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きょうの社説 2010年11月28日
◎「武士の家計簿」先行上映 チャンバラ抜きで知る侍の心
加賀藩の御算用者(ごさんようもの)(会計専門の武士)を描いた映画「武士の家計簿
」(北國新聞社、アスミック・エース、松竹製作)の石川県内先行上映が始まった。6映画館は初日から多くの来場者でにぎわい、金沢、石川の魅力を存分に引き出した内容に共感の輪が広がった。より多くの人に、ふるさとの凜(りん)とした侍(さむらい)の心に触れてもらいたい。映画を見てきたが、チャンバラ映画ではない時代劇の新風として注目を集めているとお りに、幕末という激動の時代を生き抜いた「そろばん侍」一家の家族愛が胸を打つ。侍としての面目が立つとか、刀は侍の魂とかの話は無縁。北國新聞政経懇話会で、森田芳光監督が「温かい人間の映画で、人っていいなと思ってもらいたい」と語ったように、家族のきずなや生き方が問われている今の時代こそ見てもらいたい映画である。主人公の猪山直之が誠実に自らの役割を果たし、家族が支え合って苦難を乗り切る生き方に対して、幅広い層が心を寄せることだろう。 映像にはロケ地の金沢城公園をはじめ、伝統工芸などの金沢の歴史に培われた魅力がふ んだんに盛り込まれている。加賀百万石の祭礼「盆正月」の華やかな様子なども描かれ、あらためて金沢の豊かな文化土壌と美しさに気付かされる。さらに先人の勤勉さや、倹約するなかでも惜しむことなく子どもの教育に力を注ぐ場面などから、明治以降に多くの人材を輩出した加賀藩の気風が伝わってくる。 映画化を機に、郷土の歴史に関心を深める動きが広がっているのもうれしい。御算用場 にスポットが当たり、猪山家ゆかりの地をめぐるウオーキングや侍の暮らしをテーマにした催しなどが各所で開催されている。映画の世界を再現した「武士の家計簿」展では、猪山家の家計簿や衣装、武家屋敷の門のセットなどが展示され、映画と合わせると、より印象が深まり、新たな興味もわくだろう。 12月4日からは全国公開が始まり、金沢の魅力を広く発信して誘客効果も期待される 。金沢発のこの映画を「お国自慢」の一つとして、まず地元からふるさとのよさを見つめ直してもらいたい。
◎介護保険改革 まず制度の再構築が必要
介護保険が10年を経て大きな岐路に直面している。利用者が大幅に増え、制度の至る
ところでひずみが生じているのは明らかである。2012年度の制度改正へ向け、厚生労働省の審議会がまとめた意見書は、高所得者に負担増を求めるなど保険料を抑制する財源対策が目立つ。新規施策としては、24時間地域巡回型の訪問サービスなどが盛り込まれた。重度化し ても住み慣れた地域で暮らせる仕組みづくりは今後の大きな課題である。認知症支援策も含め、重度者へのサービスを手厚くする一方、掃除や調理など軽度者向けサービスを縮小する案については賛否両論が併記された。すべてにわたってサービスを充実するのが理想だが、財源に限りがあるなかでは重点化の議論も避けられないだろう。 増え続ける保険料がもはや限界にきているとすれば、利用者負担も見直さざるを得ない 。この10年間の利用実態などを仔細に検証したうえで制度を再構築する必要がある。新たな制度の姿を描くなかで財源問題を議論していきたい。 介護保険は2000年の創設時に149万人だった介護サービス利用者が09年には3 84万人に拡大した。サービス給付の総費用も3・6兆円から7・9兆円と倍増し、25年には最大23兆円が必要になる。現行制度の枠内で帳尻合わせを繰り返しても、いずれ行き詰まることは目に見えている。 介護保険は利用者が1割を負担し、残りを保険料と国・自治体の公費で半分ずつ賄う制 度である。厚労省の試算では、65歳以上の月額保険料(全国平均)は現行の4160円から12年度には約5200円に上るという。 この点に関し、審議会の意見書は「保険料は月5千円が限界」との指摘を明記し、伸び を抑制する必要性を示した。5千円を上限と明確に位置づけるなら、それに基づいた制度設計が必要である。 介護は医療との連携も重要であり、軽度者サービスは自治体の社会福祉で対応すべきと の意見もある。より安定した制度にするためにも、医療、年金を含めた社会保障全体のなかで議論を深めたい。
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