2010年11月28日10時30分
1970年代に一世を風靡(ふうび)したアニメ「宇宙戦艦ヤマト」が山崎貴監督の手で実写化されると聞いた時には、なぜ今ヤマトなのかと思った。当時のファンの一人として、疑問を抱きつつ試写に出かけた。
惑星イスカンダルへ放射能除去装置を取りに行くという物語の骨格や、ヤマトと乗組員のデザインに大きな変更はない。ヒロイン森雪(黒木メイサ)や宿敵ガミラスの描き方は異なるが、それらは時代の要請による変更だろう。
私が映画の本質にかかわる変更だと感じたのは、主人公の古代進(木村拓哉)の設定である。アニメでは10代の新兵としてヤマトに参加した古代だが、今回は既に歴戦の勇士であり、両親を戦争で失ったことで地球防衛軍に嫌気が差して除隊した過去を持つ。さらには兄も戦死。彼がヤマトに参加したのは、兄を見殺しにした沖田艦長(山崎努)と向き合うためだった。
古代は沖田の血も涙もない戦法が許せず、自らの信念に正直に、命令を無視した行動を取る。ところが、そんな古代に沖田はヤマトの指揮を執らせる。そこで古代は初めて気づく。自分の信念を曲げた決断を下さねばならない局面があることを……。苦しむ古代は沖田に尋ねる。「あなたはどうしていつも淡々と危機を乗り越えられるのか」と。「そうじゃないよ、古代」と声を絞り出す沖田の姿には、涙を禁じ得なかった。
この日を境に、古代は優秀な艦長代理へと育っていく。
自分の信念だけで生きていけるのは若者の特権に過ぎない。大人になるというのはこういうことなのだ。これが、「ヤマト」の長大な物語の中から山崎監督が選び取ったテーマである。若者のままでいたい人間がはびこる現代日本への、何と痛烈なメッセージであることか。(石飛徳樹)
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「SPACE BATTLESHIP ヤマト」は12月1日から全国公開。