きょうの社説 2010年11月26日

◎長谷川等伯の調査 「お宝」続々、胸張れる成果
 長谷川等伯没後400年に当たる今年、本紙が県七尾美術館と七尾市の協力で実施して いる「長谷川等伯ふるさと調査」が大きな成果を挙げている。今回は珠洲市の寺で等伯が描いたとみられる日蓮の肖像画が見つかり、他の掛け軸3点も等伯作の可能性があるという。

 調査は七尾に生まれた等伯の知られざる能登時代に光を当てる狙いで始まり、これまで に羽咋市や氷見市でも等伯が20代前半に描いたとみられる画像や養父との父子合作などが見つかっている。「国宝中の国宝」と称される「松林図屏風」など数多くの傑作を描いた日本美術史上の巨人の作品がまだまだ、私たちの身近なところに埋もれているかもしれない。

 等伯が京へ上り、目覚ましい活躍を始めて以降の足跡は多くの研究者によって詳細に調 べ尽くされている。しかし、等伯が能登で「信春」と号した若き日の活動状況は、謎の部分が多い。珠洲市の日蓮宗本住寺で今回見つかった日蓮の肖像画や掛け軸がすべて等伯の真筆かどうかはまだ分からないが、半年足らずの調査期間で、既に胸を張れる成果を挙げているのは間違いない。「お宝」発見で、古里の美術史に新たな1ページが加わることになろう。

 等伯の作品は能登を中心に石川、富山両県に十数点残っている。今回の調査では、羽咋 市の日蓮宗妙成寺所蔵の「日乗上人画像」と「日蓮聖人画像」が等伯20代前半に描いた作品である可能性が指摘された。また、氷見市では日蓮宗蓮乗寺所蔵の「宝塔絵曼荼羅(まんだら)」が、等伯と養父宗清(そうせい)による現存最古の父子合作であることも判明した。

 成果は、作品の発掘だけではない。今回の調査は美術史だけでなく、歴史学の観点から も等伯の足跡に迫っている。たとえば、加賀藩2代藩主、前田利長が等伯に前田家菩提寺の芳春院(京都市)の「客殿の絵」を描かせていたことが小松市内で行った古文書調査で確認された。等伯と前田家のかかわりを物語る史料として貴重である。地元の史料を読み取る地道な作業のなかから、能登七尾が生んだ桃山画壇の巨匠の素顔を明らかにしていきたい。

◎宙に浮く補助事業 拙速な廃止判断避けたい
 国が主導してきた地域経済活性化や地域再生の補助事業が、来年度予算編成に向けた事 業仕分けで見直しが相次ぎ、自治体から批判が出ている。補助事業の費用対効果を吟味する必要があるのは当然ながら、地域の「現場」を十分理解し、拙速な廃止判断は避けるよう望みたい。

 行政刷新会議が先に行った事業仕分け第3弾では、北陸3県繊維産業クラスター協議会 の事業に対する補助が見送りの判定を受けた。また、省庁版事業仕分けの行政事業レビュー(見直し)では、内閣府の「地域再生基盤強化交付金」が、廃止を含む抜本的見直しを理由に来年度概算要求に含まれなかった。地方への説明のない内閣府の一方的な打ち切り措置に対し、同交付金で道路整備などを進める県内の自治体が、強く反発しているのは当然といえる。

 しかも、これらの補助事業は、いずれも国の認定を受けた計画に基づいて行われてきた 。いわば国のお墨付きを得た事業であるだけに「二階に上がったら、突然はしごを外された」と地方側が不満を抱くのも無理はない。

 北陸3県共同で繊維産業の研究開発や販路拡大、人材育成に取り組むクラスター事業は 、2009年度からの3年計画で、来年度は繊維関連製品の出荷額増と雇用拡大の成果を示す年となる。

 行政刷新会議の評価者は、この繊維クラスター事業を含む「地域企業立地促進等補助事 業」について、「企業立地促進の重要性は認めるが、この補助事業に効果があるとは認められない」などさまざまな意見を述べている。が、個別事業を子細に点検したわけではなく、事業計画半ばでの補助金廃止は、拙速の批判を免れまい。

 また、北陸の多くの自治体は、それぞれ「地域再生計画」を国に提出した上で、地域再 生基盤強化交付金による事業を進めてきた。補助金廃止で計画済みの道路や下水道整備事業を中途半端にしておくことはできず、少なくとも継続事業について、交付金制度を維持するか代替措置を取ってほしいという地方の声を、政府は無視しないでもらいたい。