今日魔法学校を卒業した。「りっぱなまほうつかい(失笑)」になるための修行として日本の学校の教師を務めることになった。
意味がわからない。鬱だ。
お姉ちゃんと離れたくない、ずっといたい。お姉ちゃんもそう言ってくれている。けれどジジイがそれを許してくれない。
お姉ちゃんもとうとう折れてしまった。鬱だ。
アーニャがうるさい。超鬱だ。
ジジイもといお爺ちゃんの友人が運営している「麻帆良学園」という所に向かわされるらしい。
ぶっちゃっけどうでもいい。お姉ちゃんと離れる時点でどこもかしこも地獄だ。楽園から追放されてしまった。アダム鬱だ。
出発の日、駅のホームで惜別の儀式をする。お姉ちゃんの胸の中で人目もはばからずわんわんと泣く。
この温もりが明日から感じられなくなると思うと涙が止まらない。もう鬱なんて次元じゃない。
発車のベルに伴い抱擁を解く。ありえないくらい肩を落としてとぼとぼ車両の入口に足をかける。
振り向きざま最後のお別れの言葉を交わそうとすると、お姉ちゃんが近寄って頬に口付けをしてくれた。
み な ぎっ て き た
お返しにお姉ちゃんの頬にもキスをする。
最高にハイになりながら僕はお姉ちゃんとの別れを済ませた。
修行を早急に失敗させウェールズに戻ってくることを固く誓う。汽笛が大きく鳴るのを耳に、涙ぐんで笑っているお姉ちゃんに大きく手を振るった。
飛び込んできたアーニャが僕の口に接吻を炸裂させた。
腐れ鬱だ。死んでしまいたい。
うつネギ
航空機、バス、電車、あらゆるアクセスを駆使し麻帆良学園に到着。目立たないように学舎に続く大通りの隅をズリズリ歩く。
すぐ経たない内に怒涛の通学ラッシュが発生した。騒音なんてレベルじゃない。マンハッタンかここは。鬱だ。
昇降口に差しかかろうとした所で「タカミチ」に歓迎された。
ちっとも嬉しくない。お姉ちゃんを出せ。メガネ鬱だ。
「誰か迎えに来なかったかい?」と聞かれた。影も形もなかったと伝えた。苦笑された。ぶん殴ってやりたくなった。
校長室に通された。妖怪がいた。
鬱だ。
手続きを済ませて「しずな先生」に引率される。僕が受け持つのは2年A組らしい。すぐに送還される予定なのでどうでもいい。
渡された名簿にもろくに目を通さず入室。すかさず悪辣すぎるトラップの餌食になった。意味がわからない。糞痛い鬱だ。
人の不幸を爆笑する不良生徒どものあんまりな仕打ちに対し、お姉ちゃんの喪失により不安定になっていた情緒が爆発する。
堪え切れず四つん這いの態勢で涙をぽろぽろ流した。ぢくしょう、鬱、だ……!
嗚咽に耐える子供に動揺したのか、不良どもがやけに高い声を出しながら「大丈夫?」「どこか痛いの?」などと声を重ねて近寄ってきた。
言うに事を欠いて当事者のお前等がそれを言うのか。
肩に置かれた手を思い切っり弾き飛ばす。「触れるなァ!!」と親の仇を睨むようにして叫んだ。呆気にとられる不良ども。溜飲が若干下がる。
しかし泣き黒子をした「ポストしずな先生」にハンカチを差し出された。
申し訳なそうにしながらも慈愛に満ちたその眼差しを見て、自分の頬をいまだ伝うみっともない滴の存在にハッと気付く。
顔をばっと覆い、
「な、泣いてなんかないんだからっ!」
と絶叫し、バーカ!と捨て台詞を残して教室を飛び出した。
にわかに背後の教室が騒がしくなるが、知ったことか。呪われろ!
腕でぐしぐしと顔を拭いながら廊下を疾走する。日本なんて鬱だ!
噴水のある広場の端で、膝を抱えながらうずくまる。頭の上でカァカァ鳴く鴉が夕日の向こうに消えていく。
どうやら2-Aの生徒達は僕を探しているらしい。追手が何度も視界の中に入ってきた。結界を張ってあるから気付かれない。いい気味だ。
お姉ちゃんに会いたい。会っていっぱい甘えたい。
いくら気取っていても満9歳の子供なんて蓋を開けてみればこんなものだ。
いまだ親離れもとい姉離れなんてできていない。一生するつもりもない。偏屈だ。
お姉ちゃんLOVE、お姉ちゃんLOVE、お姉ちゃんLOVE。
世界中の女の人がみんなお姉ちゃんになってしまえばいい。そうすればみんなお姉ちゃんで僕もみんなもお姉ちゃん萌えだ。世界は平和になる。
兵器も魔法もタカミチもいらなくなる。夢の国の実現だ。ユートピアはここにあった。
顔を膝に埋めて来る筈もない夢の国の到来を待った。あぁ鬱だ。
「あーっ! こんな所にいたーっ!!」
夢の国の代わりに追手がきた。鬱だ。
煩わしい、と顔を上げると──お姉ちゃんがいた。
「……ぇ?」と自分の目を疑う。お姉ちゃんと同じ顔をしたお姉ちゃんが目の前にいる。ツインテールだ。胸が幸せになる。
僕のキングダムお姉ちゃんの扉が開く。「心を解き放て」と邪念が囁き、僕のジャスティスがストレートお姉ちゃんからツインテールお姉ちゃんに塗り潰されていく。
結界が突破されている事実にも気付かず、僕はふらふらと夢遊病患者のようにツインお姉ちゃんに手を伸ばした。
「ったく、面倒かけさせんじゃないわよ、このガキンチョ! これだからガキは嫌いなのよ!」
──バキリ、と僕の視界に亀裂が走った。
……今、「コイツ」は、何て言った……?
「こんなガキが高畑先生の代わりなんて、あーもうっ、悪夢よ悪夢! アンタ、高畑先生を返しなさいよっ!」
要領を得ない罵詈雑言に僕のお姉ちゃんがボロボロに崩れていく。
ツインお姉ちゃんが壊れた幻想と化し、ツインはただのツインとなった。
僕の瞳が狭窄する。
「ちょ、ちょっと……? ねぇ、あんた、そんな顔をしてどうしt──」
みなまで言わせず、僕は自分の右拳をツインの頬に叩き込んでいた。
「──へぶりゅ!?!?」
「ぅ、ぁあああああああああああああああああああっっ!!!!」
獣の吠声が喉から迸り、僕の拳は自動操縦(オート)でツインの顔面を一斉射撃する。
その顔でっ! その声でっ! その香りでっ!
よくも僕のことをガガガガガガガキッがきがきがきガキンチョちょちょちょあああああああ悪夢なんてぐぁああああああああああああっっ!!
許さないっ! 許さないっ! 許さないっ!
姉さんの顔で僕に罵詈雑言を吐いたお前は、絶対に許さない!!
討つ、だッッ!!
「消えてしまえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「ごっ……このッ、クソガキィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!!」
その顔を、変形させるまで、殴るのを止めないっ!!
その後、「ア、アスナー!?」と訛った叫び声が鳴り響くまで、僕とツインのラッシュは続いた。
マウントを取られながらも必死に抵抗する僕の目には、鬼の形相をした血だらけのお姉ちゃんの顔がずっと映り込んでいた。
オメガ鬱だ。
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ダラダラ書きと突発的執筆。一発ネタ。
需要があったら続きを書きたい思う。