踵骨は後足部(かかと)にあり、荷重時にもっとも大きな外力を受ける骨です。歩行や階段昇降に際し、地面からの衝撃を緩衝するために足底部の皮下組織は厚く、踵骨も大部分が海綿骨と呼ばれるスポンジ状の骨で構成されています。一方、踵骨はその上にある距骨と3つの関節を形成し、その関節は立脚時に左右のバランスをとる働きがあります。 ほとんどの骨折が高所よりの転落や階段を踏み外すことによって生じますが、骨折線は関節面に及ぶことがほとんどで、転位(ずれ)を残したままでは重度の機能障害を生じます。踵骨全体像もケーキを押しつぶしたようにペシャンコになり、疼痛や扁平足などにより重篤な歩行障害を残すことが多く、治療に難渋する骨折のひとつです。 転落事故などによりかかとに強い衝撃を受けた後に、痛みや腫れを生じたら骨折が強く疑われます。このような場合はかかとをつかないようにし、かかとを冷やして専門の整形外科を受診するようにしましょう。レントゲン検査を受け、ギプス固定を行うのか、手術が必要なのか、正しい診断を行うことが後遺障害の予防につながります。
脊椎圧迫骨折は背骨の椎体がつぶれて扁平になったものです.20年ほど前までは若い人が高い所から落ち,臀部を強打したときに生じるものでした.しかし,最近の高齢者の増加にともない骨粗鬆症のある背骨に生じることが多くなっています.多くは後方へ転倒し尻餅をついたときに生じます.その他にお米や布団などの重いものを持ったりしたときや,畑作業や草むしりなどの作業を長時間行っても生じることがあります.「みぞおち」の後方にある背骨(胸椎と腰椎の移行部)に骨折が生じやすいのですが,痛みは骨盤付近の腰部に感じます.痛みには特徴があり,寝ている姿勢から起き上がろうとする瞬間に鋭い痛みが生じ,一旦立ち上がればあまり痛くなく,歩行もなんとか可能というもので,「体動時腰痛」といわれます.この体動時腰痛が骨粗鬆症のある人に生じればX線検査で骨折が明らかでなくても,骨折を考えた方がよいといわれています. 時間の経過とともに体動時腰痛は軽くなりますが,詳しく尋ねると骨折が治る頃まで瞬間的に生じる痛みとして続きます.また,骨折が治っていない時期によく動いたりするとこの体動時腰痛が増強することもよくありますので注意が必要です. 診断にはX線検査を行い,受傷した部位と骨折の程度を判断します.骨折の変形が少ないとはっきりしないことがあり,できるだけ早い時期にMRIを撮影します.MRIの診断率は高く90数%以上の確率で診断できます.骨折すると多くは背骨の椎体の前の部分がつぶれますが,中央部がつぶれることもあります.中央部のみがつぶれたときはあまり痛くなく,いつの間にか治っていたということもあります.椎体の後方部にまで骨折が及ぶと破壊が高度ですので,痛みが強く,ときに足がしびれたり動きにくくなったり,尿が出にくくなったりする麻痺が生じることもあります.また,時間が経過しても,骨折が治らないため背骨が高度に変形することがあり,このときも麻痺が生じることがあります. 治療の基本は保存治療です.受傷後1か月の間,骨折部は不安定で容易に変形しますので特に注意が必要です.柔らかいコルセットよりむしろ,硬めのコルセットを使用し,骨折の程度によってはギプスを身体に巻いたりします.これによって,痛みを軽くし,変形の進行をできるだけ防ぎます.それでも痛みは骨折が治る頃まで続きますので,寝たり起きたりの回数はあまり多くしない方がよいと思われます.頻尿の人はとくに寝たり起きたりすることが多いので,尿の回数を減らすお薬を飲んでもらうこともあります.また,畳の上よりむしろ立ち上がりやすいベッドでの生活を勧めています. 骨折は背骨の椎体の後ろの部分から治ってきます.早い人でも受傷後2週から,多くの人では3〜4週から骨が形成されてきます.すると大概の人は楽になったといわれますが,背骨の前の部分が治るまで変形は進行しますので治療を継続することが大切です. 骨折が治ると体動時腰痛は完全に消失します.しかし,コルセットを外したなりのときは疲れやすいので,長時間座っていたり,台所仕事をしたりしていると腰が痛くなってきます.背中の筋力が弱っているために,筋肉が疲れやすくなっているのです.受傷初期に感じた体動時腰痛の鋭い痛みと異なり, 重だるく感じる痛みで,横になるとすぐに楽になります.そして15分から20分くらいすると再び楽に動けるようになります.徐々に身体を慣らしていくようにしますが,身体の筋肉を鍛えることも大切です.とくに背筋を中心に腹筋も鍛えます.再度転倒しないようにバランスの訓練も行います.このようにして身体が回復するまで半年から1年を要します.背骨の変形が強く残っていたりすると,以前のように元気になりませんので,受傷した最初の1か月の間に変形を進行させないようにすることも重要です.また,再び骨折しないようにするため骨粗鬆症の程度を検査し,治療薬を内服して骨を強くすることも非常に重要なことで, 背骨だけでなく他の部位の骨折予防にもなります.
図の説明 73歳女性.第1腰椎圧迫骨折.尻餅をついて受傷.X線側面像では背骨の椎体の高さが減少している(矢印). MRIでは骨折はより明らかであり,受傷したところの輝度が低下し黒くなっている(矢印).骨折は椎体の後方部にまで及び、脊髄(神経)に向かって突出していることがわかる(太矢印).
骨は胸上方の左右に一対ずつあるS字型をした骨で外観からもその存在を確認できます。この鎖骨が折れる骨折は、全骨折中約10%を占めるほど多い骨折のひとつです。 原因はスポーツや交通事故による転倒などによって肩や腕に衝撃力を受けて折れる場合が多く、折れる瞬間にボキッ!という音を聞く人も多いようです。 症状は骨折部の痛みや腫れの他、腕を上げることができなくなります。ズレが大きいと外観からでも骨折を確認できます(図1)。
骨折のズレが小さかったり、鎖骨の外側の骨折では見逃される事もあり、専門医による診察やレントゲン検査を受ける事をお勧めします(図2)。 治療はまず胸を張るように骨折部のズレを整復した後に鎖骨バンドなどによって固定が行われます。骨折部のズレが大きかったり、骨が外に飛び出すような開放骨折や鎖骨の下にある神経や血管が破れているような場合は手術が行われます。 手術をしてもしなくても骨がつくまでには最低4〜12週を要します。バンドで固定していても経過によって骨のつきが悪い場合には手術になる場合もあります。この場合、骨盤から骨を採って鎖骨の骨折部に移植することもあります。骨折の治りを早める超音波や電気刺激などを身体の外から当てる方法を加える場合もありますが、それには費用もかかります。 骨がついた後、肩が回らない場合にはリハビリも必要となります。但し骨のつき具合でリハビリも変わってくるので始める時期や方法など詳細は主治医の指示に従って下さい。
突き指は、日常よく見られる指の外傷の総称のひとつです。スポーツ、特にボールを使った競技などで発生します。突き指の中には、骨折や腱・靭帯損傷、亜脱臼が紛れ込んでおり、レントゲン検査などを用いた医師の診察が必要です。 突き指をしたら、まず冷却をしましょう。最近はスポーツの現場で氷や冷却用のジェルなどを準備することが普及されてきています。そして、無理やりに引っ張ったりしないで、整形外科を受診しましょう。骨折や靱帯損傷がなければ、ひと安心です。
しかし、何らかの異常が発見されれば、それに対する処置が必要になります。こういった外傷というのは、早期であれば治療もしやすく、あとあとの後遺症も少なく済むものです。これを、日数がたってから受診して診断がついたとしても、上手に治療できない場合があります。週末の楽しいはずのスポーツ活動を、後悔に換えないためにも、突き指をしたら少なくとも休日明けには整形外科の受診をお勧めします。
上腕骨は、肩関節から肘関節をつなぐ骨で、上腕骨近位端とは、肩関節近くの部分です(図1)。肩関節は、関節の中で最も大きな可動域を持つ関節であり、上腕骨近位端骨折は、骨に付いている筋肉、腱により最大4つの部分に分かれて転位します(図2)。上腕骨近位端骨折は、若い人ではスポーツや交通事故などの強い外力によって生じ、小児では骨端線(成長線)を含んで損傷する場合もあります。高齢者では転倒などの軽い外力で生じることが多く、大腿骨近位部骨折(股関節)、橈骨遠位端骨折(手関節)、脊椎圧迫骨折と並んで高齢者に多い骨折の一つです。 【検査・診断】 単純]線撮影で診断が可能ですが、治療方法を決めるためには、骨折の転位程度の評価が重要になり、CT検査が情報を得るために、有効です。 【合併する損傷】
【治療法】 転位のない骨折は、保存的治療の適応であり、三角布などで固定し、臥床、起床動作時に肩関節を安定させるため、バストバンドなど体幹に固定します。固定期間中も手指の腫れを軽減させるため、手指の運動を積極的に行います。痛み、腫れの軽快に応じて、可動域訓練を開始し、3週間は固定を行います。 手術適応は、骨折分類に従って行われ、骨折部の転位の程度が重要です。手術的治療の目的は、骨折部の安定性を得ることで痛みを早期に軽減させること、整復された位置で骨癒合を得ること、骨折を起こす前の肩関節の機能を獲得することを目的に手術的治療が選択されます。 手術方法は、鋼線などを用いる方法から、近年は、新しい固定材料である髄内釘固定法(図3)やプレート固定法(図4)が行われます。脱臼骨折の場合には、人工骨頭置換術が行われる場合もあります(図5)。 肩関節は、肩関節周囲炎(いわゆる五十肩)で知られるように拘縮(こうしゅく)しやすい関節なので、保存的治療、手術的治療ともに、骨折部の安定性(固定性)を得ることにより早期に後療法(可動域訓練)を開始することが大切です。 【合併症・後遺症】
【部位】 前腕(肘と手首の間)には橈骨(とうこつ)と尺骨(しゃくこつ)の2本の細長い骨があり,ともに両端が肘関節と手関節(手首の関節)を形成します(図1).手関節では母指(親指)側にあるのが橈骨,小指側にあるのが尺骨です.肘関節では外側(色黒で毛の生えている方) にあるのが橈骨,内側(色白で毛の生えていない方) にあるのが尺骨です.橈骨と尺骨は前腕骨と呼ばれることがあります.橈骨も尺骨も両端は膨大しており,それを除いた中間の細い部分を骨幹部と呼びます.骨幹部の骨折が骨幹部骨折です.
【症状】 前腕の骨幹部で骨折すると,強い痛みや腫脹が出現します.橈骨と尺骨がともに折れると,通常、前腕はその中央部で大きく変形します.橈骨か尺骨の一方のみの骨折では、あまり変形しないこともあります.
【生じ得る合併損傷】 骨が折れるほどの強い力がかかると,骨以外の組織も傷つく恐れがあります.皮膚が破れて出血することがあり,そのキズが骨折部につながっていれば開放骨折と呼ばれます.その場合,骨折部に体外の細菌が進入する恐れがあるので,治療が格段に複雑になります.皮膚に傷が無くても,血管が傷ついて手の血流が低下したり,神経が傷ついて手の感覚がしびれたり指が動きにくくなることがあります.また,肘関節や手関節の脱臼を伴う事があります.そのうち尺骨の骨幹部骨折に,橈骨の肘関節における脱臼が合併したものはモンテジア骨折と呼ばれ、脱臼になかなか気が付かないことがあります.
【治療】 救急処置としては,痛みをやわらげ内出血を止める目的で,上腕から手まで副子(副木またはシーネ)をあてがって前腕部分が動かないようにします.皮膚に傷がありそれが骨折部につながっていそうな場合は,すぐに整形外科か救急病院を受診する必要があります.手の血流が低下したり神経が傷ついた場合も同様です. この骨折の治療の要点は,変形せずに骨癒合させることです.変形して骨癒合すると,前腕の回旋(肘を動かさない状態で手のひらを返す動き)が制限されることがあります.また、橈骨と尺骨の長さに不均衡が生じて骨癒合すると,手関節に痛みが生じることがあります.なお,この骨折の骨癒合には時間がかかる事が多く,時に骨がつかない事もあります. 小児の場合は,骨折部が折れ曲がっただけだったり,骨折部のズレが小さい事が多いです.また,小児は骨癒合する能力が高いだけでなく,たとえ変形して骨癒合してもそこから本来の形に戻ろうとする能力があります.したがって小児では保存療法(手術しない治療方法)が成功する事が多いです.保存療法では,変形を出来る限り矯正し,上腕から手までギプス固定します(図2). 大人の場合は手術療法を要する事が多いです.手術では骨折部を露出して整復し,プレートと骨ネジで固定します(図3).あるいは骨折部を露出しないで,離れた部位から髄内釘や鋼線を挿入します.骨癒合後のプレートの抜去が早いと,同じ場所で再骨折することがあります. この骨折では,手や指を動かす筋肉が骨折部の周囲で癒着する事があります.そのため保存療法であれ手術療法であれ,手や指を動かすリハビリテーションが重要です.また,折れた腕を動かさないようにしていると,肩関節が固くなってしまうので,肩の運動も重要です. 以上述べましたように,前腕の骨幹部骨折はなかなか厄介な骨折です.順調にいっても完治まで時間がかかりますし,順調にいかない事もあります.整形外科医とともに,治療にじっくり取り組んで下さい.
図1.右手の前面を実体と骨格模型で示す. 矢印が橈骨(とうこつ)
図2.小児の橈骨と尺骨の骨幹部骨折.手術せずにギプスで治療した. 変形して骨癒合したが,2年後には変形はかなり改善した.
図3.大人の橈骨と尺骨の骨幹部骨折.プレートで固定した.