きょうのコラム「時鐘」 2010年11月29日

 お駒「この町が好きです」。直之「私もだ、金沢は美しい」。映画「武士の家計簿」で、夫婦役の堺雅人、仲間由紀恵さんがつぶやくシーンがある

地方の首長選は「この町が好き」という候補者の本気度を、市民が判定する機会ではなかろうか。ふるさとに対する愛情や情熱が本物であるのかどうかを見極め、明日を任せるに足ると信じた人物に一票を託すのである

金沢市長選は48歳の新人が大接戦の末、6選を狙う79歳の現職を破って幕を閉じた。入れ替わるように白山市長選が始まった。こちらは、だれが勝っても新人の登場となる。見慣れた地方政治の画面が、新しい映像に切り替わって行く瞬間を見る思いである

福岡や尼崎市で、30代の市長が登場している。首長は若ければいいというものではない。地方には地方の味わいや課題があり判断があるからだが、一方で、郷土愛の表現も新しいものに切り替わっていく。これも自然の流れだろう

先が読みにくい時代だ。「市の家計簿」を若手新人に任せた有権者のぎりぎりの判断と、押しとめることのできない時の力に粛然とするのである。