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吉崎栄泰

Yoshizaki Haruyasu

1955 -

日本発圧縮ソフトの定番LHAの作者

1999/11/08 掲載

異色の経歴

吉崎栄泰氏は北海道で内科のお医者さんをしている。その意味では異色の経歴というわけではない。 しかし、このコーナーでいままで色々な偉人を紹介してきたが、 コンピュータに関係ない本業を持っている人物はいなかった。吉崎氏はその点で著しく例外的存在なのだ。 しかし吉崎氏を紹介しないわけにはいかない。なにしろあの圧縮ソフトの定番LHAを作った 人なのである。LHAは圧縮解凍の処理速度、圧縮率などかなりよかったので 日本だけでなく世界中に広まった。

コンピュータ好きな医学生

吉崎栄泰氏は1955年日本国の北海道旭川市に生まれた。機械いじりが好きな少年だったらしい。 札幌医科大学で内科学を専攻した。大学時代にその頃出たばかりのインテルのチップを 手に入れるなど、コンピュータには相当早くから興味をもっていたようだ。 パソコン通信の時代になると吉崎氏もはまりこんだ。

パソコン通信から始まった

1986年NEC系のPC-VANがスタートし、翌87年には富士通系のニフティサーブがサービスを開始したことで、80年代後半は日本でもパソコン通信が一般に普及しだした時期だった。まだ1200ボーのモデムを使っていた時代だ。ちょっとしたデータを送受信するのも大変で、データ圧縮ソフトの潜在的需要はかなりのものだったと思う。発端は1988年、当時高校の先生をしていた奥村晴彦氏(現在 松坂大学教授 三重大学教授)が、LZSS方式(注1)をさらに算術符号化するLZARIという圧縮アルゴリズムをPC-VAN上に発表したことに始まる。

2004/08/12

奥村先生は三重大学教育学部教授となられています。読者の指摘により訂正しました。

圧縮ソフトの開発

吉崎氏はこの奥村氏の圧縮方式を見て、算術符号化の部分をハフマン符号化(注2) に置き換えることでもっと効率的なアルゴリズムになるのではと考えた。 その考えをもとにLZHUF方式を考案し、実際にその方式にもとづいたアーカイバ(注3) LHarcを作った。1988年末になってLHarcをニフティとアスキーネットにリリースした。 LHarcは大反響をよんだが、その後も改良が続けられた。吉崎氏と奥村氏とは連絡を取り合い、奥村氏が米国の圧縮に関する論文を手に入れて吉崎氏に渡し、それを参考にして吉崎氏が開発するという協力もあったらしく、 LHarcのアルゴリズムの改良が行われた。

世界に認められる

Dos版だった吉崎氏のLHarcはLHAとなり、その後多くのボランティアの協力を得てUnixやMac、 Windowsなどほとんどのプラットフォームに移植された。またマニュアルは英訳され海外のユーザーにも広く認知されるようになった。Windowsの世界ではZIP形式(注4)とLZH形式(LHAのファイル形式)が事実上の標準となった。特にLHAがフリーソフトとしてソースコードも公開されていた点は、他の圧縮ソフトとは違って歓迎された。1991年吉崎氏は米国のPCマガジン編集長賞を受賞した。続いて1992年ロータスの ミッチ・ケイパー を迎えて行われた第一回フリーソフトウエア大賞では、吉崎氏は大賞を受賞した。

日本の誇る草の根パワー

パソコン通信がスタートした当時はかなり使いづらい環境だったにもかかわらず、多くのひとが参加し、色々なフォーラムがにぎわっていた。吉崎氏のLHAはそうしたネットワークの中で、多くの無名だが力をもった人々に育てられたと言っていいだろう。このところ根腐れ状態の我が国だが、この健全で力のある草の根パワーがある限り、日本もすてたものではない と思えるのである。  吉崎氏は現在、北海道社会事業協会帯広病院 (間違っているかもしれない)で医師として活躍しているはずだ。

2007/11/26 黒澤病院の院長になられたそうです

読者からの連絡があり、吉崎先生は現在帯広市内の黒澤病院の院長になられて引き続いて活躍中とのことです。黒澤病院ホームページ

(注1) LZSS方式

 LZSS方式は辞書ベース圧縮というカテゴリに入るデータ圧縮手法で、LZ77手法(注5)から派生したものである。1982年に発表されたジェームス・ストーラー (James A. Storer)とトーマス・シマンスキー(Thomas G. Syzmanski)の論文に基づくもので、スライド辞書法と呼ばれる方式を採用している。

(注2) ハフマン符号化

デービッド・ハフマン(David A. Huffman)によって1952年に発表された「最小冗長符号の構成方法」という論文が基礎になっているデータ圧縮の手法で、現在ではほとんどすべての圧縮手法が何らかのかたちでハフマン符号化を取り入れている。

(注3)アーカイバー

アーカイブとは一般には記録保管所に保存されている公文書などを指すが、 圧縮の世界では圧縮されたいくつかのファイルをまとめて一つの圧縮ファイルに納めることを言い、 アーカイバーはその仕事をするソフトである。

(注4)ZIP形式

フィル・キャッツ(Fhil Katz)によって開発された圧縮形式で、アメリカのほとんどのダウンロード・サイトはZIP形式の圧縮ファイルを用意している。 ZIP形式圧縮はデフレーションというLZ77の変形アルゴリズムを使っており、このアルゴリズムは特許に接触しないことからGZIPやPNGなどのオープンソース系の圧縮形式にも用いられている。

(注5)LZ77方式

イスラエルのヤコブ・ジフ(Jacob Ziv)とアブラハム・レンペル(Abraham Lempel)によって 1977年に発表された圧縮法で、辞書ベース圧縮手法の起源となっている。 2人の頭文字をとってLZ77圧縮法として知られる。また2人は翌年78年にLZ77を改良した LZ78も発表している。この方式から派生したものとして、LZW方式、LZSS方式などがある。 特にLZW方式はインターネットのGIF画像圧縮のベースになっている。余談になるが、 LZW方式の特許は現在米国ユニシス社が保有しており、1993年からコンピュサーブ社 をはじめGIFを扱っているソフトベンダーほとんどに突然特許料を請求をしたため、 かなりの波紋をよんだ。

参考文献および関連書籍の紹介
データ圧縮に見るアルゴリズムの利用と著作権 奥村晴彦著 ソフトバンク 1999年4月  0円
月刊Cマガジン1999年4月号
「データ圧縮ハンドブック」 M.ネルソン/J.-L.ゲィリー著 萩原剛志/山口英訳 プレンティスホール 1996年10月  5600円
インターネットソースの紹介
電子ネットワーク協議会のオンラインソフト大賞のページ(別ウィンドウ)
http://www.nmda.or.jp/enc/fsp/index.html
奥村晴彦教授のホームページ(別ウィンドウ)
http://oku.edu.mie-u.ac.jp/~okumura/
移行前のコメント
2004/08/12
今年4月に奥村晴彦氏は松阪大から三重大にお移りになったようです。
筆者より: 情報ありがとうございます。さっそく訂正しまし
2003/12/11
いつも診てもらっている吉崎Drがこんなに有名な方だったなんて今日知りました。
すっごくすっごく優しい先生なんですよ(^^)今も協会病院で働いてらっしゃいます。
こんなにお世話になってるとは!驚きました!なんだか嬉しいです。
2003/08/05
あらためて吉崎さんの偉大さを垣間見ましたよ。PC雑誌にLAHで圧縮されたソフトが付録(FD)としてありました。初めは展開するのが難しかったことや当時液晶ラップノートを使用していたことを思い出しました。有用なページに感謝。北海道より
2003/04/29
吉崎さんのお名前は、パソコン通信を初めてしばらくして知りました。こんなすばらしいソフトを書けて、かつ、どんな代償も求めない、こんなプログラマと同時代に生きられたのは、とても有り難いことでした。今、私家版GISソフトを書いていますが、行き詰まったときなど、吉崎さんの爪の垢を煎じて飲ませてもらいたいと思っています。(鹿児島から)
2003/02/09
DOS版からLHAのお世話になっています。現在、LHA圧縮を利用している人の中で吉崎先生のことを知らない人も多いと思うので、もっと宣伝していきます。
2002/08/03
吉崎Drは本当にすごい方だったんですね!
吉崎先生は現在も社会福祉法人 北海道社会事業協会帯広病院にて副院長として活躍されています。今年の三月まで一緒に働いていた人が、そんなに有名人とはこのページを見て初めて知り驚いています。

 

 

コメントの投稿と一覧
2007-11-25
吉崎先生は、現在、北海道社会事業協会帯広病院を退職され、同じ帯広市内の黒澤病院院長として活躍されています。
筆者より:情報ありがとうございます。
こういった情報は先生のお近くにいないとわからないので、たぶん医療関係の方か、帯広在住の方が投稿していただいたものと思います。

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