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北朝鮮が砲撃した韓国領の島から遠くない黄海で、きょうから、米国と韓国の合同軍事演習が始まる。北朝鮮は「挑発を敢行するなら、2次、3次の強力な物理的報復を加えることになろ[記事全文]
ギリシャ危機の沈静化からわずか半年で、欧州共通通貨ユーロの動揺が再燃した。今回は金融と財政の不安が連鎖したアイルランドが震源だ。欧州の結束が試されている。欧州連合(EU[記事全文]
北朝鮮が砲撃した韓国領の島から遠くない黄海で、きょうから、米国と韓国の合同軍事演習が始まる。
北朝鮮は「挑発を敢行するなら、2次、3次の強力な物理的報復を加えることになろう」と反発している。
先日の砲撃では民間人も犠牲になった。朝鮮半島の緊張は高まっている。北朝鮮への一定の圧力は必要だが、再び軍事衝突を招かないよう冷静な運用と対応が求められる。
緊張の緩和と危機の管理へ、米国と中国が果たす役割が大きい。
中国は演習に反対しているが、今年3月の韓国哨戒艦撃沈を受けた米韓演習のときほどの強烈さはない。中国外相が北朝鮮の駐中大使に対し、砲撃戦への「深い憂慮」を伝えもした。
だが、これだけでは、中国に集まる国際社会の厳しいまなざしを満足させるものではあるまい。
今年は朝鮮戦争が開戦してから60年だ。北朝鮮は砲撃の後、朝鮮戦争で戦死した中国の故毛沢東主席の長男の生涯を描いた中国のテレビドラマを放映したり、墓前に閣僚らが献花したりして、中国の歓心を買うような行動を見せた。
とはいえ、北朝鮮の今度の暴挙に中国は強くいら立っているに違いない。演習名目とはいえ、ひざ元の黄海に米軍の原子力空母まで来させることになり、心穏やかではなかろう。
中国は今年、金正日総書記の訪問を2回も受け入れ、友好を演出した。経済やエネルギー、そして食糧の面で北朝鮮の生命線を握ってもいる。
そんな中国も、北朝鮮の核実験やウラン濃縮の開始を防げなかった。その影響力に限界はあるが、世界で急速に存在感を高める中国は、それに伴う責任も果たすべき大国である。より強い説得に当たってもらわねばならない。
米国も今回の事件による危機を抑え込むために、中国との高官協議の実現を探り、これまで以上に中国の影響力行使を求めている。近く、日米韓の外相会談も開きたい考えだ。
米国は中国とともに朝鮮戦争の当事者でもある。それだけに、東アジア地域の平和と安定の確保にとりわけ重い役割がある。米中の首脳同士をはじめ、あらゆるチャンネルを使って緊張緩和に努めてほしい。
そして、日本は「中国頼み」「米国任せ」にとどまってはならない。
日本は、国連安全保障理事会の非常任理事国だ。北朝鮮情勢は、東アジアで最大の安全保障問題であり続けている。安保理などの場で、北朝鮮に国際社会の一致したメッセージを出すよう積極的に動くべきだ。
韓国では、北朝鮮への強硬論と戦争の不安が交じりあい、社会が揺れている。日本は隣国に思いを致し、安定回復に向けて連携を強めたい。
ギリシャ危機の沈静化からわずか半年で、欧州共通通貨ユーロの動揺が再燃した。今回は金融と財政の不安が連鎖したアイルランドが震源だ。欧州の結束が試されている。
欧州連合(EU)と欧州中央銀行、国際通貨基金(IMF)の3者は5月につくった欧州金融安定化基金を初めて発動することを決定。7500億ユーロの融資枠のうち850億ユーロを投じる。
そのおかげでギリシャの時のような右往左往ぶりは避けられそうだ。金融市場の反応もにらんだ通貨安定策はスピードが勝負で、欧州当局の取り組みには過去の反省も生かされている。
だが、それで事態が収拾できるとはいえない。基金による支援は、アイルランドの資金繰りを救うに過ぎない。不動産バブルの崩壊に苦しむ銀行システムと赤字財政を再建するには、巨額の財源が必要だ。
アイルランド政府がまとめた財政再建策は、増税や社会保障のカットなどの痛みを甘受するよう国民に求めている半面、成長率を高めに見込むなど、説得力に欠ける面もある。
銀行システムの再生にかかる金額の判断も難しい。政府が丸抱えする銀行の債務は4800億ユーロで、国内総生産(GDP)の3倍にものぼっている。損失が膨らめば、今回の支援では足りなくなるかもしれない。
年明けには総選挙で民意を問うという。曲折はあろうが、政府の努力を欧州全体で支援し、監視し、ユーロの信認回復につなげるほかない。
同様の事態はポルトガルなど他の問題国でも起きかねないと懸念されている。その意味でアイルランドは文字通りの試金石であり、ファンロンパイ欧州大統領が、ユーロを核とするEUが「存続の危機に瀕(ひん)している」と言ったことに掛け値はない。
一連の過程で気になるのが、ユーロの屋台骨であるドイツの対応だ。不安再燃の伏線に、先月決まった欧州版IMFがある。今の安定化基金の後を継ぐ恒久的な制度だ。ドイツは、実際の支援の際には、対象国の国債を持つ民間投資家も責任を負うべきだと主張している。これが「発行済みの国債にも広がるのか」という疑念を呼んだ。
本来、ユーロ加盟国の国債の信用はEU当局や加盟国政府相互の監視による財政規律で保たれるべきだ。欧州版IMFもその補強手段に過ぎない。ドイツは為替リスクのないユーロ圏内の貿易や金融で潤い、問題国が招いたユーロ安で域外輸出を増やしている。ならば、強国が全体を安定化させるよう制度の発展を図るのが筋だろう。
民間投資家の負担問題は慎重にも慎重を期すべきである。拙速はユーロの土台をむしばむ。発展か崩壊か。その岐路に立つユーロの行く末を決めるドイツなど主要国の責任は重大だ。