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【社説】

少年に初の死刑 究極の判断だったが

2010年11月26日

 少年に裁判員裁判で初となる死刑判決が出た。宮城の三人殺傷事件は、立ち直る可能性より、犯行の残虐さ、重大さを厳しくとらえた結果となった。少年事件に短期の審理で臨む難しさも浮かんだ。

 成人が被告の刑事裁判は、人格が完成しているという前提がある。発達途上にある少年の場合は、未成熟であることを踏まえたうえ、責任判断をせねばならない。少年事件の難しさの所以(ゆえん)だ。

 ましてや死刑か否かの究極の選択を迫られた場合、プロの裁判官でも悩み、下級審と上級審で判断が異なることがしばしばある。少年法では「十八歳に満たない者に対しては、死刑をもって処断すべきときは、無期刑を科する」との定めもある。元少年への死刑判決が確定したのは、四人を射殺した永山事件以降、千葉県の一家四人殺害事件だけだ。

 宮城県石巻市で女性二人を刺殺し、男性に重傷を負わせた少年は、犯行時十八歳七カ月だった。無期懲役もあり得る“境界線上”だったといえる。

 だが、仙台地裁は「更生可能性は著しく低い」として、極刑を言い渡した。「犯罪性向は根深い。他人の痛みや苦しみに対する共感が全く欠けている」とも述べた。残酷な方法で若い二人の命を奪った結果を重くとらえた判断といえる。悩みに悩み抜いた、市民の結論と受け止めねばならない。

 浮かび上がった課題もある。五日間の公判で、少年の成育歴について、三十分程度の読み上げに終わったことだ。どのような家庭環境で育ったかなどを理解するために、家庭裁判所が作成する調査票で、成育歴が心理学的、社会学的な視点で記載されている。社会記録と呼ばれる。今回の裁判では、その一部分が、法廷で取り調べられたにすぎない。

 これは短期審理で、わかりやすさを求める裁判員制度導入時から指摘されていた問題でもある。

 高度なプライバシー情報を含んでいるだけに、確かに法廷での取り扱いは難しい。だが、未成熟な少年ゆえ、成育歴などの情報提供が丁寧になされないと、少年を扱う裁判の根幹が揺らぐ危惧(きぐ)を抱く。

 裁判員らにモニターで詳しい活字情報を読んでもらったり、法廷を非公開にして、家裁の調査官に証言してもらうなどの方法も考えられよう。悔いを残さぬため、少年の背負った事情を深く掘り下げるよう、裁判の工夫も要するのではないか。

 

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