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小惑星探査機:はやぶさ採取、イトカワ微粒子と確認 1500個、小惑星から世界初

 小惑星イトカワに着地し、今年6月、地球に帰還した小惑星探査機「はやぶさ」のカプセル内の微粒子の大半が、イトカワ表面のものであることが分かった。高木義明文部科学相が16日の閣議後会見で公表した。小惑星の物質を直接持ち帰ったのは世界で初。今後、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が詳しく分析するが、46億年前に誕生したとされる太陽系の歴史を知る大きな手掛かりとなる。

 はやぶさは、月より遠い天体を往復した世界初の探査機。今回、回収した試料がイトカワのものと確認されたことで、はやぶさの使命は完全に達成された。

 同日会見したJAXAの分析チームによると、カプセル内にある円筒状の試料容器から、フッ素樹脂製ヘラで微粒子約1500個を回収。多くが直径0・01ミリ以下と極めて小さいため、電子線で成分を分析する走査型電子顕微鏡で観察した。

 その結果、微粒子の多くが、地球上では玄武岩などに多く含まれる「かんらん石」で、一部が火成岩などに含まれる「輝石(きせき)」と判明した。いずれも、マグネシウムと鉄の含有比率が地球上とは大きく異なり、鉄の比率が5倍以上多いことが分かった。

 こうした特徴は、はやぶさがイトカワに接近して実施した観測で推定された物質と一致。また小惑星のかけらが地球に落下したとみられる「LLコンドライト」という種類の隕石(いんせき)とも同じだった。これらのことから、チームは「ほぼすべての微粒子が地球外物質で、イトカワ由来」と結論づけた。

 JAXAは当初、詳細な「初期分析」を年明け以降に実施し、イトカワ由来かどうかを確定させる計画だったが、特徴が確認されたため判断を前倒しした。10日に開いた第三者検討会でも異論はなかったという。

 高木文科相は会見で「この素晴らしい成果を喜びたい。世界からも注目されており、我が国の科学技術の高さを改めて国民と分かち合い、必要な支援を最大限したい」と話した。【山田大輔、八田浩輔】

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 ■解説

 ◇生命探査にも期待

 7年間に及ぶ探査機「はやぶさ」の旅は、通信途絶やエンジン故障など数々のトラブルの連続だった。そのたびに研究者や技術者が知恵を絞って打開策を編み出した。今回の成果は、月より遠い天体を往復する技術に加え、さらなる人類初の快挙となった。

 はやぶさの分析チームは今年6月、特設の密閉実験室でカプセルを慎重に開封したが、中の試料容器には光学顕微鏡で見えるものがほとんどなく、見える粒子の大半は容器から出たアルミ片と判明。関係者には一時「何も入っていなかったか」と失望が広がった。

 チームは特注のヘラで容器の内壁をこすり、ヘラごと電子顕微鏡で観察する新手法を開発。極めて小さい微粒子が多数あることを確認できた。

 今回入手した試料は、地球環境の影響を受けておらず、米アポロ計画の「月の石」に匹敵する貴重なものだ。詳しい分析によって、太陽系の歴史を塗り替える科学上の発見が期待される。微粒子の一部は国内外の研究者に公募で提供される予定で、日本の成果が世界の科学研究に貢献するかたちとなる。

 文部科学省とJAXAは後継機「はやぶさ2」を計画中だ。生命の存在を示す有機物があると予想される小惑星に向け、14年度の打ち上げを目指す。今回実証された技術をどう「次」に生かすか。政治の判断が試される。【山田大輔】

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 ■ことば

 ◇小惑星イトカワ

 地球と火星の間の軌道を周る、最も長いところが約540メートルの小さな天体。米国のチームが1998年に発見した。はやぶさの打ち上げ後、日本初のロケットを開発した故・糸川英夫博士にちなんで名付けられた。もともとイトカワより大きな天体が何らかの理由で壊れた後、破片が集まってイトカワができたと考えられている。重力は地球の10万分の1程度。

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 ■ことば

 ◇はやぶさ

 地球以外の天体から岩石などを回収する技術を実証するため計画された。本体は軽自動車の半分程度の大きさ。新型電気推進エンジン(イオンエンジン)による航行、画像などを使った自律航行と小惑星への接近・着陸、ほとんど重力がない環境での試料採取、カプセルを大気圏に突入させての回収など、人類初の技術をいくつも実証した。多くのトラブルを克服し「不死鳥」と呼ばれた。

毎日新聞 2010年11月16日 東京夕刊

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