

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