骨折治療学会の歴史
 
 
『踵骨骨折 -転落にご注意』 佐藤 徹 (国立病院機構岡山医療センター)

 踵骨は後足部(かかと)にあり、荷重時にもっとも大きな外力を受ける骨です。歩行や階段昇降に際し、地面からの衝撃を緩衝するために足底部の皮下組織は厚く、踵骨も大部分が海綿骨と呼ばれるスポンジ状の骨で構成されています。一方、踵骨はその上にある距骨と3つの関節を形成し、その関節は立脚時に左右のバランスをとる働きがあります。
 ほとんどの骨折が高所よりの転落や階段を踏み外すことによって生じますが、骨折線は関節面に及ぶことがほとんどで、転位(ずれ)を残したままでは重度の機能障害を生じます。踵骨全体像もケーキを押しつぶしたようにペシャンコになり、疼痛や扁平足などにより重篤な歩行障害を残すことが多く、治療に難渋する骨折のひとつです。
  転落事故などによりかかとに強い衝撃を受けた後に、痛みや腫れを生じたら骨折が強く疑われます。このような場合はかかとをつかないようにし、かかとを冷やして専門の整形外科を受診するようにしましょう。レントゲン検査を受け、ギプス固定を行うのか、手術が必要なのか、正しい診断を行うことが後遺障害の予防につながります。

 
正常な状態
(矢印が踵骨)
  踵骨骨折
(矢印の部分に骨折があり踵骨が変形している)
 
『骨粗鬆症による脊椎圧迫骨折』 浦山 茂樹 (高岡市民病院)

 脊椎圧迫骨折は背骨の椎体がつぶれて扁平になったものです.20年ほど前までは若い人が高い所から落ち,臀部を強打したときに生じるものでした.しかし,最近の高齢者の増加にともない骨粗鬆症のある背骨に生じることが多くなっています.多くは後方へ転倒し尻餅をついたときに生じます.その他にお米や布団などの重いものを持ったりしたときや,畑作業や草むしりなどの作業を長時間行っても生じることがあります.「みぞおち」の後方にある背骨(胸椎と腰椎の移行部)に骨折が生じやすいのですが,痛みは骨盤付近の腰部に感じます.痛みには特徴があり,寝ている姿勢から起き上がろうとする瞬間に鋭い痛みが生じ,一旦立ち上がればあまり痛くなく,歩行もなんとか可能というもので,「体動時腰痛」といわれます.この体動時腰痛が骨粗鬆症のある人に生じればX線検査で骨折が明らかでなくても,骨折を考えた方がよいといわれています.
 時間の経過とともに体動時腰痛は軽くなりますが,詳しく尋ねると骨折が治る頃まで瞬間的に生じる痛みとして続きます.また,骨折が治っていない時期によく動いたりするとこの体動時腰痛が増強することもよくありますので注意が必要です.
 診断にはX線検査を行い,受傷した部位と骨折の程度を判断します.骨折の変形が少ないとはっきりしないことがあり,できるだけ早い時期にMRIを撮影します.MRIの診断率は高く90数%以上の確率で診断できます.骨折すると多くは背骨の椎体の前の部分がつぶれますが,中央部がつぶれることもあります.中央部のみがつぶれたときはあまり痛くなく,いつの間にか治っていたということもあります.椎体の後方部にまで骨折が及ぶと破壊が高度ですので,痛みが強く,ときに足がしびれたり動きにくくなったり,尿が出にくくなったりする麻痺が生じることもあります.また,時間が経過しても,骨折が治らないため背骨が高度に変形することがあり,このときも麻痺が生じることがあります.
 治療の基本は保存治療です.受傷後1か月の間,骨折部は不安定で容易に変形しますので特に注意が必要です.柔らかいコルセットよりむしろ,硬めのコルセットを使用し,骨折の程度によってはギプスを身体に巻いたりします.これによって,痛みを軽くし,変形の進行をできるだけ防ぎます.それでも痛みは骨折が治る頃まで続きますので,寝たり起きたりの回数はあまり多くしない方がよいと思われます.頻尿の人はとくに寝たり起きたりすることが多いので,尿の回数を減らすお薬を飲んでもらうこともあります.また,畳の上よりむしろ立ち上がりやすいベッドでの生活を勧めています.
 骨折は背骨の椎体の後ろの部分から治ってきます.早い人でも受傷後2週から,多くの人では3〜4週から骨が形成されてきます.すると大概の人は楽になったといわれますが,背骨の前の部分が治るまで変形は進行しますので治療を継続することが大切です.
  骨折が治ると体動時腰痛は完全に消失します.しかし,コルセットを外したなりのときは疲れやすいので,長時間座っていたり,台所仕事をしたりしていると腰が痛くなってきます.背中の筋力が弱っているために,筋肉が疲れやすくなっているのです.受傷初期に感じた体動時腰痛の鋭い痛みと異なり, 重だるく感じる痛みで,横になるとすぐに楽になります.そして15分から20分くらいすると再び楽に動けるようになります.徐々に身体を慣らしていくようにしますが,身体の筋肉を鍛えることも大切です.とくに背筋を中心に腹筋も鍛えます.再度転倒しないようにバランスの訓練も行います.このようにして身体が回復するまで半年から1年を要します.背骨の変形が強く残っていたりすると,以前のように元気になりませんので,受傷した最初の1か月の間に変形を進行させないようにすることも重要です.また,再び骨折しないようにするため骨粗鬆症の程度を検査し,治療薬を内服して骨を強くすることも非常に重要なことで, 背骨だけでなく他の部位の骨折予防にもなります.

図の説明
73歳女性.第1腰椎圧迫骨折.尻餅をついて受傷.X線側面像では背骨の椎体の高さが減少している(矢印).
MRIでは骨折はより明らかであり,受傷したところの輝度が低下し黒くなっている(矢印).骨折は椎体の後方部にまで及び、脊髄(神経)に向かって突出していることがわかる(太矢印).

 
『鎖骨骨折』 山路 哲生 (山路整形外科)

 骨は胸上方の左右に一対ずつあるS字型をした骨で外観からもその存在を確認できます。この鎖骨が折れる骨折は、全骨折中約10%を占めるほど多い骨折のひとつです。
原因はスポーツや交通事故による転倒などによって肩や腕に衝撃力を受けて折れる場合が多く、折れる瞬間にボキッ!という音を聞く人も多いようです。
  症状は骨折部の痛みや腫れの他、腕を上げることができなくなります。ズレが大きいと外観からでも骨折を確認できます(図1)。

   

 骨折のズレが小さかったり、鎖骨の外側の骨折では見逃される事もあり、専門医による診察やレントゲン検査を受ける事をお勧めします(図2)。
  治療はまず胸を張るように骨折部のズレを整復した後に鎖骨バンドなどによって固定が行われます。骨折部のズレが大きかったり、骨が外に飛び出すような開放骨折や鎖骨の下にある神経や血管が破れているような場合は手術が行われます。
手術をしてもしなくても骨がつくまでには最低4〜12週を要します。バンドで固定していても経過によって骨のつきが悪い場合には手術になる場合もあります。この場合、骨盤から骨を採って鎖骨の骨折部に移植することもあります。骨折の治りを早める超音波や電気刺激などを身体の外から当てる方法を加える場合もありますが、それには費用もかかります。
骨がついた後、肩が回らない場合にはリハビリも必要となります。但し骨のつき具合でリハビリも変わってくるので始める時期や方法など詳細は主治医の指示に従って下さい。

 
『成人の上腕骨遠位部骨折』 服部 順和 (名古屋掖済会病院整形外科)
 上腕骨遠位部は前腕の尺骨(しゃっこつ)・橈骨(とうこつ)とともに肘関節を形作り、上腕と前腕を接続(図1)し、高度に分化した手の機能を発揮できるようにしています。骨折すると腕がぐらぐらになり、治療がうまくいかず肘機能が障害されると日常生活動作に大きな支障をきたします。
図1.肘関節

受傷機転
:交通事故、労働災害、高所からの落下などの大きな力が加わっておこる骨折は若年、中高年に多く、直接打撲したり手をついて捻ったりした時に発生します。近年スノーボードでの受傷が増加傾向にあります。一方、ささいな転倒など比較的小さい力が加わっておこる骨折は骨粗鬆症のある高齢女性に多くみられます。

骨折型,骨折の部位によって3タイプに分類されます。
  1. 関節包の外側に骨折線があり、関節の中は無傷なもの(上腕骨顆上骨折)  図2
  2. 関節面に骨折が及び種々の程度の粉砕があるもの(上腕骨顆間骨折) 図3
  3. 関節内で、より遠位部(関節軟骨部)の横骨折(上腕骨通顆骨折)図4  この骨折は高齢者に多く、治療に難渋することが多くあります。
図2.上腕骨顆上骨折
図3.上腕骨顆間骨折
図4.上腕骨通顆骨折
治療の原則:骨折転位(骨片のズレ)がないか、わずかの場合にはギプスや装具による治療を行いますが、残念ながら大多数は手術が必要となります(図5、6)。とくに若年、壮年の場合には手術をして関節面を正確にもどして、プレートやスクリューでしっかりと固定し、早期から関節を動かすリハビリをしないと、癒合不全(骨のつきが遅くなったり、骨がつかない)や拘縮(関節が固まってしまう)が起こり、職場復帰は難しく、治療期間も長びくことになります。高齢者では、骨粗鬆症などで骨がもろいため、手術をしてプレートなどでしっかり骨折をとめておかないと、簡単にずれてしまいます。その他、皮膚の上から金属製のピンで固定することもあります。
図5.上腕骨顆間骨折の手術例
図6.上腕骨通過骨折の手術例

後療法:ここの骨折では肘関節の拘縮がおきやすく、予防のため、できれば手術後2週前後で肘関節の運動リハビリを開始したいものです。あくまで自分の筋力で行う自動運動を主体とします、他人や器具による他動運動では関節周囲に異所性骨化(筋肉などに骨ができる)が起きていっそう動かなくなることがあります。拘縮が改善しないときには、骨癒合を待って受動術といって関節のまわりの癒着やツッパリをとる手術も必要となります。目安は手のひらが顔につかない時です。
 
『突き指 ―たかが突き指、されど突き指― 池田 和夫 (金沢大学整形外科)

 突き指は、日常よく見られる指の外傷の総称のひとつです。スポーツ、特にボールを使った競技などで発生します。突き指の中には、骨折や腱・靭帯損傷、亜脱臼が紛れ込んでおり、レントゲン検査などを用いた医師の診察が必要です。 突き指をしたら、まず冷却をしましょう。最近はスポーツの現場で氷や冷却用のジェルなどを準備することが普及されてきています。そして、無理やりに引っ張ったりしないで、整形外科を受診しましょう。骨折や靱帯損傷がなければ、ひと安心です。

 しかし、何らかの異常が発見されれば、それに対する処置が必要になります。こういった外傷というのは、早期であれば治療もしやすく、あとあとの後遺症も少なく済むものです。これを、日数がたってから受診して診断がついたとしても、上手に治療できない場合があります。週末の楽しいはずのスポーツ活動を、後悔に換えないためにも、突き指をしたら少なくとも休日明けには整形外科の受診をお勧めします。

 
『手首の骨折 ―高齢者編― 池田 和夫 (金沢大学整形外科)
 お年寄りが転んで手を着いた時に、手首はよく骨折する部位です。この手首の骨は、橈骨(とうこつ)と呼ばれています。橈骨の骨折は、高齢になるにつれ骨が脆くなること(骨粗鬆症)に関係しています。ですから、若い時には骨折しない程度の力で手首の骨は折れてしまいます。高齢者のほとんどは、玄関でつまずいたとか、布団の縁につまずいたといった程度の転び方で骨折をしています。もし骨折をしていれば、痛みと腫れで「これはおかしい」と誰でも気がつくはずです。そういう場合には、レントゲン検査を受け、正しい診断をつけてもらいましょう。その骨折の程度により、治療が湿布だけで良いのか、ギプスをまくべきなのか、手術が必要なのか、などがわかります。変形が強い場合や、関節に骨折が入っている場合には手術をしないと、後遺症が残る場合もあります。ですから、高齢者が転んで手をついて手首を痛がっていたら、迷わず整形外科に連れて行ってあげてください。
 
『下駄履き骨折』 白濱 正博 (久留米大学整形外科)
 足の第5中足骨基部骨折を一般に下駄履き骨折と称しています。昔は下駄を履いて捻挫したときに発生することが多かったためそう呼ばれていました。しかし、現在は下駄を履く機会がありませんので、なくなったかというとそうではありません。下駄は履かなくても、裸足やサンダル、普通の靴を履いていても捻挫したとき発生することがあります。特に厚底靴や高いヒールでは要注意です。このように足首の捻挫では、足関節の捻挫(靱帯損傷)やくるぶしの骨折だけでなく、第5中足骨骨折の場合もあります。下駄履き骨折の場合、足首の外側のやや前方に強い痛みと腫れが発生します。時代は変わっても、呼び名は変わっていません。軽い捻挫で1週間で治るか、骨折のため約1ヶ月かかるか大きな違いです。もし足首を捻挫したときは、軽い捻挫だろうと我流で治療せず、早めに整形外科を受診することを勧めます。
 
『スキーとスノーボード外傷』 白濱 正博 (久留米大学整形外科)
 最近は若者を中心にスノーボード人口が爆発的に増え、ゲレンデはボーダーが縦横無尽に滑ったりジャンプしたり、座り込んでいる姿が多く見られます。これによりスノーボードによる外傷も増加しています。スキーの場合、足首が固定されるため「スキー骨折」と呼ばれる足関節外果骨折や、「ブーツトップ骨折」と呼ばれる下腿骨骨折がありましたが、靴やビンデイングの改善により著明に少なくなっています。その反面、スノーボードによる外傷が増加しています(スキーに比べ約10倍の発生率)。スノーボードではスキーと異なり、転倒やジャンプ着地失敗など衝撃も大きいため、頭や手足に麻痺が残る重傷な外傷も少なくありません。手首の骨折など上肢の外傷が大半を占めますが、下肢では足首の捻挫や骨折が多くなっています。ゲレンデを滑走する爽快感が一転して大きな怪我にならないようにするために、スクールで基本をしっかり学び、プロテクターを必ず着用し、自分の技量に見合う滑りをしましょう。
 
『肋骨骨折』 正田 悦朗 (兵庫県立西宮病院整形外科)
 肋骨は左右12対の骨で背中の胸椎から前胸部の胸骨までかごのように胸腔を形成しており(図1)、その中に存在する心臓や肺ばかりでなく、腹腔内の肝臓、脾臓、腎臓の一部を保護しています。ただ、11、12番目の肋骨の前方は胸骨にはくっついていません。
 肋骨骨折は、胸部外傷の中で最も多くみられるものです。その原因は机やタンスの角にぶつけたというような軽度の外力によるものと、交通事故や高所からの転落といった大きな外力によるものがあります。また、ゴルフのスイングなど体を捻ることで発生することもありますし、咳で骨折することもあります。大きな外力による場合には複数の肋骨が骨折することが多く、胸郭内の肺や心臓、大血管に損傷が及ぶことが多く、命にかかわってくる場合があります。このような時には胸部外科での治療が必要となりますが、通常の骨折は整形外科で診察します。
症状としては、骨折部位に一致した痛みと圧痛、皮下出血、腫脹が現れ、骨折部を軽く圧迫すると軋轢音(骨折部で骨がきしむ音)がすることがあります。体をそらしたり、肩を動かしたりすると痛みが強くなり、また痛みのために深呼吸や咳、くしゃみがしにくくなります。
診断は胸部の触診とX線撮影によって行われます。ただし、肺の影と重なったり、肋骨同士が重なったりするため、骨折が判明しにくい場合もあります。また、肋骨の前方部分は肋軟骨となっており、ここでの骨折はX線では確認できません。
 治療は肺や心臓、血管の損傷を伴っていなければ、明らかな骨折、不全骨折(いわゆる“ひび”)、X線で骨折がはっきりしない打撲の場合でも、ほぼ同様です。疼痛が軽度な場合には、消炎鎮痛剤の内服と湿布などで経過をみます。疼痛がやや強い場合には、バストバンドやトラコバンドとよばれる固定帯による圧迫固定を追加します。これらの治療で多くは数週間で軽快します。転位が高度な時など、時に手術が行われることもありますが、かなり稀です。
応急処置としては、呼吸運動に伴って胸痛が強まることから、幹部に厚手のタオルなどを当て、これを軽く圧迫することで疼痛を軽くすることができます。胸腔内損傷を合併している可能性もありますので、早めに医師の診察を受けたほうがよいと思われます。
 
『疲労骨折』 正田 悦朗 (兵庫県立西宮病院整形外科)
 一度には骨折が起こらない程度の外力が繰り返し加わった場合に生じる骨折です。以前には軍隊の行軍訓練で足の中足骨に起こることが有名でした(行軍骨折とよばれていた)が、最近はスポーツの過度の練習によって起こることが大多数となってきています。あらゆる年齢に発生しますが、筋力の発育や体力的な問題から成長期、特に15〜6歳で最も多くみられると報告されています。
【起こり易い場所】
 下肢の骨におこることが圧倒的に多く、脛骨(すねの骨)、中足骨(足の甲の骨)、腓骨(すねの外側の細い骨)に多くみられます。野球では上肢の尺骨肘頭(肘の骨)、ゴルフでは肋骨におこることがあります。腰椎分離症も脊椎の疲労骨折です。
【症状】
 明らかな外傷の覚えがないのに、運動時に疼痛が出現し、安静時には軽快します。無理をして運動を続けていると安静時にも痛みが出現するようになります。
【診断】
 上記のような症状が無いかどうかを聞き出すことが重要です。早期の症例ではX線上明らかな骨折線や変化は認められません。この様な時期には骨シンチグラフフィー(放射線を出す物質を注射して骨への集まりを見る検査)やCT、MRIで確認する必要があります。2〜3週間すると、骨折線が明らかになったり骨折線の周りに淡い骨の像が見えてきたりします。
【治療】
 原則として原因となったスポーツ活動を禁止しますが、この期間は骨折の部位によって多少の差があります。ギプス固定や装具などでの固定をすることは、通常は行いません。骨折部に負担のかからないトレーニングは状況に応じて許可します。スポーツへの復帰は骨折部の圧痛がないことや筋力の回復状態X線検査で判定しますが、通常2〜3ヶ月で可能となります。ただ、痛みを我慢してスポーツを継続して慢性化したり、完全にポキッと折れてしまったら、ギプス固定ばかりでなく場合によっては手術が必要となります。
第5中足骨の基部の骨折はサッカー選手で多く発生します。この骨折は非常に治りにくく、手術を早期に行うこともあります(図1)。また、大腿骨頚部(股関節の付け根)の疲労骨折の場合、安静や松葉杖を使用して体重をかけないようにしたほうが安全と思われます(図2)。
【予防】
 疲労骨折は過度の負担がかかることで起こります。O脚や硬い路面でのトレーニングなど、骨格や環境なども一因となります。また、女性のランナーでは月経異常が起こり易く、ホルモンの関係で骨塩量が低下し骨折がおきやすくなると言われています。しかし、一番の原因は使いすぎによる負担の増加ですので、これを改善することが最も重要です。環境や用具に対する配慮も必要となります。
 
 
『膝蓋骨骨折』 森川 圭造(森川整形外科医院)
 膝蓋骨は、膝の関節の前方に存在し、一般に「膝のお皿の骨」と言われている丸い骨の事です。この膝蓋骨は、膝の動きを滑らかにする役目を持ち、すなわち膝の曲げ伸ばし運動を効率良く行うために、動きの中心として支えています。  
 膝蓋骨骨折は、転んで膝をぶつけた、階段などの角に膝をぶつけた、或いは膝の上に物が落ちて来て当ったなどの原因で骨折します。  
 図1の様に、膝蓋骨が骨折すると、2つあるいはそれ以上の骨のカケラに割れ、大腿四頭筋腱と膝蓋腱という筋腱によって引っ張られ、骨折部が引き離されていきます。そうなりますと、自分の意思では膝がうまく動かなくなります。そして膝が激しく腫れ、押さえると非常に痛みを感じる様になり、場合によっては、膝蓋骨のあたりに窪みを触れることができ、骨が折れているのが分かることもあります。
 膝蓋骨骨折の治療は、手術を行わない保存的治療と手術を行う外科的治療の2つがあります。保存的治療は、膝蓋骨が骨折しても、折れた骨のカケラがあまり引き裂かれなかった場合に行われます。具体的には、太ももから足までの長いギプスを巻いて固定したり、装具という特殊な固定具をつけたりして、膝をまっすぐに伸ばした状態で約1ヶ月程度固定します。その後、膝の曲げ伸ばしのリハビリテーションを開始していきます。
 外科的治療法は、膝蓋骨が骨折して、折れた骨のカケラが引き裂かれた場合に必要です。小さな骨のカケラによる骨折が多いので、細い針金を巻いて固定する方法が良く行われています(図2)。このようにして膝蓋骨を包んでいる筋腱の強い引っ張る力に対抗して、骨折した膝蓋骨が引き裂かれるのを防ぎます。膝蓋骨を大変強く結び付けるので、手術後は、早々に膝の曲げ伸ばしやそのまま歩行することが出来でき、リハビリテーションの期間も短縮出来る長所を持っています。
 このように膝蓋骨を骨折したと思われる場合には、まず、応急的な対処として、膝をまっすぐにして、添え木を用いて、膝をまっすぐに維持できるように努めてください。そして膝のあたりを氷か冷水で冷やして下さい。その後、専門医に相談をし、その治療方針を決めて頂くのが最良と思います。


図1
受傷時。膝蓋骨が骨折し、折れた骨のカケラが引き裂かれている。


図2
 手術治療後。まっすぐな硬い針金で骨折を固定し、その針金に細い柔らかい針金を巻き付ける。この方法によって、折れた骨のカケラが引き裂かれるのを防ぐことができる。
 
『肘頭骨折』 森川 圭造(森川整形外科医院)
 肘頭は、肘の関節の後方に存在し、一般に「肘鉄」と言われる肘の頂点の部分です。この肘頭の役目は、上腕と呼ばれる二の腕と前腕とを繋ぐ蝶番の働きをし、肘関節の曲げ伸ばしを滑らかにすることです。  
 一般に肘頭骨折は、転んで肘をぶつけた、転んだ時に手をついたなどの原因で骨折すると言われています。図1の様に、肘頭が骨折すると、そこに付着している上腕の後ろに存在する上腕三頭筋という太い筋腱によって引っ張られ、肘頭は破断し、その折れた骨のカケラが引き裂かれた状態になります。そうなりますと、肘の動きが自分の意思ではうまく動かなくなり、肘の働きは損なわれ、そして肘の当りが激しく腫れ、押さえると非常に痛みを感じる様になります。場合によっては、肘の当りに窪みを触れることが出来、骨が折れているのが分かることもあります。
肘頭骨折の治療は、手術を行わない保存的治療と言う方法と手術を行う外科的治療と言う方法の2つがあります。保存的治療は、肘頭が骨折しても、折れた骨のカケラが著しく引き裂かれなかった場合に、この治療法が選ばれます。具体的には、二の腕から手までの長いギプスを巻いて、肘を少しに伸ばした状態で約1ヶ月程度固定します。その後、肘の曲げ伸ばしのリハビリを行って治療する方法です。
 外科的治療法は、肘頭が骨折して、折れた骨のカケラが著しく引き裂かれた場合は、この治療法が選ばれます。肘頭骨折は、細い針金を巻いて固定する方法が良く行われています(図2)。また骨折した骨のカケラがバラバラになって沢山ある場合は、金属のプレートを用いて固定する方法も行われています(図3)。この2つの固定方法によって上腕三頭筋腱の強い引っ張る力に対抗して、骨折した肘頭が引き裂かれるのを防ぎます。これらの方法は、骨折した肘頭を大変強く固定出来るので、手術後は、早々に肘の曲げ伸ばしを行うことが出来、治療後のリハビリの時間も短縮出来る長所を持っています。
 このように肘頭を骨折するような怪我をした場合は、まず応急的な対処として、肘を少し曲げた状態にして、救急用の副木を用いて、もしそれが無ければ、それに替わる何かを使って、肘が動かないように努めてください。そして肘のまわりを氷叉は冷水で冷やして下さい。その後、専門医に相談をし、その治療方針を決めて頂くのが最良と思います。

図1
受傷時。折れた肘頭の骨のカケラは、引き裂かれている。


図2
手術治療後。細い針金で結び付け固定する。この方法によって、折れた骨のカカラが引き裂かれるのを防ぐことができる。


図3
手術治療後。骨折した肘頭の骨のカケラがバラバラに沢山ある場合は、このように金属のプレートを用いて固定する。
 
『舟状骨骨折 -20歳代の人が手をついたら舟状骨骨折を疑え-』
 矢島 弘嗣(奈良県立医科大学整形外科学教室)
 転倒により手のひらを伸展位で地面につくと、ふつうは橈骨遠位端骨折(コーレス骨折)がおこります。ただし、10代後半から20代の青年が強くこの状態(手関節が過伸展位)で転倒すると、舟状骨が骨折する事があります。舟状骨とは手首の中にある小さな骨の1つで、ちょうど船の形をしているのでこのような名前が付けられています。スポーツによる受傷が半数近くを占めているのも本骨折の特徴の1つであるす。橈骨遠位端骨折の時のように腫れが強くなく、骨折のずれが小さい場合は疼痛もあまり強くありません。そして病院でレントゲン検査を受けても骨折が見つからないときがしばしばあります。もしも2−4週間後に再検査すれば、レントゲンに骨折線が現れて診断がつくといった患者さんも多くみられます。そこで受傷したときに舟状骨骨折を疑うのは、「解剖学的嗅ぎタバコ入れ(図1)」に圧痛がある場合であ(あをとる)す。もしもレントゲンで骨折線が見えないときでも、この部位に圧痛があれば本骨折を疑い、ギプスで固定を行うのが無難です。そして2−4週後にもう一度レントゲン検査をして、その時に何もなければただの捻挫であったと診断できます。しかしながら最近はいろいろな診断機器が開発され、そのなかでもMRIを用いれば、レントゲンで骨折線が認められないような患者さんでも、確実に本骨折を診断することができるようになってきています(図2)。治療は保存療法と手術療法があります。舟状骨骨折は骨がつきにくい骨折の代表格の1つです。とくに近位部での骨折は、近位骨片が壊死(血行障害により骨が死ぬこと)に陥りやすいために、骨癒合まで3ヵ月近くを要することもあるし(ありますし)、ギプス固定を長期間行っても骨癒合が得られない場合も少なからずみられます。最近は固定用のスクリューがいろいろと開発され、ずれているような骨折や壊死になりやすいような骨折はもちろん、今までならギプス固定で治療したようなタイプの骨折に対しても、積極的に非侵襲的な手術(1cm程切開して、レントゲン透視下にスクリューを刺入する)が行われるようになってきています(図3)。手術をすることによりギプス固定が不要になることから、スポーツや重労働は無理であっても、タイプ、食事などの日常生活をはじめ、車の運転も少し慣れば行うことができます。1ヵ月も2ヵ月もギプスを巻くよりも、外来で行える簡単な手術によって骨折による日常生活の制限を最小限にとどめることができるために、若い患者さんには積極的に勧めて良い治療方法です。またお年寄りの患者さんが長い間ギプス固定を行うと、手の拘縮(手首が動きにくくなる)が生じやすく、そしてギプスをはずしてからも長い間リハビリが必要なこともあるので、高齢者に対しても手術が勧められます。

図の説明
図1
解剖学的嗅ぎタバコ入れ。長母指伸筋腱と短母指伸筋腱にかこまれた部位。舟状骨骨折の際、この部位に圧痛がある。


図2a
27歳、男性。受傷後4日目のレントゲン像。骨折線は不明瞭である。


図2b
同日のMRI像。腰部での骨折が明らかである。


図3
2つのねじ山を持ったヘッドレススクリュー(締めていくと圧迫がかかる)による骨折の治療
 
『上腕骨近位端骨折』 井上 尚美(東北労災病院 整形外科)

 上腕骨は、肩関節から肘関節をつなぐ骨で、上腕骨近位端とは、肩関節近くの部分です(図1)。肩関節は、関節の中で最も大きな可動域を持つ関節であり、上腕骨近位端骨折は、骨に付いている筋肉、腱により最大4つの部分に分かれて転位します(図2)。上腕骨近位端骨折は、若い人ではスポーツや交通事故などの強い外力によって生じ、小児では骨端線(成長線)を含んで損傷する場合もあります。高齢者では転倒などの軽い外力で生じることが多く、大腿骨近位部骨折(股関節)、橈骨遠位端骨折(手関節)、脊椎圧迫骨折と並んで高齢者に多い骨折の一つです。
【検査・診断】
 単純]線撮影で診断が可能ですが、治療方法を決めるためには、骨折の転位程度の評価が重要になり、CT検査が情報を得るために、有効です。
【合併する損傷】

  • 神経損傷:肩関節の挙上などの機能障害に影響します
  • 脱臼:骨折単独の場合と比べて、治療法が異なります

【治療法】
 転位のない骨折は、保存的治療の適応であり、三角布などで固定し、臥床、起床動作時に肩関節を安定させるため、バストバンドなど体幹に固定します。固定期間中も手指の腫れを軽減させるため、手指の運動を積極的に行います。痛み、腫れの軽快に応じて、可動域訓練を開始し、3週間は固定を行います。
 手術適応は、骨折分類に従って行われ、骨折部の転位の程度が重要です。手術的治療の目的は、骨折部の安定性を得ることで痛みを早期に軽減させること、整復された位置で骨癒合を得ること、骨折を起こす前の肩関節の機能を獲得することを目的に手術的治療が選択されます。
 手術方法は、鋼線などを用いる方法から、近年は、新しい固定材料である髄内釘固定法(図3)やプレート固定法(図4)が行われます。脱臼骨折の場合には、人工骨頭置換術が行われる場合もあります(図5)。
 肩関節は、肩関節周囲炎(いわゆる五十肩)で知られるように拘縮(こうしゅく)しやすい関節なので、保存的治療、手術的治療ともに、骨折部の安定性(固定性)を得ることにより早期に後療法(可動域訓練)を開始することが大切です。
【合併症・後遺症】

  • 骨癒合遷延(こつゆごうせんえん)、偽関節(ぎかんせつ):全ての骨折の合併症として骨癒合の期間が遅れたり(遷延)、骨癒合しない(偽関節)場合があります。その時は、再手術が必要になります。
  • 変形治癒:重大な機能障害を残す場合には、手術的治療が必要になります。
  • 肩関節可動域制限:骨折する前と比較して、関節の動きの制限が残ります。
  • 上腕骨頭無腐性壊死(じょうわんこつとうむふせいえし):特殊な骨折型や脱臼骨折の場合に血行障害により上腕骨頭(関節部分)の壊死が起こる場合があります。骨癒合が得られても、関節の変形を起こる場合もあります。
図1 肩関節(□が、上腕骨近位端)

図2 骨折の転位

図3 髄内釘固定法

図4.プレート固定

図5 人工骨頭置換術(▲が骨頭骨片)
 
『前腕の骨幹部骨折』
高畑 智嗣 (江戸川病院)

【部位】
 前腕(肘と手首の間)には橈骨(とうこつ)と尺骨(しゃくこつ)の2本の細長い骨があり,ともに両端が肘関節と手関節(手首の関節)を形成します(図1).手関節では母指(親指)側にあるのが橈骨,小指側にあるのが尺骨です.肘関節では外側(色黒で毛の生えている方) にあるのが橈骨,内側(色白で毛の生えていない方) にあるのが尺骨です.橈骨と尺骨は前腕骨と呼ばれることがあります.橈骨も尺骨も両端は膨大しており,それを除いた中間の細い部分を骨幹部と呼びます.骨幹部の骨折が骨幹部骨折です.

【症状】
 前腕の骨幹部で骨折すると,強い痛みや腫脹が出現します.橈骨と尺骨がともに折れると,通常、前腕はその中央部で大きく変形します.橈骨か尺骨の一方のみの骨折では、あまり変形しないこともあります.

【生じ得る合併損傷】
 骨が折れるほどの強い力がかかると,骨以外の組織も傷つく恐れがあります.皮膚が破れて出血することがあり,そのキズが骨折部につながっていれば開放骨折と呼ばれます.その場合,骨折部に体外の細菌が進入する恐れがあるので,治療が格段に複雑になります.皮膚に傷が無くても,血管が傷ついて手の血流が低下したり,神経が傷ついて手の感覚がしびれたり指が動きにくくなることがあります.また,肘関節や手関節の脱臼を伴う事があります.そのうち尺骨の骨幹部骨折に,橈骨の肘関節における脱臼が合併したものはモンテジア骨折と呼ばれ、脱臼になかなか気が付かないことがあります.

【治療】
 救急処置としては,痛みをやわらげ内出血を止める目的で,上腕から手まで副子(副木またはシーネ)をあてがって前腕部分が動かないようにします.皮膚に傷がありそれが骨折部につながっていそうな場合は,すぐに整形外科か救急病院を受診する必要があります.手の血流が低下したり神経が傷ついた場合も同様です.
この骨折の治療の要点は,変形せずに骨癒合させることです.変形して骨癒合すると,前腕の回旋(肘を動かさない状態で手のひらを返す動き)が制限されることがあります.また、橈骨と尺骨の長さに不均衡が生じて骨癒合すると,手関節に痛みが生じることがあります.なお,この骨折の骨癒合には時間がかかる事が多く,時に骨がつかない事もあります.
小児の場合は,骨折部が折れ曲がっただけだったり,骨折部のズレが小さい事が多いです.また,小児は骨癒合する能力が高いだけでなく,たとえ変形して骨癒合してもそこから本来の形に戻ろうとする能力があります.したがって小児では保存療法(手術しない治療方法)が成功する事が多いです.保存療法では,変形を出来る限り矯正し,上腕から手までギプス固定します(図2).
大人の場合は手術療法を要する事が多いです.手術では骨折部を露出して整復し,プレートと骨ネジで固定します(図3).あるいは骨折部を露出しないで,離れた部位から髄内釘や鋼線を挿入します.骨癒合後のプレートの抜去が早いと,同じ場所で再骨折することがあります.
この骨折では,手や指を動かす筋肉が骨折部の周囲で癒着する事があります.そのため保存療法であれ手術療法であれ,手や指を動かすリハビリテーションが重要です.また,折れた腕を動かさないようにしていると,肩関節が固くなってしまうので,肩の運動も重要です.
以上述べましたように,前腕の骨幹部骨折はなかなか厄介な骨折です.順調にいっても完治まで時間がかかりますし,順調にいかない事もあります.整形外科医とともに,治療にじっくり取り組んで下さい.

図1

図1.右手の前面を実体と骨格模型で示す.
矢印が橈骨(とうこつ)

図2

図2.小児の橈骨と尺骨の骨幹部骨折.手術せずにギプスで治療した.
変形して骨癒合したが,2年後には変形はかなり改善した.

図3

図3.大人の橈骨と尺骨の骨幹部骨折.プレートで固定した.