きょうのコラム「時鐘」 2010年11月26日

 暮らしで使う目安となる常用漢字が増えることになった。新聞でも「憂うつ」が晴れて「憂鬱」となる。好んで使いたい字ではないから、さほどめでたくもない

自慢じゃないが、「鬱(うつ)」とちゃんと書けたためしがない。書けないが、何となく読める。そんな微妙な漢字が幾つもある。「傀儡(かいらい)」という文字も久しぶりで目にした。背筋が寒くなる砲撃事件で、北朝鮮が韓国政府を非難するのに使った

美人だがコワモテの「北」のおばさんがテレビ画面で何やら叫び、字幕に「傀儡」の文字が何度も流れた。操り人形のこと、と辞書にある。人の手先となって使われる人、ともある

あのおばさんが出てくると、ろくなことはない。彼女こそ、自由な言論を封じられた独裁政治の哀れな傀儡役の一人である。「傀」も「儡」も常用漢字ではない。冷戦時代によく使われたが、とうにお蔵入りだと思っていた。そんな言葉にまだすがり付く危険な時代錯誤を、また見せつけられた

常用漢字の改訂で、「北」に投げつける言葉も増える。眉唾(まゆつば)、軽蔑(けいべつ)、嘲笑(ちょうしょう)、罵倒(ばとう)、破綻(はたん)。おかげさまで、品の良くない漢字がたくさん身につく。