菅直人首相は25日開かれた北朝鮮の砲撃事件に関する衆参両院予算委員会の集中審議で「初動対応の遅れ」を批判され、釈明に追われた。首相は「迅速な対応が取れた」と繰り返したが、身内の民主党議員からも「納得できない」「いち早く官邸に行くべきだった」と苦言を呈された。【高山祐、野原大輔】
まず批判を浴びたのが事件発生から菅首相の官邸入りまで2時間以上かかったことだ。首相の答弁によると、発生後、約1時間たった23日午後3時半に公邸で首相秘書官から一報を受けたが、4時すぎから民主党の斎藤勁国対委員長代理と面会し、官邸に入ったのは4時44分だった。
自民党は翌24日に柳田稔前法相の問責決議案を提出すると予告していた。同党の小野寺五典衆院議員は首相と斎藤氏が国会運営を協議したとの見方を示し「官邸はからっぽだった。国家や国民よりも党を優先した」と指摘。首相は「この日は勤労感謝の日で休日だが、危機に対応する部局はある。からっぽという表現は間違いだ。国民の誤解を招くようなことは言わないでほしい」と声を荒らげた。
仙谷由人官房長官が北朝鮮非難声明を読み上げたのが午後9時48分からの記者会見だったことも批判の的となった。首相はいったん5時15分に官邸で記者団にコメントしたが、情報収集を指示したことなどを説明しただけで、北朝鮮非難には踏み込まなかった。その後、皇居へ向かい、5時36分から宮中行事に参加。官邸に戻って関係閣僚会議を開いたのは8時55分だった。
韓国政府が6時ごろ、事件を正式に発表し、米国は約30分後に非難声明を発表している。自民党の山本一太参院議員は「情報収集能力がないことを内外に示した」、公明党の長沢広明参院議員も「政権担当能力の限界を感じる」と攻撃。首相は「韓国の李明博大統領から迅速で強力な支持表明を感謝された」と強調した。
岡崎トミ子国家公安委員長が23日、警察庁に登庁せず、宮中行事や関係閣僚会議に出席したほかは参院議員宿舎にいたことも発覚した。政府は、朝鮮半島有事などの際、日本の平和と安全に重要な影響を与える「周辺事態」には今回の事例は該当しないとしているが、警察庁は北朝鮮の工作員が重要施設を襲撃する可能性などを念頭に各地の警備態勢を強化している。
岡崎氏は「警察庁に出向いてきちんとした対応ができればよかった」と釈明。山本氏は「資質がない」と辞任を促し、22日に辞任した柳田前法相の後任が仙谷氏の兼務となっていることから「仙谷氏が国家公安委員長を兼務すればいい」と皮肉った。首相にも「退陣しろ」のヤジが飛び、「これからもしっかりと首相として頑張らないといけないと今も強く思っている」とやり返す場面もあった。
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14時34分 北朝鮮軍が韓国・延坪島へ砲撃
15時20分 首相官邸に情報連絡室設置
15時30分 公邸にいた首相に秘書官から第一報
16時05分 首相が斎藤勁民主党国対委員長代理と会談
16時44分 首相が官邸に移動
16時46分 首相が古川元久官房副長官、伊藤哲朗内閣危機管理監らと協議
16時50分 仙谷由人官房長官が協議に加わる
17時00分 首相が全省庁に情報収集を指示
17時15分 首相が記者団のぶら下がり取材に応じる
17時36分 首相が皇居に到着、新嘗祭神嘉殿の儀に参列
18時ごろ 韓国が砲撃事件を正式発表
18時33分 米ホワイトハウスが北朝鮮を非難する声明
19時00分 ロシアのラブロフ外相が「砲撃を開始した者は重大な責任を負わなければならない」と非難
19時07分 仙谷氏が権哲賢駐日韓国大使と面談
20時25分 首相、皇居から官邸に戻る
20時55分 官邸で「韓国・延坪島に対する北朝鮮による砲撃事件」に関する閣僚会議
21時48分 仙谷氏が官邸で記者会見。北朝鮮を非難し、韓国政府支持を表明
毎日新聞 2010年11月26日 東京朝刊