【延坪島(ヨンピョンド)(韓国西方)西脇真一、松井豊】突然火を噴いた対岸は、不気味な静けさをたたえていた--。26日朝、北朝鮮軍の砲撃を受けた延坪島。島で最も高い場所にある展望台に立つと、十数キロ先に北朝鮮領が見える。現場海域での米韓合同軍事演習が28日に迫る中、これに猛反発する北朝鮮の再度の軍事攻撃に備え、復旧作業に従事する人々や韓国軍兵が残る島は極度の緊張に包まれていた。
島南東部の市街地から車で約15分、小高い山の山頂にある展望台に着いた。3日前は南北の砲撃音が飛び交ったが、今聞こえるのは潮騒だけ。十数キロ離れた北朝鮮黄海南道(ファンヘナムド)が遠望できた。
北朝鮮は、黄海沿岸の基地や島に大砲など1000門を配備しているとされる。案内してくれた地元男性によると、北朝鮮の砲撃は、山を越えた島南側の韓国軍陣地を狙って始まった。男性は「(北朝鮮軍は基地などの)位置を正確に把握しているようだ」と話し、韓国側の防衛態勢に不安を隠さない。
米原子力空母ジョージ・ワシントンが参加する28日から始まる米韓合同軍事演習に、北朝鮮側は「2次、3次」の砲撃を警告した。これを受け、韓国軍は島周辺を含む地域に兵力を増強。再度の砲撃に備え、島のあちこちで海兵隊員らが道路を封鎖している。
民間人2人の遺体が見つかった軍官舎の建設現場に行こうとすると、兵士が「ここから先は民間人統制区域だ」と制止した。理由を問うと「チンドケ ハナ」(珍島犬1号)と言った。珍島犬は韓国の天然記念物だが、北朝鮮の局地挑発に対し韓国軍が最高警備態勢に入ったことを意味する軍内用語だ。
島の住民約1300人はほぼ、本土の仁川などへ退避した。しかし、島にとどまり続ける人がいる。砲撃による島の被害を調べ記録する役場の職員や電線や通信回線などの復旧工事のため、事件後に島に渡ってきた人たちだ。
島の役場によると、常時島で暮らす住民のうち、今も島に残る人は、住民47人を含む計106人。
役場の職員21人は、砲撃のあった23日から25日まで徹夜態勢で詰めた。26日からは2交代制に変え、被害家屋の調査や島に残る人のための食料など救護物資の確保を続けている。
その一人、張飛虎(チャン・ビホ)さん(38)は、「ただ与えられた仕事をするだけ。でも砲撃が繰り返されるかもしれないので不安もある」と本音を漏らした。延坪派出所の警察官12人も、蛍光色のベストを羽織って2列縦隊を組み、夜通しで住宅が集まる狭い路地の見回りを続けている。
また、携帯電話やインターネットなど通信回線の復旧作業で、24日から延坪島の民宿に寝泊まりする韓国通信大手「KT」の補修員、朴ミンホさん(43)は「怖くないですか?」との質問に、「全然。だって『来て』と言われればどこにでも行くのが私たちの仕事。その義務感が先で不安感なんてないよ」。
派出所や役場、農協、郵便局など優先的に始めた官公庁の作業はほぼ完了。インターネットに個人加入している民家は住人がいなくなったため手がつけられず後回しにした。
26日朝、島を離れた朴さんは25日夜、少し赤みを帯びた顔で取材に応じた。仲間10人で雑魚寝する8畳ほどの部屋には、空になった緑の焼酎瓶数本がころがり、緊張を酒でほぐしていた彼らの心労を感じさせた。
毎日新聞 2010年11月26日 12時30分(最終更新 11月26日 12時35分)