─2050年
アフリカ、コンゴ共和国の深奥にて歴史上類を見ない規模のメタンハイドレート埋蔵域を発見、エネルギー資源の枯渇により経済危機に喘いでいた各国はこぞってこれを求めてNPO法人という言葉を隠れ蓑に調査隊を派遣する。
─2051年
NPO法人として国連から派遣されていた『緑の袖』が、埋蔵域を覆うように分布している水源によってこの地方のメタンハイドレートが保たれていると発表、この発見によって掘削による水質汚染、水源破壊が問題視され開発が更に難航することになる。
─2052年、10月
国連が埋蔵域に分布する水源は中部アフリカで使用されている水源とは何処にも繋がっていない独立した物だと発表、当時のコンゴ共和国大統領、国連各国との世界エネルギー会議で埋蔵域を『世界的資源』と評して採掘同意書に捺印、メタンハイドレート採掘を各国からのマージンと現地住民を優先して雇用する事を条件に承認する。
─2053年
日本の地質学者、西条徹(サイジョウトオル)が埋蔵域に細かく分布する水源の分析結果を発表、小規模なメタンハイドレート燃焼により36℃という高い水温、未確認の微生物多数発見、塩分濃度、酸素濃度等の統計を学会に提出、その時西条博士は、”この水源は近海に繋がっているか、もしくは何らかの方法で光合成を使わずショ糖やグルコースやデンプン、酸素を生化学反応によって行う生物がいる”可能性を示唆、新たな生物の発見はおおいに評価されるも、この西条博士の仮説は一笑に付され開発競争は更に加速することになる。
─2054年
違法採掘業者が国から指定されていた採掘ルートを無視し、多数分布する水源の一つに穴を空ける。
その後もれ出した水によって液状化した地盤が崩壊、報せを受けたコンゴ共和国治安維持隊によって違法採掘業者十数名が泥の中から救出されたが、搬送された病院にて全員死亡が確認された。
─2060年
国連が”コンゴ共和国メタンハイドレート開発区域における特異事項”を発表。
その配られたレポートの中には人間の神経系の中枢”脳”に酷似した生物が掲載されており、それと同時に全世界に向けて人間以外の知的生命体が開発区域全体を覆うように分布する水源にて確認された事を発表した。
国連は、”これはクラゲと呼ばれる水生生物と同様の種であり、人間の体内と非常に近い環境がこの種をこのように進化させたのだろう、私達はこれを仮称であるがencephalonと呼んでいる、安直な名称だと思うがコレを表すにはピッタリだと思ったからだ”
との発言に留まった。
脳みそのようなクラゲ。
人類史と同じくらい長い時間閉じ込められた深奥の水源。
そこの中の組成は人間の脳と同じ、そして地上からは土壌を通して豊富なミネラルを含む水が降り、それを餌にし生化学合成を行う微生物と……クラゲがいた。
主人公ワイヤードはそのクラゲ『encephalon』を頭蓋内に移植した実験体人型クローン”エフィラ”の1人、多様な人種のDNAを混合した事によるなんとも言えない風貌と、ケーブルタイプと呼ばれる所以の10mほどの黒いケーブルが首根っこから伸びている、研究者も無茶苦茶だと思うほどの実験体から、テストケースの中のテストケースと呼ばれることも。
登場人物
ワイヤード
この物語の主人公
開頭開花してからはずっと首根っこから伸びるケーブルに繋がれている、黒髪、目は緑、肌の色は淡い黒、顔は様々な人種が合わさっている為かハンサムとは言えない、だが愛嬌があるため研究員に人気がある、実験体としては一番若く、度々訪れる第八戦術部隊に弟のように扱われている。
年齢は5歳だが人間の成長速度ではencephalonの成長速度に頭蓋が耐えられないため人為的に12歳ほどの体躯になっている、これは他の実験体も程度の差はあれど同様。
アオイ
何時も主人公のそばにいる人。
使用人兼親的存在と自称している、ワイヤードにとっては大事な友人の一人
カール
第八戦術部隊所属、主人公と同じエフィラの一人、コードレス、特殊炭素鋼で出来た扉もぶち破るほどのテレキネシスが使える、部隊の隊長。
男、12歳、体は20代
突撃要員なのに意外と理性的なのは部隊長だからか、しかしあるレベルまで理性的という点は他の実験体にも程度の差はあれ同じ傾向が観られる。
コーカソイドが母体のため白人らしい色素の薄い髪と肌、青い目、高い鼻。
エフィラの特徴
何かしら知能指数が高いことと実験体によっては奇々怪々な特殊能力や特異体質を保有している。
理性的だけどぽつりぽつりと子供っぽい部分が見られ、いったん振り切れると我侭で傲慢で傍から見れば残酷な部分等が現れだす。
何故か音楽に好意的な反応を示す個体が多いが研究者もそれには頭を捻る事しかできない。