2010年10月1日 22時2分 更新:10月2日 0時56分
郵便不正事件に絡む証拠隠滅事件で逮捕された大阪地検特捜部の主任検事、前田恒彦容疑者(43)のデータ改ざんを隠ぺいしたとして、最高検は1日夜、上司だった前特捜部長、大坪弘道(57)と前副部長、佐賀元明(49)の両容疑者を、犯人隠避の疑いで逮捕した。事件は検察の信頼を根底から失墜させる事態に発展、トップである大林宏検事総長(63)の進退が問われるのは必至となった。
逮捕容疑によると、大坪前部長と佐賀前副部長は共謀し、前田検事が証拠品のフロッピーディスク(FD)内に記録された偽証明書のデータを故意に改ざんしたことを認識しながら、2月上旬に前田検事に過失だと説明するよう電話で指示したとしている。
さらに、2月10日ごろ、指示に基づき前田検事が作成した上申書案を、過失との説明が合理的になるように修正することを重ねて指示し、前田検事の犯罪行為を隠したとしている。
最高検は前田検事や同僚の供述から、2人が改ざんを故意と認識していたと判断。1日朝から取り調べ、午後9時45分ごろ大阪高検内で逮捕した。
前部長と前副部長は「過失と認識していた」と容疑を全面的に否認しているとみられる。法務省は逮捕を受け、2人を大阪高検総務部付に異動する人事を発令した。
最高検は9月21日、FD内に記録された偽証明書のデータの最終更新日時を「04年6月1日1時20分6秒」から「04年6月8日21時10分56秒」に改ざんしたとして、証拠隠滅容疑で前田検事を逮捕した。その後、今年1月末~2月に前部長らが改ざん疑惑の報告を受けながら、過失として処理していたことが判明。最高検は前部長らによる組織的隠ぺいの有無を集中的に捜査していた。
前部長と前副部長は小林敬検事正と玉井英章・前次席検事(現大阪高検次席検事)に「問題ない」と報告したとされるが、改ざんの可能性に触れたかどうかを巡る説明に食い違いがあり、最高検は検事18人態勢で全容解明を進める。
会見した最高検の伊藤鉄男次長検事は「誠に遺憾であり、国民の皆様に深くおわび申し上げます」と謝罪コメントを読み上げた。【三木幸治、鈴木一生】
【ことば】犯人隠避罪 罰金以上の刑が科される罪を犯した人や刑務所などから逃走した人をかくまったり逃がしたりして、捜査機関による発見や逮捕を妨げた際に適用される。罰則は2年以下の懲役か20万円以下の罰金。条文には、かくまう場所を提供する「蔵匿(ぞうとく)」と、身代わり出頭や逃走資金提供などの「隠避」が定められている。捜査関係者が身内の犯人隠避罪に問われた例では、神奈川県警警部補の覚せい剤使用を隠すため、尿検査からの検出を伏せたなどとして本部長ら当時の幹部5人が99年に在宅起訴され、1審の執行猶予つき有罪判決が確定した。
菅直人首相は1日、大阪地検特捜部の大坪弘道前部長の逮捕状が出たことについて「国民が信頼できる検察になってもらいたい」と述べ、信頼回復を目指すよう求めた。一方、検察首脳の責任については「今捜査が進んでいる。現時点で触れない方がいい」と述べるにとどめた。首相官邸で記者団の質問に答えた。【倉田陶子】