ミニカップ入りこんにゃくゼリーによる窒息事故を巡る民事訴訟で17日、神戸地裁姫路支部は「商品(マンナンライフ社の蒟蒻(こんにゃく)畑)に製造物責任法上の欠陥はない」と判断した。一方、判決を受けて消費者庁は「法整備が必要との認識に変わりはない」(福嶋浩彦長官)として、改めてこんにゃくゼリーを含めた食品全般で窒息事故を防ぐための法整備を目指す方針を示した。一見矛盾するような両者の判断だが、消費者庁が目指す法整備は何だろうか?【山田泰蔵】
福嶋長官は、同庁が現在進めているこんにゃくゼリーについての安全指針作りだけでなく、さらに大きなテーマとして「食品全体」での窒息事故対策の法整備を強調した。
背景には、国内での食品などがのどに詰まる窒息事故死亡者数の増加がある。厚生労働省によると、交通事故など不慮の事故での死亡数は毎年4万人弱で推移する中、窒息事故による死亡数は95年の7104人から年々増え続けており、09年は9401人だった。06年以降は交通事故の死者数を上回っている。
日本で窒息による事故死が増えているのは、法制度の不備が一因になっているとも言える。食品の安全性を主に担う食品衛生法は、食中毒など衛生上の危害を防ぐ目的でしか製造や販売を規制することはできない。食品の大きさや硬さ、形状などから包括的に規制する法律は存在しない。
90年代半ば以降相次いだこんにゃくゼリーによる窒息事故で、窒息事故対策のように規制する法律がない「法のすき間」が浮き彫りになった。このため、政府はすき間の事案に対し、緊急措置をとることができる消費者安全法を消費者庁の発足(09年)にあわせて整備した。
同法は、硬さや大きさに問題がある危険な食品に対して、回収や販売禁止などの緊急措置を講じることはできる。しかし、死亡など重大事故が発生した場合に限られ、禁止措置なども一時的なもので、事故を未然に防ぐ効果には乏しい。消費者庁は「こんにゃくゼリーについては2年以上、事故が発生していない」として同法を使った事業者規制は「現時点では不可能」と判断している。一方、すき間を埋めるための法整備は取り残されたままで、依然として政府の具体策は見えてこない。
福嶋長官が「今回は具体的な商品に対する責任を問うた判決。法整備とは別の話だ」と言うのは、食品全般の安全性を網羅する法整備が急がれているためだ。内閣府の消費者委員会も今年7月、政府に対し「適切な法整備を図ることは政府の基本的責務だ」として新法も視野に入れた検討を提言した。消費者庁幹部は「窒息事故に対して法律のすき間を埋めるのが大きな課題。こんにゃくゼリーに規制が必要かどうかは、全体の枠組みの中で検討していきたい」と話している。
海外では、窒息事故防止のために、回収命令など一時的な緊急措置のほか、食品の販売規制などを行える包括的な法整備が着々と進んでいる。米国では1938年に食品の安全などに関する法律に販売規制の根拠条文が盛り込まれ、02年には、こんにゃくゼリーの自主回収に応じない業者から製品を押収した際に活用された。欧州連合(EU)でも同様の法律がある。
こうした法制度を背景に、メーカー側にも「窒息リスクは商品の欠陥」という意識が生まれている。07年に米国でシリアルが「水やミルクに溶けにくく、窒息のリスクがある」としてメーカーが自主回収したほか、今年4月には英国で幼児用食品に「硬い野菜が入っており、窒息リスクがある」として自主回収された。
また、窒息事故対策は食品だけが対象ではない。米国では95年に子どもが口に入れやすい直径約4・5センチ以下の玩具の販売を禁止するなど各国で法整備が進む。日本では、食品衛生法で乳幼児用の玩具にカドミウムや重金属など有害物質が含まれないようにする基準は設けられているが、窒息を防ぐための形状や材質などの基準はない。
毎日新聞 2010年11月26日 東京朝刊