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天声人語

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2010年11月26日(金)付

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 国会は言論の府のはずが、このところ口論の府になり下がっていないか。そんな趣旨の投書が東京で読む声欄に相次いでいる。たしかに実のある議論は少なく、ののしりの声ばかり大きい。憂える人は投書氏以外にも少なくあるまい▼テレビの国会中継は質問者のパフォーマンス会場みたいだと、投書氏らは嘆く。とりわけ野党の若手に目立つようだ。「ヒステリック症候群とでも称すべき態度」で「大げさな物言いや、汚い言動で罵倒(ばとう)」する。そうした場面が続くことに、「これでは一種の低俗番組」と厳しい▼わが印象も相似たりだ。こき下ろすのに力が入り、度を超す人を散見する。言葉は魔物だから、自ら言い募るほど自ら酔っぱらう。ゆえに言葉はますます尖(とが)って、盛大になるが、言っている当人の人望は下がるばかりだ▼一問一答の委員会だけでなく、昨今は若手の代表質問にもその手の言葉が紛れ込む。政権への失望は言うまでもなく大きい。一方で自民党に人心が戻らないのは、そのあたりに一因がありはしないか▼清水幾太郎の名著『論文の書き方』に次の一節がある。「無闇(むやみ)に烈(はげ)しい言葉を用いると、言葉が相手の心の内部へ入り込む前に爆発してしまう。言葉は相手の心の内部へ静かに入って、入ってから爆発を遂げた方がよいのである」。言葉は慎(つつ)ましいものにかぎると、この碩学(せきがく)は言う▼ネズミ花火ではなく、静かで確かな言葉を聞く耳を、人はちゃんと持っている。与野党とも見くびるなかれ。丁々発止と口げんかの違いぐらいは、先刻お見通しである。

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