22日に開かれた総務省の「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」はNTT東西に「機能分離」を求める骨子案をまとめ、NTTの再々編は実質的に先送りされた。これに対してソフトバンクは新聞に全面広告を出すなど抵抗しているが、業界にも専門家にもこれに同調する意見は皆無である。その提案がナンセンスであることは「アゴラ」でも何度も論じたので繰り返さないが、悔やまれるのは、あれほどのエネルギーを本質的な政策論争に費やしていれば情報通信の改革は少しは前進しただろうということだ。
日本の情報通信業界の最大の問題は、NTTが固定インフラを独占していることではない。アクセス回線には「自然独占性」があり、支配的な事業者が出てくることは避けられない。これを「構造分離」する政策は、どこの国でもうまく行っていない。一つの企業の設備を分断して競争相手に使わせようという不自然な規制だからである。その発端となったアメリカでも、AT&Tの分割は元に戻され、アンバンドル政策も放棄された。

日米の通信ビジネスの最大の違いは、グーグルやアップルのようなイノベーターが出てきたかどうかである。この20年間で、日本ではソフトバンクがほとんど唯一のイノベーターで、他には見るべき新規参入がなかった。成長理論の教えるように、成長率を上げる最大の要因は生産性であり、生産性を上げる最大の要因は企業の新陳代謝だから、これが日本の停滞の原因である。

日本は、これから急速な高齢化の局面を迎える。労働人口が減少する中で成長率を維持するには、企業買収や起業を含む新しいプレイヤーの参入が必要だ。問題はインフラではなく、競争政策なのである。特に電波を新しいビジネスに開放する周波数政策や、オークションなどによって既存業者に片寄らない周波数の配分を行なう規制改革が重要である。ところがソフトバンクは、周波数オークションには反対している。

焦点となっていた700/900MHz帯については、さいわい国際周波数に合わせることで意見が集約されそうだ。このきっかけも孫社長のつぶやきだが、合理的な提案なら通るのだ。他方、ホワイトスペースについては、放送業界がワンセグでふさごうとしている。デッドラインは来年7月に迫っており、これを許すと日本の情報通信にとって致命的な損失になるだろう。

NTTグループについても、分離するなら光ファイバーではなく、持株会社の植民地支配にあえいでいるドコモの株式をすべて売却させるなど、無線と有線のプラットフォーム競争を促進する改革が必要である。ソフトバンクの案が葬られたのは当然だが、そのあおりで総務省の作業部会の議論が固定インフラに終始し、無線のイノベーションが生まれるための制度設計という視点が欠落したのは残念だ。