原生自然保護協会のメンバーが訪日

オーストラリアの森林伐採問題を訴える

 7月24日から28日にかけて、原生自然保護協会(The Wilderness Society; TWS)の西オーストラリア支部から、2名のメンバーが訪日し、日本製紙連合会や丸紅への訪問、国会議員とのワークショップへの参加、消費者団体への協力の呼びかけ、講演会の実施など、ハードスケジュールをこなした。今回の訪日についての報告に加え、これまでのJATANを含めた日本のNGOの主な活動について報告する。

オーストラリアの森林と伐採

 今や、森林はオーストラリアの国土面積のたった5%を占めるに過ぎない。しかし、国土が日本の20倍もあるため、森林面積は日本より大きい。

 オーストラリアには、世界で最も高い顕花植物(花をつける植物)が存在する。ビクトリア州にあるユーカリのレグナン種は、132mにも達するものがある。オーストラリアの森林には、同国の陸上動物の半数以上の種と、約75%の植物が存在している。

 ヨーロッパ人の移住以来、オーストラリアの半分の森林と75%の多雨林が失われ、90%以上のオールドグロース林(注)が伐採された。多雨林は、国土面積の0.5%、オールドグロース林は1%以下になってしまった。そのため、コアラを含め、様々なオールドグロース林に依存して生活する100種類以上の動物が絶滅に瀕している。

 オールドグロース林は、動物や鳥類の生存にとって、他のどの地域よりも重要である。約180種類の野生動物は、オールドグロース林にしか見られない、木の穴で生活している。

 オールドグロース林は、すべてのオーストラリアの人々にとって遺産のひとつであり、生活の場である。これは、土地と深い宗教的・文化的なつながりを持って暮らしているオーストラリアの先住民アボリジニーにとって、特にそうである。アボリジニーの文化や精神的な疎通は、そこから来ている。

 残念なことに、このオールドグロース林は、現在も驚異的なスピードで伐採が続いており、二度とオールドグロース林に戻ることはない。オールドグロース林が失われ続けていることにより、多くの動物や鳥類が絶滅の危機にさらされている。オールドグロース林は、現存する森林の8%以下でしかない。

 オーストラリアで行われている集中的な伐採は、森林生態系に大きな影響を及ぼしており、その多くは元に戻ることはない。森林伐採は、広範囲にわたる道路の建設を伴い、永久的な森林の消失と火災の発生、病害を招く。森林生態系は断片化され、多様性や、穴を持った老齢巨木などのような様々な生息環境が広範囲にわたって失われてしまう。水は汚染され、土壌はブルドーザーなどの大きな機械によってかく乱され、栄養分は失われる。

 オーストラリアの多くの森林が伐採され、木材チップとなっている。残存する森林は、オーストラリアの旅行業界、養蜂業者、上質な木工芸品の職人にとって、より価値がある。

(注)オールドグロース林:樹齢200年から1,000年の樹木が大勢を占める森林。日本で使われている「原生林」という言葉は、天然のままで人手の加えられていない森林を指すが、オールドグロースと原生林は、ほぼ同じものと考えてよい。

コアラも伐採の影響を受けている 

地域森林協定は壮大な失敗

 地域森林協定(Regional Forest Agreement; RFA)は、中央政府と各州政府との間で結ばれる協定で、オーストラリアの森林問題を解決し、産業界に安定的な原料供給を与えることを意図したものであった。しかし、一部の例(クィーンズランド州)を除いて、失敗に終わっている。

 この協定の主な問題点は、以下の通りである。

(1)伐採業者に20年間のオールドグロース林の伐採を許可していること

(2)全ての関係者の意見を聞くことが求められているが、実際には伐採業者の利益を優先していること

(3)科学的な調査は、主として政府によって行われており、そのレビューは行われていないこと

 ニューサウスウェールズ州、タスマニア、ビクトリア州では、州政府や企業に対する地域森林協定を覆すための、強力で直接的な市民の圧力がかかっている。

高まる伐採への反対行動

 連邦政府や州政府が天然林を保護・再生させることに失敗していることに、オーストラリアの国民は、次第に怒り始めている。

 オーストラリアのすべての主要な木材チップ会社に対して、(会社の事業への反対を訴えるための)株主グループがつくられた。これらの企業の多くは、操業における不確実な面やリスクがあるため、木材部門を売却しようとしている。

 最近12ヶ月の間、多くの自治体は、木材会社に対する業務や助成を取りやめることを決定し、国内の消費者は、木材需要として次第に植林木を使うようになっている。

 1999年7月に、カンタム・ハリス社が行った世論調査では、以下のような結果が出ている。

◇74%の人々が、オールドグロース林の伐採に反対

◇83%の人々が、オールドグロース林を木材チップ用に伐採することに反対

◇87%の人々が、オールドグロース林を皆伐することに反対

◇76%の人々が、オールドグロース林は保護すべきと考えている

 また、多くの科学者たちは、オールドグロース林の伐採や天然林の木材チップのための伐採を減らし、オールドグロース林の保護面積を増やさなければ、多くの種が絶滅に追いやられるであろうと警告している。

西オーストラリア州、カリの森 

日本が96%もの木材チップを購入している

 日本の木材チップ輸入は、世界貿易の70%を占めており、その27%をオーストラリアから輸入している。逆に、オーストラリアから輸出される木材チップの実に96%が日本向けである。従って、オーストラリア各地において、日本企業が伐採や木材チップの購入に関わっている。

 ニューサウスウェールズ州のエデンにあるハリス大昭和は、伊藤忠商事が80%を出資している会社である。大昭和製紙は、来年の1月に向けて、日本製紙との統合を進めている。大昭和製紙は、オーストラリアの天然林を自らの工場で木材チップに加工している唯一の日本企業である。ニューサウスウェールズ州の南部の森林と、ビクトリア州の東ギプスランドから、毎年約80万m3の天然林木材チップを輸出している。

 三菱製紙と王子製紙は、タスマニアの木材チップの主要な購入者である。

 丸紅は、西オーストラリア州の木材チップのすべてを購入しており、北越製紙や日本製紙、名古屋パルプ(大王製紙の子会社)に売り渡している。

 日本製紙は、西オーストラリア州、ビクトリア州、タスマニアにおける、主要な購入企業である。

オールドグロースから植林木への転換を!

 オーストラリアには、すでに約100万ヘクタールの木材生産のための植林地がある。オーストラリアの天然林からの木材チップの輸出量の大部分は、今すぐにユーカリ植林木にとって替えることができ、2〜3年後には完全に転換できる。

 植林供給に関する独立の専門家である、オーストラリア国立大学のジュディ・クラーク氏は、報告書を提供しており、以下の3点を結論付けている。

(1) 4〜5年後には、現在オーストラリアが輸出している、天然林を伐採した木材チップの量を代替できるだけの、十分なユーカリの植林木の供給が得られる。

(2) 現在入手可能なユーカリ植林の量から考えると、オーストラリアから輸出される木材チップの量を維持するために、オールドグロース林を伐採する必要はない。

(3) 西オーストラリアのユーカリ植林は、現在も毎年120万m3の木材を供給し得る。これは、現在西オーストラリアの天然林が木材チップのために伐採されている量より多い。したがって、天然林の木材チップ用伐採を直ちに高品質の植林木による木材チップに転換することができる。4〜5年後には、西オーストラリア州からの植林木の供給量は、オーストラリアが輸出している天然林の木材チップの量を十分に置き換えることができると予想されている。

 植林木が利用されない大きな理由は、それがオールドグロースを伐採したものよりも高価格であるからである(植林木は、数あるユーカリ種のうちの1〜2種のみを用いるため、均一で高品質なものが得られる)。それに対して、オールドグロースは、非常に安い伐採権料しか払う必要がない。

実りの多かった今回の訪日

 今回訪日したのは、原生自然保護協会西オーストラリア支部のキャンペーン・コーディネーターであるデイビッド・マッケンジー氏と、森林キャンペーン担当のリンダ・シダル氏の2人である。日本の受け入れ団体として、JATANの他、地球の友ジャパン及びレインボーパレード実行委員会が、それぞれの会合や訪問を準備、手配した。

堂本議員に手紙を手渡すデイビッド氏 

【国会議員との勉強会】

 GLOBEインターナショナル総裁である堂本暁子参議院議員のはからいにより、国会議員会館において“オーストラリアの森林伐採と日本の木材チップ貿易”と題した勉強会を開催することができた。当日は、3名の国会議員と7名の議員秘書が参加した。

 デイビッド氏は、オーストラリアの森林伐採の現状などを説明し、植林木への転換を日本側から進めてもらうよう要望した。また、オールドグロース林の伐採を禁止する政策を掲げ、支持率を伸ばしている“森林のための自由党”党首からの同様の内容の手紙を、堂本議員に手渡した。堂本議員は、「森林伐採は生物多様性の破壊につながる」とし、GLOBEインターナショナルのメンバー700名に、その手紙を配ることを約束した。

【日本製紙連合会との会合】

 昨年11月より、JATANを含めた東京に活動拠点を置く4つのNGOが、木材チップ用伐採等をテーマにして、日本製紙連合会との定期会合を行っている(この頁の上段部分参照)。そこに今回の訪日者を招く形になった。

 デイビッド氏は、オーストラリアの森林伐採の現状説明の他、伐採に対する市民の反対が高いこと、オールドグロース林の伐採を禁止する政策を掲げている新党の支持が高くなっていること、森林に関する中央政府と州政府の協定である地域森林協定(RFA)が、伐採企業よりにつくられていること、植林地からの供給量が十分になっていることなどをあげ、オールドグロースから植林木への転換を求めた。それに対し、連合会側は、植林木の供給量については見解が異なるとして、要求を退けた。

これまでの日本製紙連合会との会合の概略

 NGOと日本製紙連合会との定例会合は、昨年の11月から開始された。定例会合を設置して参加を呼びかけたレインボーパレード実行委員会のほか、JATAN、地球の友ジャパン、グリーンピースジャパンが参加している。

 森林伐採と紙生産との関わりについて、連合会は「紙を生産することによって森林を破壊していることはない」「天然林は伐採しているが、原生林は伐採していない」と、NGO側の見解と全く異なった主張を繰り返すばかりで、当初は全く進展が見られなかった。しかしタスマニア森林伐採のビデオを上映したり、オーストラリアからの訪日者が参加して、原生林が伐採されていることを訴えると、「大きな木が切られている」と感想を述べたり、「現地の伐採業者から得た情報を伝えているだけ」と言うなど、態度を変えてきている。

 NGO側は、型枠合板使用量を5年間で24%自主的に削減した建築業協会の例を紹介し、製紙連へも同様の取り組みを求めたり、間伐材を含めた国産材の利用推進を共同で政府などに呼びかけていくことを提案したり、オーストラリアへのエコツアーへの参加を呼びかけたりしてきているが、これまでは全く応じていない。

 また、植林木への原料転換の可能性については、現在も両者で見解が異なったままになっている。

【信越化学】

 西オーストラリアの森林から得た木材のもうひとつの主要な消費者は、信越化学の子会社のシンコア社である。シンコア社は、ユーカリの一種であるジャラの丸太を購入し、産業用の木炭として使用している。ジャラの森林はほとんどがオールドグロース林であり、持続可能でない伐採が行われている。シンコア社は、高品質のシリカを生産し、信越化学がシリコンの製造のために購入している。

 信越化学の対応は初めからスムーズであった。訪問の約束の電話をした直後に、担当者は現地に赴き、現地視察を行った他、今回の訪日者とも面会した。

 訪問当日の回答は、「州政府の説明を信じていたため、原生林破壊については知らなかった。古木の空洞に住む動物についても、今回の現地視察で初めて知った。代替品の経済性の問題もあり、原生林からの原料使用をいつ止めるかは約束できないが、早晩代替材に転換する用意がある」と、前向きの姿勢を示した。現地NGOからの情報を今後も歓迎すると答えるなど、2名の訪日者もこの訪問については評価している。

[信越化学の訪問については、地球の友ジャパン 岡崎氏の報告より]

【丸紅】

 丸紅は、西オーストラリアで生産されている全ての木材チップを購入し、日本に輸入している。輸入された木材チップは、北越製紙や日本製紙、名古屋パルプが購入している。また、西オーストラリアで伐採と木材チップ加工を行っている現地企業ウェスファーマ社が、オールドグロース林伐採に対する市民の批判が高まっていることから、操業を丸紅に売り渡そうとしているという噂が現地で広まっている。

 当日の会合には、地球環境課と広報部の担当者が出席したのみで、直接の担当部署であるチップ部からの出席はなかった。

 デイビッド氏のプレゼンテーションの後、地球環境課の大角課長は、「持続可能な開発と会社経営とのバランスを考えている」「オーストラリアの法を守ってやっている」「オーストラリアの問題ではないか」と、全く誠意のない回答に終始した。訪日者側は、最低限の義務を果たすだけでなく、環境や会社としての責任を考えて欲しい旨を訴えた。

【講演会】

 7月27日には、国立オリンピック記念青少年センターにて、一般講演会を開催した。広報期間が短く、参加者が集まるかどうかが心配されたが、40名が定員の部屋は満席となり、全員が熱心に講演内容に耳を傾けた。

 デイビッド氏は、オーストラリアの森林や伐採の現状、絶滅が危惧されている動物、オーストラリアの市民の反対行動や世論調査結果について話した。その後の質疑応答では、地域森林協定の問題点や、ユーカリ植林の影響や非木材原料の利用などの質問が出され、この問題に対して高い関心を持ってもらえたようだ。

 以上、2人の訪日者は、4日間で7カ所の訪問と3つの会議、2つの取材というスケジュールを精力的にこなし、帰国した。3つの消費者団体への訪問でも、この問題に高い関心を持っていただき、それぞれの機関誌で取り上げてもらうことになった。また、毎日新聞と環境新聞には、これに関する記事が掲載された。

 日本との関係が大きいにもかかわらず、ほとんど知られていないこの問題を、多くの人に知ってもらうことができたと思っている。企業の行動を変え、私たちの生活を見直すきっかけになることを望んでいる。■

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