旧広島市民球場の解体と跡地利用計画への是非を問うため、市民グループが実施を求めた住民投票を、広島市は立て続けに却下した。いずれも「市政運営上の重要事項ではない」という理由だ。住民投票は、市民の意思を市政に反映させるための手段だが、市当局の裁量で門前払いされた。同市の「常設型住民投票条例」は03年の施行時、「先駆的」と称賛された制度だが、不備を指摘する声が出ている。【寺岡俊】
2件の請求は、市民団体「旧広島市民球場の歴史と未来を守る会」(土屋時子代表)が9月に起こした。広島市の制度は、案件ごとに議会で条例を制定する必要はないが、実施には有権者(18歳以上の市民と永住外国人)の10分の1(約9万5000人)以上の署名を1カ月以内に集めなければならない。しかし、市は2件とも署名集めに入る前に却下した。
同会は、解体を巡る請求が退けられた直後、市の処分取り消しを求めて広島地裁に提訴。住民投票手続きを「不当」として法廷に持ち込んだ異例の訴訟となった。メンバーは「署名集めのハードルは高いと思っていたが、門前払いとは……。重要事項とは何なのか」と憤る。跡地利用計画を巡る請求についても、行政不服審査法に基づく異議を申し立てた。
球場解体は市議会を通過した経緯はあったが、広島の復興に詳しい石丸紀興・広島国際大教授は「旧市民球場は市民生活の復興に大きな役割を果たした。解体の賛否を住民投票で問う意義はあった」と言う。「重要事項かどうかを決めるのは、あくまで住民」と指摘するのは、新藤宗幸・千葉大教授(行政学)。「市が進める事業の是非を問う住民投票の可否を市長が判断するのは矛盾し、制度として破綻(はたん)している。形だけの住民投票制度と言われても仕方ない」と酷評する。
03年に制度が成立する際、その仕組みを巡って秋葉忠利市長と市議会は対立した。当初案は、発議権を市長、市議会、市民にしていた。市議会側は「乱用により市長の権力強化につながる」と反発し、発議権は市民に限られた。議会からは今、制度の見直しを求める声も聞かれる。
公明党の平木典道市議は「『市の都合に合わなければ却下する』と受け取られないよう、基準を示しては」。薫風会の母谷龍典市議は「重要事項かどうかの判断は、第三者機関で扱うべきだ」と提案する。新保守クラブの三宅正明市議は「そもそも人口100万人を超える都市に、住民投票はなじまない。公聴会の機能拡大など、別の方法で住民の意見を吸い上げる仕組みが必要」と語る。
住民投票制度のあり方と理念が、改めて問われている。
毎日新聞 2010年11月11日 地方版