きょうのコラム「時鐘」 2010年11月28日

 連載漫画「ヒラリ君」のおばあちゃんがこの前、「秋ふかし隣はなにをする人ぞ」と俳句を口にしていた。そんな風情を楽しむ時節である

が、風流に縁のない身には、なぜ秋が深まると隣が気になるのか分からない。古池にカエルが飛び込む句を学校で教わったが、それがどうした、とずっとクビをかしげている

風流の道は険しそうだが、意外な人がたしなんでいる。信州・小諸に「寅さん」渥美清さんの記念館があり、そこで渥美さんの句を知った。「餅(もち)を焼くしょうゆの匂(にお)い人恋し」「お遍路が一列に行く虹の中」。寅さんは詩人である

俳句を愛する政治家も以前は多かったという。「したたかといわれて久し栗(くり)をむく」は、中曽根康弘元首相の句。汚職事件に巻き込まれた藤波孝生元官房長官には、「控へ目に生(い)くる幸せ根深汁(ねぶかじる)」の句がある。入り組んだ心のヒダがのぞけそうで、政治家に俳句は案外似合う

いまもそんな人物がいるのだろうか。一票の格差は問題だが、選ばれた議員諸氏はむしろ格差が望ましい。昨今は、むいても同じようなクリが顔を出す。見誤っているのなら幸いである。