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天声人語

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2010年11月27日(土)付

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 狂言の演目に「悪太郎」というのがある。大酒飲みで乱暴な悪太郎は、伯父が自分の不行状を心配し、快く思っていないのが不満だ。あるとき押しかけて薙刀(なぎなた)を振り回し、大酒を飲んで泥酔のあげく、帰り道で寝込んでしまう▼心配で見に出た伯父は、何とか改心させたいと、寝ているうちに薙刀を取り上げ、頭を剃(そ)って僧形に変える。あれやこれやで、ついに心を入れ替える筋立てなのだが、何やらを彷彿(ほうふつ)させる。国際社会の「悪太郎」を改心させる責任感が「伯父」にあるのかどうか。お察しのとおり北朝鮮と中国である▼狂言とは違い、さんざん甘やかしてきた。3月に韓国の哨戒艦を攻撃し沈没させた件でも、国連安保理の非難決議を断念させた。こちらの悪太郎は懲りることなく、酒量は増し乱暴はエスカレートするばかりだ▼中国はあろうことか、ときにこの乱暴者を外交カードにするそぶりも見せる。今回の砲撃でも、内心は辟易(へきえき)かも知れないが表向きに非難はない。次なる蛮行を止めるためにも、ここは「薙刀」を終(しま)えと強く諭すべきところだ▼60年前の朝鮮戦争には米国がまず介入し、押し込まれた北朝鮮を助けるために中国が参戦した。中・朝の死者数は不明確だが、米軍などは計約150万人と見ている。膨大な数が、互いに「血で固められた同盟」と称し合うゆえんである▼スターリンの後押しで生まれ、毛沢東にへその緒を切ってもらって、北朝鮮はいま世界地図上にある。禁断のカードのペースを不気味に早める暴君を、これ以上甘やかすべきではない。

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