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裁判員初、少年に死刑 石巻3人殺傷・仙台地裁判決

裁判員裁判で少年被告に初の死刑判決を言い渡した仙台地裁の法廷(イラスト・岩井正幸)

 石巻市の民家で2月に起きた3人殺傷事件で、殺人、殺人未遂、未成年者略取などの罪に問われた石巻市の元解体工少年(19)の裁判員裁判で、仙台地裁は25日、「罪責は重大で、少年であることが極刑を回避すべき決定的な事情とは言えない」として、求刑通り死刑の判決を言い渡した。裁判員裁判の死刑判決は2例目で、少年の被告に対しては初めて。

 少年に対する死刑判決は、1999年4月に起きた山口県光市の母子殺害事件の差し戻し控訴審(2008年、上告中)以来となる。
 判決後に接見した弁護側によると、少年は「判決を受け入れたい」と話した。弁護側は控訴を勧める方針。
 起訴内容に大きな争いはなく、少年の更生可能性の評価と、少年への死刑適用の可否が焦点となっていた。
 鈴木信行裁判長は少年を証言台に座らせ、主文を後回しにして、判決理由から読み上げた。
 判決は事件の重大性から「保護処分を相当と認める余地はない。死刑か無期懲役かが問われる」として、最高裁が1983年に示した「永山基準」に沿い、どちらを選択するか検討した。
 犯行の態様は「無抵抗な被害者をためらわずに殺傷し、執拗(しつよう)かつ冷酷で、残忍さが際立つ」と指摘。事件の結果も「2人の命を奪い、1人の生命を危険にさらした。被害者に落ち度はなく、重大かつ深刻」と述べた。
 犯行当時18歳7カ月だった年齢は「死刑回避の決定的な事情とは言えない」とした上で、更生の可能性については傷害事件で保護観察中で、共犯者を身代わりにしようとしたことなどを重視。「事件の重大性を認識していない。反省に深みはなく、更生可能性は著しく低い」と判断した。
 弁護側は「不遇な生い立ちから暴力に肯定的な価値観を持つようになった」と主張したが、「残虐な結果の重大性からすれば、量刑上、考慮することは相当でない」として退けた。
 判決によると、元解体工少年は2月10日朝、共犯とされる無職少年(18)=東松島市、殺人・殺人未遂のほう助罪で起訴=と民家に押し入り、交際していた次女(18)の左脚を切りつけた上、長女の南部美沙さん=当時(20)=と、次女の友人で石巻市の高校3年大森実可子さん=当時(18)=を刺殺。同市の会社員男性(21)にも大けがをさせ、次女を連れ去った。
 2月4〜5日には東松島市の祖母宅で、次女を模造刀などで数十回殴り、額にたばこの火を押し付け、全身打撲ややけどをさせた。
 裁判員は30代会社員男性ら男女各3人の6人が務めた。


[永山基準(死刑適用基準)]連続4人射殺事件の永山則夫元死刑囚(事件当時19歳、1997年8月執行)の第1次上告審判決(83年7月)で、最高裁が無期懲役の二審判決を破棄した際に示した。(1)犯罪の性質(2)犯行動機(3)犯行態様、特に殺害方法の執拗(しつよう)さ、残虐さ(4)結果の重大さ、特に殺害された被害者数(5)遺族の被害感情(6)社会的影響(7)犯行時の年齢(8)前科(9)犯行後の情状―をそれぞれ考察し、その刑事責任が極めて重大で、罪と刑罰の均衡や犯罪予防の観点からもやむを得ない場合に死刑選択が許されるとした。

◎少年法より被害重視

 【解説】2人が死亡し1人が大けがをした石巻3人殺傷事件で、裁判員らは元解体工少年に死刑を選択した。凶悪事件を起こした少年が、少年法で守られることに対する国民の疑問の一端が表れたと言える。判決は今後の裁判員裁判で新たな死刑判断の基準になる可能性がある半面、少年事件を裁判員が裁くことの難しさに配慮を求める声も強まりそうだ。
 判決後、記者会見した30代の男性裁判員は「少年だからといって罪が軽くなる法律がおかしい。重大事件なら大人と同じ刑が科されるべきだ」と話した。少年の健全育成を目的にする法の理念以上に被害結果を重視する考えを示した。
 少年の供述と被害者らの証言が食い違う点について、判決は弁護側の主張をことごとく退けた上で「反省の言葉は表面的」との評価を導いた。少年の未熟さ故の言動だったかどうかの言及はなかった。
 少年の更生可能性を探るために家裁が調査、作成した「少年調査票」(社会記録)の調べは、結論部分を読み上げたにすぎない。裁判員制度以前は、裁判官が膨大な社会記録の全資料に目を通したとされ、証拠調べで大きな差が出た。
 別の裁判員は「更生の可能性を判断するための証拠は十分だった」と話し、法律家や矯正機関の関係者が懸念していた情報不足を否定した。
 最高裁司法研修所が2005年に行ったアンケートでは、少年による殺人事件の量刑について、市民と職業裁判官の意識の差が明確に表れた。職業裁判官の9割が軽くすると答えたのに対し、市民の4人に1人は重くすると回答している。今回の判決にも、こうした市民感覚が反映されたとみることができる。
 判決は、最高裁が示した死刑適用の9項目の基準(永山基準)や山口県光市の母子殺害事件の最高裁判決に依拠している。
 少年への死刑判断は、職業裁判官でさえ難しいとされる。裁判は結審まで5日間、評議に3日間という限られた日程で判決に至った。裁判員らが少年法の理念を理解し、更生可能性をあらゆる角度から十分に検討した上で、判決を導き出したかどうかは疑問が残る。
 少年法の理念が置き去りにされることはなかったか。今回の裁判は裁判員制度の見直しに向け、十分に検証される必要がある。(報道部・勅使河原奨治)


2010年11月26日金曜日


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