毎日新聞が20、21日に実施した世論調査によると菅直人内閣の支持率はいよいよ26%にまで落ち込んだ。尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件での腰の据わらない対応やビデオ流出事件、そして柳田稔前法相の「国会答弁は二つだけで」発言……。支持が離れるのは当然だろう。
だが、私が注目するのは別のところにある。民主党の支持率が20%に下落する一方、自民党も拮抗(きっこう)してきたとはいえ18%。両党の支持率を足しても「支持政党はない」と答えた人の40%を下回っていることだ。
最近では決して珍しい話ではない。例えば鳩山由紀夫前内閣末期の今年5月の調査でも民主党、自民党それぞれ17%だったのに対し、支持なし層は44%だった。だから私たちは慣れっこになってしまっているが、与党第1党と野党第1党の支持層を合わせても無党派層に追いつかない事態は、実は政党政治そのものの危機ではなかろうか。
政権交代から1年2カ月。臨時国会は、閣僚の失言、陳謝、撤回のオンパレードで、確かに菅内閣の体たらくは目を覆うばかりだ。ただし、「直ちに自民党政権に戻そう」というのが有権者の大勢になっているようにも見えない。全国を回っていると民主党への失望感はすさまじいが、失言や失態の追及に終始している自民党に対する不満の声も多く聞くのだ。
日中関係をどうするのか。北朝鮮の暴走にどう対処するのか。借金漬けの財政や、医療、年金など社会保障制度はどうあるべきか。そんな議論が求められているのに足の引っ張り合いだけをしている場合か、と。
北朝鮮の砲撃事件でようやく日本を取り巻く深刻な状況に少しは目覚めたかと思ったが、臨時国会は補正予算以外の大半の法案が、ほとんど審議もされず、会期を残して事実上終わってしまいそうだという。
何も決まらない。何も動かない。衆参のねじれ克服のため菅首相が目指していた「一つ一つの政策案件で野党と十分協議し、成案をまとめる」という「熟議」路線は、どうやら夢のまた夢のようだ。
ならば、どうすれば政治は前に進むのか。二つの空想が私の頭にもたげ始めている。
一つは民主、自民両党の大連立である。自民党が同じようにねじれに苦しんでいた福田康夫政権時代の07年秋、当時の民主党代表、小沢一郎氏が大連立に動き、民主党内の猛反対で頓挫したのは記憶に新しい。
あの時、私も「大連立などとんでもない」と批判したものだ。政権は有権者が選択するもの。政治家が選挙を経ないで勝手に政権の枠組みまで変えるのは常道ではないと思ったからだ。政権交代実現を目前にしながら、大連立に進んだ小沢氏の行動は理解ができなかった。
ところが、その政権交代の結果がこの政治状況だ。仮に菅首相が退陣し、民主党の誰かが首相になっても、あまり変わらないように思える。「日本の政治には政権交代が必要」と長年書き続けてきた私も自省を続ける毎日である。そして、もはや、この難局を乗り切るには、弱い者同士といえる両党を中心に大同団結するのも「あり」ではないかと考えるに至った。
もう一つは政界再編だ。ともに党内の意見がなかなかまとまらない民主、自民両党。ガラガラポンとグループ分けし直し、政策決定のスピードを速める。これも私は従来「実際には再編は難しく青い鳥を求めるような幻想だ」と戒めてきたが、申し訳ないけれど考えを変えた。
では何を軸に再編するか。消費税率引き上げと、「環太平洋パートナーシップ協定」(TPP)への参加問題だと思う。民主党も自民党も党内で意見の分かれるテーマだ。そこで菅首相が、この二つを争点に掲げ衆院解散・総選挙に打って出るというのはどうか。
かつて小泉純一郎元首相が郵政民営化を唯一の争点に衆院を解散した時には足元の自民党は分裂した。消費税とTPPは、郵政民営化より、よほどまっとうな「国のかたち」を問う争点だろう。菅首相が民主党の分裂を覚悟して解散すれば、それを機に政界全体を巻き込む再編の可能性がある。
あくまで私の空想物語。大連立も解散も相当な力仕事で、今の菅首相にそんな力があるようにも思えない。でも、もし状況が大きく変わるとすれば、それは「この国を沈没させてはいけない」という国民の声がさらに拡大し、政治家の背中を押す時かもしれない。そんな思いをめぐらしている。
毎日新聞 2010年11月28日 東京朝刊