きょうの社説 2010年11月27日

◎剰余金法案提出 与野党一致して活用実現を
 鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)の約1兆4500万円の利益剰余 金を整備新幹線の延伸などに活用できるようにするために、参院に提出された法案は継続審議となる見込みだが、来年度予算編成に向け、剰余金の使途をめぐる政府内の論議は、これからいよいよ大詰めを迎える。法案提出を機に、新幹線の建設促進を目指す沿線国会議員が党派の垣根を超えて、法案に盛り込まれた内容を実現すべく汗をかくことをあらためて求めておきたい。

 石井隆一富山県知事は、26日に開会した県議会11月定例会の提出議案説明の中で「 与野党が一致して法案の成立を図られるよう期待している」と強調した。これは富山県だけではなく、すべての沿線自治体の共通認識と言ってよいだろう。実際、整備新幹線関係18都道府県期成同盟会が過日、関係省庁などに提出した提言にも、法案と同様の項目がしっかりと記載されている。

 法案を提出したのは自民党であるが、民主党でも、その趣旨自体に否定的な見解を持つ 沿線議員は少ないはずだ。「自民党の手柄になるのは面白くない」などといったつまらない理由で足を引っ張るようなことはせず、民主党内で剰余金を新幹線予算として確保することに対する理解を広げ、難色を示している財務省などを動かしていく努力を重ねてもらいたい。でなければ、沿線自治体にそっぽを向かれるだろう。

 自民党の沿線議員も、法案を提出して仕事がすべて終わったわけではない。これからは 他党にも新幹線の延伸や並行在来線の経営支援の必要性、それらの財源として剰余金を活用することの正当性などを粘り強く説明し、賛同を得ていく取り組みが求められる。

 言うまでもなく、剰余金は一種の「埋蔵金」であり、財務省などの主張が通って別の目 的に使われてしまえばそれまでだ。チャンスは1度きりしかなく、これを逃せば、また延々と困難な延伸財源論議などを続けなければならなくなる。沿線自治体も、与野党の沿線議員と連携して最後の一押しをしてほしい。

◎問責決議案可決 政権末期の印象さらに
 仙谷由人官房長官の問責決議案が可決された。菅政権にとっては大きな打撃であり、補 正予算成立でようやく手にした得点を、フイにしたような気分ではないか。菅直人首相は内閣の要といえる仙谷長官らを更迭する考えはなく、週明けからの国会空転は避けられそうもない。状況によっては、来年1月召集の通常国会冒頭から野党が審議拒否し、混乱する展開も想定されよう。

 中国漁船衝突時のビデオ映像の公開と小沢一郎民主党元代表の国会招致を巡る問題は、 今後も菅政権を揺さぶり続けるだろう。これ以外にも自衛隊関連行事での政治的発言を事実上制限する事務次官通達や、北朝鮮による韓国砲撃での初動の遅れなど、野党の追及材料は事欠かない。問責決議の「ドミノ倒し」が起きないとも限らず、政権末期の印象がさらに濃くなってきた。

 共同通信社による全国緊急電話世論調査では、内閣支持率が23・6%まで下がり、政 権維持の危険水域とされる30%を割り込んだ。菅首相のリーダーシップ、民主党の統治能力に疑問符が投げ掛けられている。支持率低下に歯止めが掛からないようなら、民主党内で菅首相に対する不満が噴き出す可能性もあり、局面打開のために、小規模な内閣改造を模索する動きも出てきそうだ。

 野党側は、円高・デフレ対策を柱とする2010年度補正予算の成立を取引材料にする 愚を犯すことなく、問責決議案の可決にこぎつけた。菅政権の脇の甘さに突け込んで防戦一方に追い込み、得点を稼いできた。

 ただ、これから先の展望が描けているとは言い難く、一気に解散・総選挙に追い込む迫 力もない。春の統一地方選に向けて選挙を避けたい政党もあり、「共闘」がいつまで続くか分からない。審議拒否を続ければ、世論の批判にさらされることも覚悟しなけばならなくなる。思惑の違いを乗り越えて菅政権を追い込むのは口で言うほど簡単ではあるまい。

 残念ながら、与野党が論議を尽くす「熟議の国会」とは程遠い状況が続くのだろう。