中国新聞オンライン
中国新聞 購読・試読のお申し込み
サイト内検索

欠席・不眠…心に傷 浜田学生遺棄事件1カ月<下> '09/12/8

 ▽不安消えぬ街 地域挙げて警戒・巡回

 「机を並べた知人の死は大きなショック。きちんと向き合いたいけど目前の就職活動も忙しくて…」。犠牲になった島根県立大1年平岡都さん(19)と同じ授業を受けていた3年の男子学生(21)は、心のつかえを感じながら日々を過ごす。

 遺体発見から1カ月。授業は平常通り、キャンパスは表向き平静さを取り戻した。しかし、同大の特別心理カウンセラー小村俊美さん(62)は「犯人が捕まらない中で不安を押し殺した状態。それだけ、みんなのストレスは大きい」と言う。

 ショックで一時帰郷するなど欠席した学生は28人。不眠や食欲不振などを訴え学内カウンセラーを訪れたのは40人以上。1カ月過ぎ、大半が安定してきたが、今も数人が通う。

 ▽うわさが交錯

 市民の不安も収まらない。「怪しい車や人を見た」「犯人はまだ市内にいるのでは」。インターネットの普及もあり、無責任なうわさも飛び交う。残忍な手口とともに、最近になって、平岡さんのものとみられる靴が見つかるなど事件、捜査はなお進行形。夜の人通りは減り、官公庁などの宴会自粛も続く。

 市中心部のある宴会場は「年末にかけて、例年開かれる各種会合の予約が15件くらい減った。まだ落ち着いていない」という。

 人口約6万人、高齢化率30%を超す同市で県大生は約千人。半数は飲食店など夜間アルバイトで働く。「夜道が怖い」「バスの最終が早い」…。こう学生たちは指摘する。平岡さんの行方が分からなくなったのは夜間のアルバイト帰り。その平岡さんも帰宅ルートの「夜道が気味悪い」と漏らしていたという。

 「大学を核としたまちづくり」を掲げる市にとっても重大問題。安全と安心を取り戻そうとする取り組みが官民で始まった。市は、遺体が確認された11月7日に危機管理警戒本部会議を開き、5日後には平岡さんの暮らしていた学生寮近くの街路灯増設を決めた。石見交通は12月から、路線バス大学線の最終便を繰り下げた。

 ▽「早期解決を」

 市民がマイカーを走らせる青色防犯灯パトロール隊は11月9日に出発式をし、10台余りが年明けまで夜間警戒を続ける。市東地区防犯協力会の横田重実副会長(72)は「高齢者のボランティアだが市民や学生に少しでも安心感を与えたい」。大学職員の夜間巡回も続く。

 同月30日開会の市議会定例会は「犯罪のない安全で安心のまちづくり」を決議し、街頭防犯カメラの設置や、犯人逮捕を目指す懸賞金創設などを市に求める質問が相次いだ。広島県内の大学生が広島市で事件の情報提供を求めるチラシを配布するなど市や県を越えた支援の輪も広がる。

 保護者たちでつくる県立大後援会の佐古肇徳会長(57)は「行政や団体の動きは親としてありがたい。重大犯罪を目の当たりにすると、防犯カメラもやむを得ない時代かと感じるが、もともと治安はいい地域。今は早期解決を願うだけ」と祈る。

【写真説明】大学近くを巡回し、帰宅する女子学生に付き添う島根県立大の教員(7日午後9時5分、浜田市)



MenuTopBack