ソニー・コンピュータエンタテインメントが06年に発売した「プレイステーション3(PS3)」。当初は20GBモデルの希望小売価格を6万2790円と発表したが発売前に4万9980円に引き下げた
一方、開発コストは2倍以上になったが、市場は2倍になっていない。現行世代のゲーム機は1世代前の数倍のハード性能を持つが、PS3の価格は06年の発売当初4万9980円(20GBモデル)と高額で、ユーザーにコストを転嫁せざるを得なかった。パッケージソフトの価格も7000~8000円と高止まりしている。ゲーム産業は本来、技術革新で生産性を短期間で向上させて利益を生み出してきたが、現行世代ではその速度が鈍化して市場がニッチ化し、ボーモルのコスト病に陥りやすくなったのだ。
コスト病から逃れる方法はあるか
このコスト病から逃れるには、大きく2つの方法がある。
第一に、市場を拡大することである。主にディスクを配布メディアに使う家庭用ゲーム機は、再生産が容易で乗数効果が高い。これはDVDなどのメディアでコンテンツを二次利用する映画産業も同じで、日本の大手ゲーム会社が欧米市場の本格進出を目指ざす理由もここにある。
2つめは開発コスト、特に人件費を引き下げる方法である。ゲームの開発プロセスをモジュール化して人件費の安い地域に分散する流れは不可避で、多くのゲーム会社がグラフィックス制作などを中国をはじめとするアジア地域にアウトソーシングしようとしている。現場でまじめに働いてきた開発者にとっては理不尽だろうが、社外に開発を委託する外注比率も高まる傾向にある。
さらに、第三の道もある。技術革新により生産性を別のかたちで向上させる方法だ。ソーシャルゲーム市場を牽引するディー・エヌ・エー(DeNA)やグリーといった企業が強い理由はここにある。
2~3人の開発チームで開発したゲームを数百万人に配信する。これが数億円の売り上げを生む意味を考えてほしい。開発コストが低いから、小さな収益でも十分に成り立つ。コスト病の外側に立つ新しいビジネスモデルと戦略を生み出したからこそ、ゲーム市場に大きな変化を引き起こしているともいえる。
アマチュアがプロを駆逐?
ボーモルはおもしろい将来像を指摘している。「少なくともあるタイプのプロの公演にとっては、もしかすると大変居心地の悪いこの未来世界は、アマチュア活動にとっては繁栄できる雰囲気を提供するのかもしれない」
アマチュアは、社会の生産性向上によって生まれた余暇時間で技術を磨き、しかも財政的な圧力がないために楽に活動できる。ボーモルは、「アマチュアの活動は鍛えられた実演家をこの分野から駆逐するであろう」(前掲書)と予言した。
これをゲームに当てはめるなら、アップルの「iPhone」といったスマートフォン向けの安価なゲームアプリが、世界中のアマチュアにより大量に開発され、既存のゲーム会社を圧迫しようとしている姿と重なる。歴史は繰り返されている。
既存のゲーム会社が家庭用ゲーム機向けゲームで生き残るには、生産性を跳ね上げるような技術革新が必要になる。PS3向けゲームを数億円のコストで開発し、高い評価を得られるような開発手法が求められている。しかし、それが短期的には難しいからこそ、各社の試行錯誤が続いているのである。
新清士(しん・きよし)
1970年生まれ。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲーム会社で営業、企画職を経験後、ゲーム産業を中心としたジャーナリストに。国際ゲーム開発者協会日本(igda日本)代表、立命館大学映像学部非常勤講師、日本デジタルゲーム学会(digrajapan)理事なども務める。
Xbox360、ボーモル、ソーシャルゲーム、iPhone、プレイステーション2、プレイステーション3
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