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榎木英介著: 博士漂流時代 「余った博士」はどうなるか?
 献本御礼
博士漂流時代 「余った博士」はどうなるか? (DISCOVERサイエンス)

 実は私は榎木さんが東大理学部の大学院生の(あるいは学生だった?)頃から存じ上げており、当時まだそれほど一般的でもなかったウェブを使って、アフリカツメガエルを使った発生学研究を発信し続けていたことを今でも鮮明に覚えています。

 ウェブサイトの名前は「たまごの部屋」だったような気がしますが、調べてみると今でもここに保存されているようですね。本業の「アフリカツメガエルを学ぼう!」以外にも、後輩達のために「大学・大学院入試情報」や、今でいうところのキャリアパスのひとつとして「国家1種公務員の生物受験情報」など、一貫してどうやって大学院を生き延び、その後につなげていくかということを、自分だけではなく仲間達と一緒に考えようとしていた印象が強い方でした。

 そうした行動の底を流れていたのが単なる科学至上主義ではない「正義感」であることは、現在の榎木さんを見ていてもわかりますが、この「過去の書庫」にもある、研究問題メーリングリスト(research ML)や研究問題ブログなどでの活動が、NPO法人サイエンス・コミュニケーションの設立、そしてその理事としての活動へとつながっていったことをご存じの方も多いのではないでしょうか。今は理事も勇退されて、今年は新しい組織サイエンス・サポート・アソシエーションを立ち上げるなど、一貫してNGO活動で走り続けておられる方というのが私の印象です。

 そうした活動と並行しての彼の研究生活は、順風満帆だったとは言い難かったのかもしれません。アフリカツメガエルの発生研究で博士号を取るには至らず、博士(後期)過程を中退することになったあたりの詳しい事情はよく知りませんが、紆余曲折を経て神戸大学の医学部に学士入学したことを知った時にはちょっとびっくりしたものです。

 そして、病理医として十二分に忙しい生活をしているにもかかわらず、学生時代から続けてきた若い科学者達をサポートする活動を今でも率先して人一倍精力的に続けておられるそのエネルギーの源泉は、自分がやりたくでもできなかった「理学の基礎研究」を続けている若い学者および学者の卵達が、彼らの望みどおりに科学者になって欲しいという「怨念」のようなものなのではないかと感じることもあります。

 彼の心の奥にあるものはさておき、彼が今の日本で若い科学者達のサポーターの第一人者であることを認める人が多いと思いますし、私もそう思っています。その彼が満を持して日本のポスドク問題について書いたのがこの本です。

 博士漂流時代 「余った博士」はどうなるか? (DISCOVERサイエンス)

 決して明るく楽しい本ではありませんが、少なくともこれから大学院に入って科学者を目指そうという学生ならば知っておかなければならない、日本の大学院の歴史と現状が第1章と第2章にしっかりと記録されております。校正の時に削ったという120ページがもしもこの第1章、第2章に関わるものだとしたら、どこかで公開していただきたいくらい貴重なデータが満載です。もちろん、私はよく知っていることばかりですが、こうしたことすらよく知らない大学の先生や、政治家の方々が日本の科学者教育やその政策決定に大きな力を持っていることの恐ろしさは、当事者である学生・院生・ポスドクの皆さんがしっかりと認識しておく必要があります。つまり、このあたりに書いてあるようなことすらしらないボスの研究室は「危険」なのです。

 第3章、第4章では榎木さんが一所懸命博士・ポスドクを売り込んでいますが、今の社会状況の中では決してうまいセールストークになっていないのが残念なところです。榎木さんは極めて誠実に、真っ正面から博士の有用性と必要性を説いておられますが、今の社会の大多数が抱いている通念をひっくり返すほどの説得力が感じられないのは、博士・ポスドク問題が人々の意識を変えるだけで片付くようなものではなく、この社会の構造を変えなければならないほど根深いところから発していることに一因がありそうに思えます。

 この本を最後まで読んでみて感じるのは、博士・ポスドク問題についてはもはや語るべきものが残っていないほど語り尽くされているにもかかわらず、解決策が出てこないというところにこそ問題があるということです。

 状況が動き始めるのは、おそらく国立大学の一部が整理・再編され始める数年後でしょう。

 そう考えると、現状はすでにある博士・ポスドク問題を解決するというようなのんきな段階ではなく、さらにひどくなる前の段階にあると考えるべきなのかもしれません。

 榎木さんの力作を前にして、この本が日本の博士への鎮魂歌のように思えるのが残念でなりません。

by stochinai | 2010-11-25 19:54 | ポスドク・博士 | Trackback | Comments(0)
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